静かに芽吹く不穏の種
次の日の午後みつきがひょっこり収録現場に顔を出した。
‟あれ?南条さん、今日は今の時間は収録予定入ってないですよね?”
とみつきに気づいた小林が声をかける。
‟ちょっと近くまで来たから寄ってみたんだけど葛城君はどこにいるかわかるかな?”
‟玲ならたぶん休憩室です。次の出番まで少し時間ありますから。昨夜は遅くまでバイトが入っててかなり疲れてるみたいだったから寝てるんじゃないですかね”
‟バイト?”
随分忙しくなってきただろうにまだバイトなんかしてるんだろうか。
‟もう辞めてるんですけど、人が足りない時頼まれると断れないみたいで”
と、小林が苦笑する。
その説明に納得して小林に礼を言うとみつきは休憩室に向かう。そっとドアを開けるとドラマの衣装を着た玲が椅子に座ったまま目をつぶっていた。近づいて寝顔を眺める。
‟…息、してるよね”
そっと玲の頬に触れそのぬくもりを確認し小さくつぶやく。よほど疲れているのか目覚める気配はない。
‟昨日は来てくれて、戻ってきてくれてありがとう。ずっと桜は嫌いだったんだ。お前が処刑された日を思い出す。あの花びらがお前を永遠にかき消してしまったみたいで。だけど、昨日戻ってきてくれたお前を見て昔の出来事が悪い夢だったんじゃないかって思えるんだ。だって今お前はここにいるから”
小さくつぶやいた後しばらく玲の寝顔を眺めていたが起こすことはせずにそのまま出て行った。
立ち去るみつきの後姿を見ている人物がいた。
‟なんであの人が…?”
眉を顰め、閉じられた休憩室のドアに目をやる。
最近南条みつきと葛城玲の距離が急速に縮まったような気がする。撮影が始まったばかりの頃は、面識がなかったせいもあるだろうがお互い他人行儀でむしろみつきは玲を嫌っているように見えた。だがいつ頃からか、みつきの態度が軟化し玲の周りにまとわりついているように見える。
CM共演もそうだ。SNSでも騒がれている。あの二人が一緒にいるところを見ると胸がキリキリする。これは嫉妬?なのだろうか。
しかもみつきが最近いつもつけている青い石のネックレス。あれは確か…
みつきは以前同じような青い石のピアスをつけていた。だがあの片方は壊れてしまったはずだ。現に今ピアスはしていない。
みつきがネックレスを貰ったという事?
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廊下ではマネージャーの榊が待っていた。
‟みつき、急がないと撮影に遅れますよ”
‟ごめん”
速足で車に戻る。
‟最近ずいぶん葛城さんと親しくなったようですね”
車をバックミラーからみつきを見ながら榊が問いかけてくる。
‟別に、共演してて気が合うから連絡を取ってるだけ”
‟今日だってドラマの撮影もないのに現場まで来て。おかげて本職の撮影に遅れそうです”
‟だからごめんて”
機嫌が悪くなり窓の外をみるみつきにため息が聞こえてきた。
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‟ずいぶんひさしぶりだねーみつき。最近全然遊んでくれないから”
頬が触れあうくらい近くに顔を寄せて蠱惑的な視線をカメラに向けてモデルのマオがみつきに囁く。カメラのシャッターの音が絶え間なく聞こえてくる。
‟今はドラマで忙しいの”
心の中では盛大に顔をしかめていてもカメラの前での表情は崩さない。みつきは今モデルとして雑誌の撮影中で、マオは年も近く同じような雰囲気思っているのでファッション雑誌ではよく一緒になる。少し前に荒れていてパーティー三昧をしていた時は良くいっっしょにつるんでした。気に入られているのかライバル視されているのか、いつも絡んできて人の神経を逆なでするようなことを言う。
‟ふーん、ほんとかなぁ”
みつきもマオに艶のある視線を返すが声は冷え切っている。
‟何が言いたいの?”
カメラの前には今二人だけだからこの会話は誰にも聞こえていない。マオは調子に乗ってくる。
“玲君だっけ?真面目でつまんなそうなやつ。噂になってるよ。普段はつんけんしてるくせに葛城玲にはずいぶんご執心みたいだね”
マオはみつきの肩に腕を回してくる。
‟みつきーもっとマオの方に体寄せて”
とカメラマンが声をかける。
いけないいけない、つい拒絶反応が…
‟ああいうのが好みなんだ。まー顔も体も確かにいいけど”
ゴキ!
‟!!!”
マオが頭を抱えてしゃがみ込む。
‟みつき!”
‟すみませーん!距離感間違えました。ちょっとめまいがするんで休憩していいですか?”
悶絶しるマオを残してズキズキする頭を抱えてすたすたと歩き去った。
こぶできちゃったらまずかったかな。




