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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP18 カーメイの王太子

 

 もう皆自室で寝支度をしている時刻だというのに、王の謁見の間に王と宰相、ギルドニアのドミトリ王子、ナンドラのソーラ王子、そしてレイシャーンとミシルカが集められた。六人のナンドラの護衛たちも部屋の端に並んでいる。


 ‟一体何事ですか。このような時刻に”


 とドミトリ王子が不機嫌な声を上げた。


 ‟すまぬな、ドミトリ殿下。しかし事は早いほうが良いと思ってな”


 とロンズディン王が切り出す。


 ‟殿下も先日の件、気にされていたであろう。いくら試合で勝敗が付いたとはいえ事が明らかにならなければお互い不名誉を被っていることになりますからな。だからもう一人の証人が見つかったのでな、この場に来てもらっている”


 ドミトリ王子とソーラ王子は驚いた顔をする。しかし、すぐに


 ‟今更証人を見つけたと言われましても。大体どこの誰とも知れぬ者の言うことが信用できるかわかったものではない。ナンドラの護衛は仮にも剣士、比べるべくもありませぬな”


 ‟俺も剣士の端くれだ。この剣に誓って真実を言おう”


 と続き部屋の扉から低いがよく響く声がして背の高い男が入ってきた。


 ‟ゾリーク王太子殿下”


 二人の王子が驚愕する。

 声の主はゾリークは大国カーメイの王太子だ。長身にたくましい体躯。整った容貌に厳しいまなざし。その身分だけではなく、自身の持つ存在感が他の者を圧倒させる。二人の王子も思わず姿勢を正した。


 ‟事を荒立てたくなかったという俺のわがままの所為で、今日闘技場で名乗り出ずレイシャーン殿下には申し訳ないことをした。しかしロンズデイン側の心遣いはそちらには伝わらなかっただけでなく、迷惑ばかり被っているようなのでこうして名乗り出た次第だ”


 ‟ま、まさかゾリーク王太子が証人だったとは思いませんで、失礼を、申し上げました”


 さすがのドミトリもしどろもどろになる。


 ‟まあいい。では城下で俺が見た一部始終と成り行きを説明しよう”


 ゾリークは大股でゆっくりと並んで立っている護衛たちの前に歩み寄る。


 ‟おまえ”


 と言って並んでいる一人を指さした。


 ‟お前が一番に花売り娘に声をかけていたな”


 指さされた一人がびくっとする。


 ‟どれだけ酒を飲んでいたのか知らないがろれつの回らない口調で下世話な言葉をかけ、娘の顔や体を撫でまわしていた。ここで披露してもよいが俺でも口にするのをはばかられるような言葉でここにおられる王族の方々には聞かせらるものではないからやめておこう。そしてお前”


 とまた別の男を指さした。


 ‟娘の売り物の花を籠ごと地面にたたきつけて踏みにじっていたな。娘が抵抗すると髪を掴んで引きずり倒した”


 指さされた男は青ざめる。


 ‟それから、その隣の男は止めに入った町のおやじの顔を剣の柄で殴りつけた。自分たちはナンドラの剣士様だとほざいていたな。剣士が聞いてあきれる恥ずべき行為だ。さすがに見ていられなくなって俺が出て行った。最初に切りかかってきたのがお前だったな。このときレイシャーンが殿下が助太刀に入ってこられた。そして端にいるお前、俺に切られた足と腕はまだ痛むか?”


 衣服の上からでは包帯は見えないが言われた男は思わず片腕を押さえた。

 ゾリークはすべて鮮明に、しかも暴漢たちの顔まで覚えているのか。レイシャーンは舌を巻いた。

 ゾリークは続ける。


 ‟そういうわけでレイシャーン殿下に加え俺が証人になる。俺としては町民が証人とならない理由がわからないのだが。まあ俺はロンズディンとも、ナンドラともギルアドニアとも関係がない公平な立場だから良い証人になるだろう。大体証拠だ証人だと騒ぐがあの現場を見れば何が起こったのか子供でも馬鹿でもわかると思うが。まあいい、俺は自分が王太子だから問答無用で信じろという考え方には反吐がでる。だから反論があればいくらでも聞いてやるから遠慮なく言うがいい。無礼講だ”


 軽い口調でゾリークは言うが反論できる者などいようはずがない。ナンドラの護衛たちも蒼白になり下を向いた。

 そこで、ついにソーラが前に進み出てきてひざまづいた。


 ‟ゾリーク王太子殿下、大変申し訳ありません。お恥ずかしいばかりです。この者たちには厳罰を与えます。どうか、どうかお許し願いたい”


 ゾリークは頷く。


 ‟その者らの処分はそちらに任せる。構わないだろう?ロンズディン王、レイシャーン殿下”


 二人とも了承の意で頷いた。

 その間もドミトリは顔を真っ赤にしながら拳を握りしめている。今日は一日を通して面目丸つぶれだ。自業自得とはいえレイシャーンは彼が気の毒になった。


 ‟それではこの件はこれで仕舞いとしてよいか。ところで、ドミトリ殿下。折り入って頼みがあるのだが”


 話しかけられてびくっとしてドミトリがゾリークを見る。


 ‟今日レイシャーン殿下と戦ってケガをしたそちらの剣士、今後剣士としては使い物にならぬのではないか?実は我が国の大臣の一人が西南方の文化にひどく興味を持っていてな。言葉を学んでいるのだがその話し相手にその剣士をもらい受けることはできまいか”


 これは、頼みと言ってもほぼ有無を言わせない雰囲気だ。


 ‟も、もちろんかまいませぬ。あの男に使い道があるのであれば”


 あの剣闘士は奴隷市で買ったとしても決して安くはなかっただろう。迷惑料、あるいは示談金と言ったところか。それにしても王太子はなぜ剣闘士の身柄を引き取ったのだろう。レイシャーンはいぶかしんだ。



 ドミトリとソーラが引き上げた後、ロンズディン王がゾリークに声をかける。


 ‟ゾリーク王太子殿下、今回の一件、心から感謝する”


 ‟本当なら今夜の刺客の件も問い詰めたいところだが、確証もないし、下手をすると国家間の問題にまで発展しかねない事態になる。何しろ王族が襲われたのだからな。ロンズディン王はそこまでは望んでいないと推察した。出過ぎたことだったがこの場で仕舞いとしたのだか構わなかったか”


 ‟ゾリーク王太子のご慧眼、まことに感服いたしました”


 レイシャーンとミシルカも呆然と見ていた。見事な采配だ。


 ‟それにしてもギルドニアのドミトリ、噂以上に愚かな男だ”


 ‟あの、ゾリーク王太子殿下、あの剣闘士をどうするおつもりですか”


 とレイシャーンは恐る恐る訪ねた。


 ‟あれはこのままではおそらく処分されるだろう。足のケガはどの程度回復するかわからんが使い道がないわけでもなかろう。心配するな、悪いようにはしない”


 レイシャーンはほっとした。


 ‟ありがとうございます”


 ‟なに、これは己の恥も考えずにあの者を守ろうとしたレイシャーン殿へ敬意を表しただけだ。心配だったのであろう?国に帰れば殺されるのではと”


 ‟はい”


 そこまで見透かされていたとは。

 ここで、ゾリークは破顔した。


 ‟ロンズディン王よ。レイシャーンは見事な人となりだな。剣の腕も拝見させてもらったが剣士としてもすばらしい”


 ロンズディン王も誇らしげに微笑んだ。レイシャーンは恥ずかしさにいたたまれなくなったが、となりのミシルカはぎゅっとレイシャーンの腕を握りしめてほほ笑んだ。



 そこへ、ラストリル宰相が前へ進みでる。


 ‟陛下、ゾリーク王太子殿下、ご報告いたしたきことが”


 王が頷いて先を促す。


 ‟先ほどとらえていただいた刺客の生き残りが、目を離した隙に自害いたしました”


 ‟全員がか?”


 ‟はい、軽症の者が他を殺し、最後に自ら毒をあおったようです”


 ゾリークは肩眉を上げ


 ‟拘束が十分ではなかったのか。有能と評判な宰相殿らしからぬ失態だな。まあ終わってしまったことは仕方がない”


 宰相は黙って頭を下げた。


 ‟あの刺客はやはりギルドニアから放たれた者でしょうか?”


 ミシルカが誰にともなく尋ねる。


 ‟いや、それはわからない。今この時、ミシルカ殿下やレイシャーン殿下の命を狙う事になんの得があるのか。いくらなんでも城下でのいざこざや今日の剣闘士の件でそこまでするとは思えないが”


 ゾリークが応える。


 ‟では他の者から命を狙われていると…?”


 レイシャーンも顔をこわばらせる。


 ‟いや、やはりドミトリかもしれん。あの男は相当のバカだからな”


 そう言ってゾリークは何か考え込むように黙ってしまった。



 翌日剣術試合の上位四名の決勝が行われたが、あっさりとカーメイ王太子が優勝し、試合は終了したのだった。


ゾリークは実は一番お気に入りのキャラでついついエピソードが長くなってしまいました。

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