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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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花吹雪の中の記憶

 

 満開の桜並み木の下でみつきが立っている。ずいぶんと暖かくなった風が柔らかな髪を乱す。頬にかかった髪が美しい顔を少しだけ隠し何とも魅惑的な風情が作り上げられていた。少し開いたシャツの襟もとにはネックレスが見え隠れしている。時折胸元に手をやり目を伏せてそこなある石を確かめる表情は艶めいている。


 ‟はー立ってるだけで絵になりますね。ため息が出る”


 ‟みつき、少し自分で好きなように彷徨ってくれていいよ。幻想的ですごくいい”


 カメラマンの戸田もみつきに好きなようにさせながらシャッターを切り続ける。


 ‟うう、この場に入られてラッキーだ。人間離れした美しさだー”


 と傍で眺めているスタッフも眼福眼福と拝んでいる。

 ふらふらと、言われたように彷徨っていたみつきが視線を上げると視界いっぱいの桜。


 桜は大嫌いだ。否、怖いと言った方がいい。今までこういうシチュエーションは避けてきたのだ。花吹雪はレイシャーンの処刑の瞬間を思い出させるから。だが、玲が本来の自分を取り戻そうとしている今、自分も過去のつらい記憶を乗り越えなければ、と思った。だから久々の雑誌の撮影でこの設定を受け入れたのだが。


 ‟う…吐きそう”


 おえっと胸を押さえているみつきの心中など誰も気づかず皆盛んにほめそやす。


 人の気も知らないで


 やっぱロ止めておけばよかった、と盛大にため息をつきそうになった時小さなざわめきが聞こえてきた。

 そちらに目を向けた途端にみつきの纏う空気が変わった。突然のこぼれるような笑顔にスタッフたちも見惚れてしまったのだが、その視線の先、少し離れたところには一人の人物が立っていた。葛城玲が撮影か収録のためかシンプルなグレーのスーツを着て、こちらを見ながら小さく手を上げている。


 二人の視線が合った瞬間、玲はジェスチャーで時間がないことを伝え、両手を顔の前で合わせて謝るしぐさをする。それにみつきは軽く頭を振ってこたえた。


 時間がないのに来てくれたんだ


 昨日の会話の流れで偶然玲もこの近くで仕事が入っていると知った。通り道なので時間があったら撮影を見に来てくれるかと頼んだのだ。


 みつきはほっこりと胸が暖かくなる気持ちがして、軽く手を振ってバイバイとサインを送った。

 玲も手を振り、踵を返したその時、いきなりザアっと突風が撮影現場を駆け抜け満開の桜の花びらが風にあおられ一斉に舞い上がった。玲の背中が消え去り、その瞬間視界が真っ白になる。


 ‟!”


 ドクンと鼓動が鳴りみつきの顔が蒼白になる。


 ‟みつき?!”

 カメラマンの戸田も周りのスタッフもぎょっとする。

 みつきはそこに立ち尽くし左手で口を押さえて震えている。

 マネージャーの榊も近くから声をかける。


 ‟みつき、一体どうしたんですか?”


 と問うみがつきは答えない。体は震え続けて立っているのさえ危うい状態になった。


 だめだ、もう

 一瞬意識が遠のく。


 その時


 ‟みつき!”


 という声と共に腕を掴まれてハッと意識が引き戻された。


 ~~~


 マネージャーの森本に急かされて慌てて車に戻ろうとしたときつむじ風が玲の周りの桜の花びらを舞い上げた。


 ‟わ!”


 と髪を押さえながら自分を包み込むように踊る花びらを見上げる玲。ふと首をめぐらした時後ろに立ち尽くすみつきの姿が目に入った。距離があり、はっきり見えなかったがみつきの顔がこわばっているように見えた。


 泣いてる?


 といぶかしんだのもつかの間、確認するすべもなく“玲!早く早く”と急かされて再び足を速めた。


 だが


 後ろ髪をひかれるとはこのことなんだろう。なにかとても大切なものを置いてきてしまった気がした。玲は踵を返して今来た道を走った。


 ‟みつき!”


 今にも倒れそうなみつきを支える。

 ハッと玲を見上げたみつきが更に目を見開く。


 ‟玲、なんで”


 “あ、あの、みつきさんが青い顔して倒れそうになったのが見えたんで。大丈夫ですか”


 嘘だ。倒れそうになっていたのに気づいたのは近づいてからだ。ただ、みつきのもとに戻らなければ、と思っただけだがそんなこと言えるわけがない。

 困ったように応える玲に


 ‟玲!玲!”


 と玲の服を握りしめしがみつくみつき。

 周りが遠巻きに見ているのにも関わらず少しの間そうしていた。


 ‟ありがと、大丈夫”


 落ち着いてくると羞恥心がわいてきて玲の服を放すと体を起こした。


 玲がここに戻ってきてくれた。信じられない程の安心感。

 ふうっと息を吐く。


 そこに森本が玲を追いかけてきて、時間に遅れると言いながら引き立てて行った。


 ‟みつき、撮影つづけられる?"


 戸田が心配そうに問いかけられ頷く。


 もう大丈夫だ。

 桜が美しく見える。


 桜を見上げみつきの頬に一筋の涙が流れたがそこに心の痛みはなかった。



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