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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星2 オーディション1


 “オーディション?”


 “そう、オーディン”


 事務所の小西社長がにっこり笑う。


 ‟誰が?”

 ‟君が”


 ‟奏さんじゃなくて?”


 ‟あー彼も受けるけど君にも受けて欲しいんですよ”


 ‟…”


 ?マークを連発していた玲が黙り込む。


 “このオーディジョン、かなり大規模でアクション出来る若手をたくさん募集してるそうなんです。小さい役から結構大きな役までたくさんあるらしいですよ。実は僕ね、あの渡利監督と個人的に知り合いなんです。この前の飲み会で仲間内皆に声かけてたんです。今大掛かりなドラマの制作の準備をしているらしいです。だからこれは社長命令。うちからも30歳以下は全員参加。君若いしアクション得意でしょう。たまには役を取ってきて事務所に貢献してくださいよ。裏方だけじゃなくて”


 若けりゃなんでもいいってもんじゃないだろう、と思ったが事務所のごくつぶし的な存在だという事は認めざるを得ない。優しい口調とほほ笑みの上に圧を乗せて社長にきっぱりと言われてしまうと反論できない。


 ‟はあ、奏さんや他の皆も行くなら…”


 玲は眉を下げてぼそぼそと返事をする。


 ‟なにその女子高生みたいな反応。ま、いいでしょう。オーディションのある日はバイトは入れないでおいてね”



 “相変わらず欲がないというか、やる気がないというか…”


 葛城玲が社長室を出ていくと、椅子の背もたれに体を預けて小西はため息をついた。この前の渡利との会話を思い出す。


 ~~~


 “掘り出し物いない?光る原石とか探してるんだよねぇ”


 にこにこしながら腹の底は見えない大物監督渡利が皆の顔を見ながら切り出した。


 ‟掘り出し物って、俳優の?そうそう転がってるもんじゃないでしょ。どうやって見つけられるかこっちが聞きたいくらいなんだけど、弱小事務所としては”


 小西はあきれ顔で応える。


 ‟今度のドラマでさ、南条みつきとダブル主演するのを探してるんだよ。大手からは何人か打診来てるんだけどね”


 へえ、とその場にいるメンバーは皆目を見張る。無理もない。南条みつきと言えば売れっ子モデルから最近は俳優業もこなす日本でいま最も売れている有名人だ。ダブル主演となればみつきに引けを取らないくらいの実力、または華のある人間でないと。だがこの役を取ることができれば一気に注目されるチャンスだ。


 “難しい役なの?”


 “難しいっていうか、原作者にも僕にもはっきりとしたイメージがあってそれが一番大事。だから出来るだけたくさんの人を見たい。イメージに合う、またはイメージ通りに演じられる俳優なら無名でも構わないと思ってるよ。上手いってことも重要だけど、なんていうか、こう胸にピンとくるような”


 また難しい注文を、とそこにいる面々は顔をしかめる。


 ‟金の卵かダイヤモンドか、それともただの石ころかわからないけど磨いてみたいのは一人いるな”


 小西は独り言のようにでつぶやいた。


 ‟まあそういうことなんで。小さいのから大きいのまで役はあるから、とにかくたくさん連れてきてよ”


 そう言う渡利の言葉を聞きながら一人の若者を思い浮かべる。


 葛城玲23歳。端正な顔立ちのすらりとした肢体の若者だ。小西の事務所で一番の売れている雪永奏一郎がドラマでデビューする前に所属していた劇団の後輩で、その伝手でこの事務所に入った。入った当初は明るく頑張り屋で勉強熱心な子だった。小さな役をいくつか貰う程度だったがなかなか目が引かれるものを持っている将来有望な若手だと思っていた。だがある出来事をきっかけに奏一郎との間に確執が生じ、以来すっかり奏一郎の付き人、いや小間使いの様な立場になってしまい本来の明るさは鳴りを潜めて奏一郎の前ではおどおどとしている。実力はあるはずだ。(それほど彼の演技は見ていないが)。真摯に学ぶ姿勢もある。ただ欲がなさすぎるのだ。だが彼の身体能力には目を見張るものがある。これに自信が加われば…

 この機会に殻を破って前に進んでほしいんだけど、小西はここのの中でつぶやいた。



 ~~~


 つい最近暑さが落ち着いたと思ったら、街はもうクリスマスの装い一色だ。大きな駅前のビルの一面を飾るのはもうすぐ発売される香水のCMだ。画面に麗人が映し出される。シンプルな無地のシャツを着てゆったりとソファーの背にもたれかかる。細いうなじから鎖骨までがあらわになり乱れた明るい色の髪が顔の半分を隠す。それを長く節太の男の指がかき上げ、南条みつきのトレードマークの青い宝石のピアスがあらわになる。切れ長の目がゆっくりと開かれ視線が動く。その指の持ち主へ、そしてカメラへ。

 数十秒、人々の視線が釘付けになる。そしてあちこちからため息が聞こえてくる。

 ‟きれいねぇー”


 ‟すごく艶っぽい”


 ‟あの手、佐伯剛ってほんとかな”


 ‟本物かどうかはわかんないけど、彼を意識してるよね、絶対”


 口に出してコメントするのは若い女性が多いが、CMをみてぼーっと赤くなったり、ごくりとつばを飲み込む男性の姿も少なくはなかった。麗人は売れっ子モデルの南条みつき。中性的な魅力を持つみつきのファンは男女両方に多い。今回発売される香水もどちらの性もターゲットにしているため、みつきの持つ魅力は双方に発揮された。


 ~~~


『モデルみつきの新作香水のCM話題騒然。商品は発売前から予約殺到』

『あの手の持ち主は噂の○○社長?!』

『気まぐれな女王様の次の相手はやっぱり○○社長?』


 ソファーに座り長い足を持て余すように組み、男は手にしていた雑誌を本をローテーブルの上に放り投げた。これは噂の○○社長こと佐伯剛だ。


 ‟なんだ、これは”


 苦虫をかみつぶしたような顔で吐き捨てる。


 ‟話題作りでわざとやってるとは言え気色悪…”


 こちらも美貌を思いっきりしかめてミネラルウォーターのボトルをバキバキと握りつぶしている南条みつき。それをジロリと佐伯が睨み返すもみつきはたじろぎもしない。


 ‟まあまあ、戦略通りでいいじゃないか。こうしてあちこちに伏線を貼っておけば何かの時に役に立ちますよ”


 二人をなだめるのは渡利紘一。名前の知れた監督だ。


 “ほんとに?ほんとかなー”


 ‟まあ、私を信じてくださいって”


 渡利は疑わしい目で自分を見つめる二人ににこにこと微笑み返した。


 ‟ま、これで俺が今度のドラマにかなり出資してる理由も、現場でうろつく理由もできたってことだ”


 “それが僕との噂ってこと?ますます気持ち悪い。あんた今付き合ってる女とかいるんじゃないの?あんたの所為で恨まれるとかいやだよ”


 ‟関係ないだろ。お前に近づくふりして葛城玲に近づけるってことだよ!”


 ‟それより、オーディションの日程決まりましたよ。本命が参加してくれてますよー”


 なんとか話題を変えようと渡利は声を大きくした。


 ‟あと、楷ともや君に話はついてます。彼は葛城玲次第でどうにでも対応してくれると”


 ‟で、その楷ともやは誰の生まれ変わりなんだ?”


 渡利の説明に佐伯が質問する。


 ‟それはもちろん、レイシャーンの腹心の部下…”



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