ドラマ収録終盤4
‟おはようございまーす。あれえ、みつきちゃんもういいの”
王妃役の名取が休憩室に入ってきて荷物を置きながら声をかける。
‟はい、すみません。ご迷惑おかけしました”
結局みつきは二日寝込んでしまった。幸い地方ロケの撮影は済んだので、ともやのケガの事もあり室内の撮影は少し中断してもいいという渡利の判断だった。
‟大丈夫よー。大体まだそんなに暑い季節でもないのににずぶぬれとか、風邪ひくにきまってるじゃないねぇ”
名取は素顔は王妃というより姐さんぽい。
‟でも、元気になってよかったわね。ところで何してるの?”
とみつきの手元をのぞき込む。みつきの隣には護衛役の一人の男の子がいてテーブルにテキストのようなものを広げている。みつきは衣装を着ながら眼鏡をかけてペンを持ち計算式を書いていた。
‟これ、俺の大学の課題なんですけど、結構難しくって。みつきさんに教えてもらってるんです”
‟みつきさん、すごいんですよ。俺もこの前数学教えてもらったんですけど、わかりやすくて”
と、もう一人の子も言う。
‟へえー顔に似合わず、頭いいのね”
‟どういう意味ですか?名取さん”
‟ごめんごめん、深い意味ないのよ。あれ?でもみつきちゃん、結構前からモデルで忙しくしてたけど大学とか行ってんだっけ?”
‟今は休学中です。スイスの大学行ってるんですけど、忙しくなって。物理勉強してます”
‟何それ”
‟小さいころタイムマシーンを作りたかったんで”
‟なんだか頭がいいんだか悪いんだかわからない思考ね”
と名取は呆れ顔で言う。
‟モデルともかけ離れてますよね”
‟でもみつきさん、この前は立花さんと戦国時代の武将の話で盛り上がってたじゃないですか。立花さんて歴女?じゃないか、歴男?で有名なんですよ”
とほかの子も言う。
‟小さいころから歴史も好きだったから”
と、みつきはにっこり笑う。
‟はー”
と、名取もその場にいる男の子たちも感心する。
‟撮影始まりまーす。みつきさん、入ってくださーい”
‟はーい”
といってみつきは眼鏡をはずし衣装をたくし上げながら部屋を出て行った。
残された者たちは顔を見合わせる。
‟あの顔、あのスタイル、カリスマモデルで大手事務所の社長が父親。おまけに頭も半端なく良いって、反則だろ”
と一人がぽつりと言う。
‟これで性格が悪ければ意地悪もできるのに、性格までいいときた”
‟名取さん、本性出てますよ”
と、若者の軽口に名取がぺチンと頭を叩く。
‟でも一時期パーティー三昧のわがまま王子とか言われてましたよね。一緒に仕事してるとイメージかけ離れてますけど”
‟みつきくんは基本まじめで一生懸命なんだよ。いつも欲しいものを手に入れるためにどんな努力もおしまない。しかもただ一つの大切なものの為なら持っているもの全て迷いなく投げ出すような子だよ”
それが手に入らないって思った時にやけになって荒れちゃった時期もあるんだけどねぇ、とドアのところでコーヒーを飲みながら、いつの間にいたのか渡利が言う。
‟渡利さん、何の話ですか、それ”
‟いや、こっちの話。はいはい、君たちもう行きなさい。今日の撮影が無事に済めば楷君はクランクアップだよ。皆も頑張って。僕はこのコーヒー飲み終わったら行くから”
一人になった渡利は紙コップをくしゃりとつぶした。
先日の玲の反応。ともやは玲がみつきのことをルカ、と呼ぶのを聞いたと言っていた。もしかしたら彼は何か思い出したのかもしれない。玲には荒療治になるが効果は出ている。
ドラマの人気は上々。このままいけばきっと何かが起こる。いや、誰かが動く。それがわからないのがつらいところだがこちらも万全の態勢で臨む覚悟だ。
二度とレシャーンの魂が失われることがないように。そして二度とミシルカの魂が壊れてしまわないように。
今日はレイシャーンの処刑のシーンだ。断罪され、王族や貴族の前で毒を煽って死ぬのだ。これは前世での処刑方法とは違うのだが、渡利の計画でこの方法を取られた。第二部に繋げるために。
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‟玲が楷ともやの代役?”
‟いえ、代役というよりはスタントという感じで”
先日の橋のロケの時、奏一郎はその場にはいなかった。何となく気になり刺客や護衛役の小林と瑠衣人にロケの事を聞いてみたら玲がケガをしたともやの代わりにレイシャーン役を演じたいう。
顔色が変わった奏一郎に小林が慌てて訂正する。
‟顔は出てないし、その場にいる中で楷さんに一番背格好が似ててアクションができるからってだけで”
な、そうだよな、と瑠衣人に同意を求める。だが、奏一郎はもう聞いていなかった。
玲の奴、最近ホントに調子に乗ってんな。
奏一郎に専属マネージャーが付くようになった時は自分の役者としても価値が上がった証拠だと喜んだが、そのマネージャーの所為で玲を連れ軽くことが難しくなった。おまけに玲にもマネージャーが付いたので更にガードが固くなってしまった。
面白くねえな。
奏一郎はイラつきを隠そうともせず、持っていた空のペットボトルを乱暴にゴミ箱に投げ捨てた。




