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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP16 レイシャーンと剣闘士2

 

 そうしている間にもレイシャーンは繰り返し敵の膝を攻撃し続けた。

 確かに打ち込みは効いてはいる。動きが少しづつ鈍くなっていて足を引きずるようになった。無表情に見えても痛みをこらえているのだろう。だが攻撃をやめる気配はない。


 ‟もしかしてお前はやめられないのか…?”


 もし、奴隷の剣闘士だとしたら負けることは死を意味することだ。


 だが、こっちも殺されてやるわけにはいかないんだよ。悪いな。


 レイシャーンは素早く相手に接近するとすでに何度か重ねて攻撃してきた左膝をもう一度渾身の力を込めて柄でたたき、勢いをつけて左足を払った。剣闘士はがっくりと膝をつく。

 同時にゴキッという鈍い音がして剣闘士の体が崩れた。膝の骨が砕けたのだろう。立てないのでは戦えない。これで勝負はついた。形式上相手の首元に刃を当て審判の声を同時に刀を引く。

 右膝をつき顔をゆがめる剣闘士と目を合わせた後、礼をしてレイシャーンが場外に出ようとした瞬間、左腕に鋭い痛みが走る。ガツンと地面に大刀が刺さった。剣闘士がレイシャーンに向けて刀を投げたのだ。幸いかすめただけだったが、観衆は騒然となる。


 ‟なんて卑怯な!もう勝負はついたんだぞ”


 ‟ギルアドニアの剣士は礼儀もわきまえないのか”


 ‟ドミトリ殿下!”


と隣を見やるロンズディン王。レイシャーンが勝利したのはうれしいが卑怯な手で傷つけられたため顔が怒りで赤くなっている。

 だがドミトリ王子の顔はロンズディン王の怒りどころではないほどゆがんでいた。


 ‟この恥知らずめ!なんということをしてくれたのだ。お前はギルドニア国に泥を塗ったのだぞ”


 そしてつかつかと、剣闘士のもとへ足を向ける。剣闘士は無言でドミトリ王子を見上げている。


 ‟この不始末はお前の命で償ってもらうぞ”


 と言うと傍にいた護衛の一人が剣を抜いて前へ出る。その場は緊張で静まり返っている。


 ‟お待ちください”


 と声を上げたのがレイシャーンだ。


 ‟この場は私に免じてその者を許してはいただけませんか”


 ‟この者の処分はそちらには関係のないこと。控えていただけませんか、レイシャーン殿下”


 ‟ドミトリ殿下、この度の催しはわが父王の誕生の日を祝うめでたいもの。血で汚されるような思い出は作りたくないのです。それに我が国には人命を奪うような処罰を簡単に下す野蛮な慣習はありません”


 ‟なんだと…”


 とレイシャーンの嫌味にドミトリ王子は顔を赤くした。


 ‟それに…”


 とレイシャーンはあえて剣闘士の前に立ちはだかる。


 ‟この者は、言葉を理解していないのではありませんか?”


 ‟…”


 “おそらく遠い異国から連れてこられ、奴隷商人の間を渡り歩きこの大陸の言葉を覚える暇などなかったのでしょう”


 一体どうやってこの試合の意味を理解させたというのだ。剣闘士の知る戦いとは一度始まるとたいがいは一方が死ぬまで戦い続けるしかないのだから。それにこの男の手首と足首の変色した皮膚。鎖につながれていたためだろう。到底言葉を覚えることができるような環境にいたとは思えない。平静を装って入るが、奴隷制度のないロンズディンで育ったレイシャーンは非人間的な扱いに怒りを感じていた。


 ‟どうか、私に免じてこのものを処罰するのは思いとどまっていただけませんか”


 と、レイシャーンは片膝をつき、深々と頭を下げた。

 自分に背を向けてドミトリ王子に頭を下げるレイシャーンを見る剣闘士の目は揺らいでいた。

 それを見ていた周りの者たちは一斉に拍手をした。勝利者でありながら敵のために頭を下げるレイシャーンに皆賞賛を送る。

 自分の狭量を知らしめてしまったドミトリ王子は怒りが収まらなかったが、ここまでされて拒否することは得策ではないと思ったのか、


 ‟ふん、情深いレイシャーン殿下に感謝することだな。この場はこれで収めてやる”


 と言うなり剣の柄で剣闘士の顔を殴ると踵を返した。

 両腕を抱えられて引きずるように連れ去られる剣闘士は何度もレイシャーンを振り返っていた。彼は今日でなくとも処刑されることになるのかもしれない。だがレイシャーンにもこれ以上のことはできなかった。

 ため息をついて立ち上がったレイシャーンにミシルカとレスターが駆け寄る。


 王もやれやれと言った様子で


 ‟良くやった。早く手当てをしてやれ”


と言って彼らを解放した。


 この騒ぎで、剣技大会の上位四名の決戦は明日に持ち越されることになった。


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