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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP15 レイシャーンと剣闘士1



 剣術大会の勝利者決定戦の前にレイシャーンとギルアドニアの剣士の試合が行われることになり、昼食をとっていた人々はぞくぞくと集まってきた。

 侍従から話を聞いたのか、こういう席にはあまり来たがらない王妃もロンズディン王の隣の椅子に腰を掛け、剣技場を見守る。


 ‟其方もきたのか”


 ‟当たり前でしょう。陛下がギルアドニアの王子の挑発に乗ったせいでレイシャーンが窮地に陥っていると聞きました。義母(はは)としてのほほんとお茶など飲んでいられません。レイシャーンに万が一のことがあったら、陛下、その時はあなたも覚悟なさいませ”


 と、肩眉を上げてちくりといわれ王は眉を下げる。。そのうしろにはドートリアニシュ神官長も立っていた。


 ‟それにしてもギルアドニアもずいぶんと強気に出たものですな”


 言いながらドートリアニシュ神官長としては、この期に及んでカーメイが傍観しているのが気になっていた。レイシャーンの話では身分が高い剣士のようだったと言っていたのだが、十中八九ゾリーク王太子本人だろう。噂で聞く王太子の人柄を考えるとこういう時は何か言ってきそうだが、やはり身分上公にはできないのか。ちらっと、ゾリーク王太子を盗み見るが、その表情からは何もうかがえない。



 いや、むしろ面白がっている?



 そうしているうちに試合の準備が整った。

 大男とレイシャーンが向か合って立つ。レイシャーンは背こそ低くはないが細身なので比べると相手が倍くらい大きく見える。大刀を持っているがその大きさも尋常ではない。ほとんどこん棒だ。

 ロンズディン側の人間はかたずをのんでいる。負けるだけならまだしも、もしかしたらレイシャーンにとってかなり危険な試合なのではないかと思い始めたのだ。

 刀を抜いて立つレイシャーンは冷静に見えた。相手の動きを見定めようとしているのだろう。

 開始の合図とともに先に動いたのは剣闘士の方だった。


 ‟!”


 速い!


 予想以上の速さできて間を詰めてきて躊躇なく刀を振り切った。


 ‟おいおい殺す気か”


 さっと躱したレイシャーンがつぶやく。だがそれ以上考える間もなく攻撃が続く。巨体に似合わない素早い動きで連続で刀を繰りだしてくる。レイシャーンは躱すのが精いっぱいだ。汗だくになったレイシャーンと対照的に剣闘士は汗もかいていなければ表情も動いていない。まるで機械のように攻撃を繰り出してくる。


 ‟レイシャーン殿は逃げるのがお上手ですな”


 とドミトリ王子がくすくす笑う。

 一瞬ピクリと反応しかけたロンズディン王だったが、何か言おうとする前に王妃がそっと王の手を握った。それに、はっとしたように開きかけた口を閉じる。


 しばらくすると関係のない国の者たちは一向に攻撃を仕掛けないレイシャーンに焦れてきていた。もう少し面白い対戦を期待していたのだろう。


 “何か仕掛けないのか”


 ‟強いと聞いていたがそれほどでもないな”


 などひそひそ聞こえてくる。ロンズディンの者たちはそれに反論したいところだが内心自分たちも同じように感じていたため、口をつぐんでいた。

 そうしているうちに、またしても剣闘士の刀に切っ先がレイシャーンの胸元をかすめた。その瞬間レイシャーンが力いっぱい刀を振り上げた。


 ‟く!”


 相手の切り込みを防ぎはしたものの手に強い衝撃を受けた。レイシャーンの薄手の防具に切り目が入る。


 ‟うー手がじんじんする。バカ力で刀も重い”


 レイシャーンの愛用の刀は東国のものを模していて刀身は薄く片刃である。対して剣闘士の物は身幅が広く厚みもあり切るよ言うよりは叩きつぶすような武器だ。まともに刀同士をぶつけるとレイシャーンの刀の刃は折れかねない。


 それにしても、こいつは全く寸止めをする気配もない。当たったら本当に死ぬぞ。


 形式どおりの剣術試合のようにこちらが寸止めなどして動きを止めてしまったらその隙に逆に攻撃されかねない。だからと言って相手を切りつけるわけにもいかない。そのためにレイシャーンは攻めあぐねていた。

 刀をはじかれても剣闘士の攻撃は緩まない。表情も変えずに戦う人形のように動き続ける。

 またしても頭上から振り下ろされる刀をよけつつ体を沈めてレイシャーンは左から敵の膝を柄で打った。思い切り力を込めれば膝の骨が砕かれる程の衝撃のはずだ。だが動きは一瞬止まったもののあまり痛手は受けていないようだ。


 怪物だ。


 さすがにレイシャーンもひやりとした。殺す気で戦えばまだ方法はあるが相手はその気でもこちらはそういうわけにはいかない。


 ‟おい、お前この試合の意味わかってるのか?殺し合いじゃないぞ”


 と、一応聞いてみるが返事はない。

 観ているミシルカもレスターも不安げに手を握りしめてかたずをのんでいる。


 ‟これは、お止めしたほうが良いのではないでしょうか。あの剣闘士、殺し合いだと思っているのでは”


 と神官長が眉を寄せる。


 ‟もちろん、剣技の試合だと言い含めておりますよ”


 と、ギルアドニアの王子はニヤニヤしている。


 ‟私の命に背くような愚かな真似は致しますまい。極刑に値しますからな”


 この男…


 神官長は唇をかむ。ドミトリ王子の評判は聞いている。気位ばかりが高く、贅沢、傲慢、短気などろくなものではない。他国に来てこんな問題を起こすなど頭も悪いのだろう。この王子が故国でどのくらいの力を持っているのかは不明だが、ギルアドニアの軍事力はロンズディンより強いと言わざるをえずロンズディンが強気に出られないことを知っているのだ。今はただレイシャーンの実力を頼みにするよりなかった。



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