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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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チャリティーゴルフ

 

 今日玲はチャリティーゴルフに参加していた。快晴で富士山がきれいに見えるコースだ。始まった時は肌寒いが距離を歩く体が温まってきた。


 「黄昏…」出演者達と共に参加したが、他のドラマの出演者たちや芸能関係者も多く参加していて良い交流の場になるとともにビジネスチャンスや情報交換をするのに有意義な場になっているようだ。奏一郎は盛んに新しい人脈を作ろうと頑張っているようだが、玲はあまり知り合いもいないのでドラマの共演者たちと黙々とクラブを振っていた。色部や夏目などのベテラン俳優たちはゴルフもベテランらしくカコーンカコーンと景気よく飛ばしては順調に進んでいたが玲はクラブを振る回数を増やしてやっとついて行くありさまだった。


 ‟こんにちは。葛城さんはスポーツ系は何でもこなせると思っていたんだけど、ゴルフはだめみたいですね”


 昼休憩中に佐伯に声をかけられた。


 ‟佐伯社長。ご無沙汰しています。あなたも参加してらしたんですか?”


 佐伯は玲が思っていた以上に芸能界に顔が利くらしい。


 ‟玲、佐伯社長と知り合いだったのか?”


 隣で一緒に食べていた奏一郎が探るように聞いてきた。


 ‟あ、前に地元に帰省した時一度お会いしたことがあって。その節はどうも”


 玲がぺこりと頭を下げる。


 ‟雪永さんもご無沙汰してます。調子よさそうですね”


 佐伯が如才なく声をかけると


 ‟得意というほどじゃないですけど、そこそこ”


 奏一郎はまんざらでもなさそうだ。確かに彼のスコアは玲に比べるとかなり低い数値だ。


 ‟じゃあ、午後からもお互い頑張りましょう。といっても、ベテランの方たちには到底かないませんがね”


 では、と片手をあげて立ち去って行った。


 ‟佐伯剛ってかっこいいよなー”


 奏一郎も同じテーブルにいた他のメンバーもほうっとため息をつく。確かに男ならあんな風になりたいと思う憧れるタイプだ。


 ‟玲、抜け駆けするなよ”


 ‟いや、抜け駆けって何…”


 肘で脇をつつかれて、奏さんはいったい何を言ってんだ、と玲は思った。


 ~~~



 抜け駆けって何、と思ったのはほんの数時間前の事だ。


 ‟今夜食事に付き合ってもらえませんか?”


 トーナメントが終わり、前方のステージでは表彰式や寄付の合計額などが発表されている。たまたま一人でそれを見ていた時いきなり後ろから佐伯に話しかけられた。


 散々なスコアでしたね、と言われ玲はきまりの悪い顔で軽くにらみ返す。


 ‟ゴルフなんてこういうイベントや付き合いでたまにやるくらいですから。今回だってチャリティーだからってほとんど無理やりですよ。佐伯さんはすごくお上手だったのに上位には入らなかったんですね”


 佐伯はかなり慣れている上級者なのだろうが、途中から適当に流して有名どころの俳優や大物たちに勝ちを譲ったようだ。

 こんな風に当たり障りのない会話をしていたのだが、


 ‟ところで葛城さん、今夜は予定ありますか?”


 と、食事に誘われたのである。

 奏一郎たちもいるので、と断ろうとしてみたり、それがだめなら皆一緒に、と提案してみたりしたのだが、ことごとく却下された。

 曰く、佐伯は忙しい身でなかなかプライベートな時間が取れない。今日は一緒に食事をする相手からキャンセルされて(女性?)二人分のディナーの予約をしてある。先日の寄付の件などについてゆっくり話したいなどなど。

 そう言われると断るわけにも行かず奏一郎たちには適当に理由をつけて別行動をして都内に戻ったのだ。


 これも抜け駆けって言うのかな…


 ~~~


 ‟もう!あの男、いったいどういうつもり?”


 ‟佐伯さん?何?やきもち?”


 ‟そういうんじゃないけど、何いきなり食事に誘ったりして、玲ものこのこついて行ったし”


 みつきはぶすっとして言った。


 ‟彼にも彼なりの想いがあるんですよ。大切な協力者、同志です”


 ‟も、目障り”


 ‟やっぱりやきもちじゃないですか”


 渡利はからかうようにみつきを見るが、みつきは無視した。

 今日のゴルフは、みつきは父親とともに回っていてほとんど玲と接触できなかった。そのしてゴルフが終わった後、佐伯がちゃっかり玲に声をかけるのが目に入り、気になっていたのだった。


 前世でもゾリークが苦手だった。年上だからなのか、いつも余裕のある笑みを浮かべ、レイシャーンにちょっかいを出していた。レイシャーンには砕けて話すのにミシルカにはバカ丁寧な話し方を崩さない。そのくせ言葉の端々にミシルカを子ども扱いしているようなニュアンスを含ませていた。そしてことあるごとにレイシャーンをカーメイに呼びつけてはなかなか返してくれない。


 苦手なんじゃなくて嫌いだ。


 みつきは爪を噛んだ。


 ~~~


 玲は何となくいたたまれない思いをしていた。

 夜景の見える高級ホテルのレストランで食事をした後、同じ階のラウンジに移動した。

 こういうところにはあまり慣れていない。だが、落ち着かないのはそのせいではなかった。

 料理もワインもおいしいし佐伯との会話も楽しい。佐伯は裕福な家に生まれたがそこに胡坐はかかず自力でも事業を立ち上げ成功している。仕事の話も興味深かったが彼に趣味や興味は多岐にわたり、玲とそれほど年も違わないのにその経験値や知識は驚くばかりだった。自分の苦労や成功を冗談めかしてみたり、失敗談を披露したりと逆に人間の大きさを感じさせる。


 でもなんだか、この雰囲気って…


 佐伯は始終嬉しそうににこにこしている。


 ワインや料理の選び方もスマートで、まるで…

 …これじゃまるでデートみたいだ。


 レストランからラウンジへの移動の時もまるでエスコートしているようなしぐさを見せる。

 ふと会話が途切れ、自分のグラスを弄んでいた佐伯が体を寄せてきて玲の顔を意味ありげにのぞき込む。男同士とはいっても妙に色気のある眼差しでドキッとしてしまう。


 ‟葛城さん、玲さんて呼んでいいですか。初めて会った時から思ってたんですが、僕たち前にあった事ありませんか?”


 何ですか、昔のドラマで流行ったくさい口説き文句のような。


 ‟いえ、それはないかと…”


 玲はたじたじと答える。


 ‟そうか、運命を感じているのは僕だけか…まあいいです。ところで僕ここのホテルに部屋取ってるんですって言ったらどうします?”


 玲の顔が引きつる。


 ‟は?ははは…佐伯さん、冗談…”


 のけぞる玲を見て、佐伯はぷーっと噴き出した。


 くくく!と笑いながら


 ‟その顔!何焦ってるんですか。僕はもちろん部屋取ってますよ、泊りますから。車だし、家結構遠いんで。それだけです”


 ‟へ…?え?そうですよね。ははは…”


 と玲も力なく笑ってみる。


 ‟それとも何か期待しました?”


 と、いたずらっぽくもう一度グイッと顔を近づけてくる。


 ‟いやいやいやいや、まさか”


 そのあともう一杯ずつ飲んで玲は自宅に帰るべく佐伯と別れタクシーに乗った。別れ際に佐伯は玲の手を握りながら


 ‟玲さん、もしこの先何か困ったことが起こったら何でも相談してください。僕は必ずあなたの力になりますから”


 と、それまでの笑顔を引っ込めて真剣な顔で言った。


 ‟あ、ありがとうございます?”


 今一つ真意を測りかねながらも玲は礼を言っておいた。


 佐伯は玲が乗ったタクシーをばらく見送っていたが、小さくため息をつきホテルのエントランスに入りエレベーターの昇りのボタンを押した。



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