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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
52/99

ドラマ収録終盤3

 

 川のやや深い所にずっぽり浸かってから大きな岩の上に這い上がる。


 う~冷たい。重い。


 長いマントも纏っているので尋常ではなく重い。その上意識を失っている(設定)のみつきを引っ張り上げるのだ。


 これは誰かほかの人に変わってほしかったなーなどと思いながら、うんとこしょ、と水から出る。救いは水から上がった後も疲れてぐったりしてても構わない事だ。


 もう動けない…


 急いでマントを脱がせられ乾いた大判のタオルで巻いてもらった。一息ついてから大岩の上で立ち上がりみつきの方を見てぎょっとした。

 みつきは蒼白な顔で震えている。


 やっぱり具合悪化したんだ。


 ‟みつきさん、だいじょう…”


 ぶですか、と声をかけようとした時に大きな水音と共に悲鳴が上がった。みつきが川に落ちたのだ。


 とっさに体が動いた。川に飛び降りる。深さは腰上だが幸い流れを積とめた場所なので流される心配はない。頭まで水に浸かってしまったみつきを抱き上げる。

 ”…!“

 みつきに呼び掛けた玲の声に近くまで駆け寄ってきたともやがハッと目を見開いた。

 今何て呼んだ?玲は「ルカ」と呼んでいたように聞えた。まさか記憶が?


 みつきはほとんど意識を失っているかのようだが苦しそうに顔を歪めて咳込んだ。火事場のバカ力であっという間に水から上がって玲はみつきを抱いたまま乾いた地面のある所まで戻った。

 脱がせられる長衣や装飾品を外しタオルとブランケットで水分を取っていく。厳しい表情でそれらの作業を全て玲がしているとようやくみつきが目を開けて弱々しくくつぶやく。

 ‟…“

 ”ここにいる。もう大丈夫だ“

 玲はみつきにだけ聞こえるように小さく応えた。



 ”早くバンに戻って着替えを“

 女性スタッフが慌てて玲を誘導する。玲はそのままみつきを抱え厳しい表情のままバンに入って行った。

 女性スタッフは着替えと薬、温かい飲み物を用意している間、みつきも自分で体を起こせるようになり、玲もほっと一安心し冷静になった。

 ‟玲さんはまた後からもう一回出番ありますけど、時間あるからとにかく着替えてください”


 と言いおいてバンから出て行くスタッフに会釈を返す。

 みつきのマネージャーは忙しいらしく今日は現場まで来ていなかったが連絡を受けてこちらに向かっているらしい。


 ‟みつき君、よく頑張ったね。君は今日はこれで終わりだからゆっくり休んで。医者に行った方がいいよ“

 と渡利も声をかけてから残りの撮影に戻って行った。


 みつきは自分でもたもたと服を脱ぎ始めるが体がだるそうで一向に進まない。仕方なく玲はみつきの濡れた服を脱がして着替えをさせタオルで髪を軽く乾かす。みつきはされるがままだ。タオルで柔らかな髪を包むと白くて長いうなじがあらわになり、玲は何となくドキリとして目をそらした。その後玲も手早く自分も着替えると、

 “風邪薬あるけど飲みますか?”

 とみつきに声をかけた。

 みつきは素直にうなずくと錠剤を水で流し込んで目をつむった。しばらくするとソファに座ったまま眠ってしまったのか、頭がガクンと落ちる。玲はみつきの上半身を横にすると自分は跪いて顔を覗き込んだ。さっきまで青かった顔色が今度は赤い。触れた頬が熱い。

 撮影を止めさせなかったことに後悔しながら玲はため息をついた。


 みつきは夢を見ていた。


 必死で手を伸ばす。手を伸ばしても届かない。行ってしまう。白い花吹雪の中にかき消される彼の姿。


 どうして?ずっと共にあろうと約束したのに!

 行かないで、行かないで!おいて行かないで!


 “…き、みつきさん!”

 名前を呼ばれて目が覚めた。自分が泣いているのがわかる。声の主を見やるが、そこにあるのは自分が夢の中で求めてた人物の顔ではない。

 …でも、私にはお前がわかる…

 淡く微笑んでみつきは両手を伸ばした。

 ‟!”


 泣きぬれた顔のみつきに抱きつかれ、玲は仰天する。

 “どうしたんですか?悪い夢でも?”

 強く抱きしめ返してくれることを期待していたのに、それが得られないことに落胆しながらもおずおずを自分の背中に置かれる手の暖かさに安心する。

 “うん、悲しい夢、見てた。でも大丈夫、…がここにいるから”

 玲の首に回した腕を離さずに玲の肩の顔をうずめながらみつきは答える。

 少しの時間二人は無言そうしていた。


 トントンとノックの音。見るとドアのところに険しい表情をした榊がいる。いつの間にか来ていたらしい。

 玲は慌ててみつきの体を離した。

 “あ…みつきさん、熱があるようで”

 しどろもどろになって説明しようとする玲に榊は

 “聞きました”

 と低い声でこたえる。

 ”あ、朝から具合が悪かったみたいで…“

 玲がそう言ったとたんに榊は玲を睨みつけた。

 ”だったらこんなことになる前にどうして止めてくれなかったんですか?“

 そう言われて玲はぐっと言葉に詰まった。

 その後は無言でてきぱきと荷物をまとめると、まだボーっとしてふらついているみつきを促し自分が運転してきた車へ向かう。みつきを車に乗せると、見送りをしようと車に近づこうとした玲に

 “見送りは結構です”

 と言い放った。

 “え…”

 取り付く島もない言い様にあっけにとられた玲を残して榊は運転席に乗り込み走り去ってった。


 “やれやれ、きついね”

 後ろを振り向くと撮影に戻ったはずの渡利が苦笑いしながら立っていた。

 "はあ…でもやっぱりみつきさんのの事は止めるべきでした “

 “そうかもしれないけど、みつき君だって大人だし、プロだ。やり通したし、結局は自己責任だよ。君が気にすることはない” と、ポンポンと肩を叩かれる。

 その後、ふむ、と思い直したように

 ”あ、僕の責任かな“

 と笑った。どうやら渡利もみつきの具合が悪いことには気づいていたらしい。



 玲は気を取り直して渡利とともに撮影に戻って行った。

 スタッフは皆忙しく動き回ってる。

 大きく深呼吸すると玲も自分の役に集中する。



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