ドラマ黄昏時に落ちる星 EP14 ギルアドニア第二王子
恐れながら、と言いながらギルアドニア第二皇子ドミトリにはちっとも悪びれた様子はない。むしろ挑戦的な笑みを浮かべている。他国の国王に対して礼を欠いた振る舞いだが、ロンズディン王もギルアドニアの王子を無下にもできず、椅子にもう一度腰を下ろしちらりとレイシャーンを見る。傍に控えていたレイシャーンはドミトリに丁寧に礼をし、
‟その議につきましてはドミトリ殿下、私の方からお答えさせていただきます。先日城下でナンドラの護衛達と剣を交えたのは私です。あいにくもう一人の人物は通りすがりの者で名前も素性もわかりません。確認しなかったのは私の落ち度でした。護衛たちにけがをさせてしまったことは深くお詫び申し上げます。しかし、街の者たちに聞きましたところ、それらの護衛たちの行いは恥ずべきもの。見過ごしにはできず、やむを得ず行った処置でした”
そのレイシャーンの言葉尻をとらえてドミトリは切り返す。
‟では、お前は自分で現場を見たのではなく町人の言葉を信じて、あのような暴挙に出たというのか。だいたいこやつは何者ですか”
下手にでるレイシャーンを見下すように言いドミトリ王子はロンズディン王の方に向いて問いかける。彼がそう言うのも無理はなく、子供たちを連れての遠乗りに出かけたレイシャーンはかなりの軽装だった。王族には見えないだろう。せいぜい下っ端の護衛だ。
そこでロンズディン王が、ゴホンと咳ばらいをし、
‟あー、これは一応余の子でな…レイシャーンという”
と返答するとドミトリ王子もさすがに一瞬固まった。
‟これは、失礼。あなたが。しかしそうだとしても、渦中にいた本人のみが証人では。これでは真偽のほどがわかりかねますな”
これにはさすがにロンズディン王もピクリと眉を上げた。
‟これは聞き捨てならぬ。殿下はわが国の王子レイシャーンの言葉が信用できぬと申すのか”
レイシャーンは、まずいっと思った。ロンズディン王が挑発に乗ってしまっている。
‟もちろん王のお気持ちはわかりますが、こちら、ナンドラのソーラ殿下も証拠も無しにご自分の国の者をならず者扱いされたのでは、面目が立ちますまい”
と、なおも言い募る。
‟そこまで言うのならば、わかった。証人を探すのは不可能。ならば、どうじゃお互いの国の面目をかけて、剣での勝負をするのは。負けた方が正式の謝罪をすることにしよう”
(ちちうえー!!)
レイシャーンも、後ろに来ていたミシルカも額に手を当てて、心の中で父王を罵った。
ドミトリ王子はニヤリと笑い、
‟それは名案です。もちろんロンズディンからはレイシャーン殿が出られるのでありましょうな”
‟もちろん”
レイシャーンの剣の腕は国軍内でこそ、その強さを認められているが今まで他国の剣士と正式に対戦する機会はなかった。レイシャーン自身、自分の腕がどこまで通用するかはわからない。そういうこともあり、今回の剣術試合は楽しみにしていたのだが、こんな形で、ではなかった。
‟それでは、ナンドラの騎士達は大半がケガをしておるゆえ代理剣士としてギルアドニアから一人お貸ししよう。よろしいな、ソーラ殿下”
‟はい、お心遣い感謝したします”
ソーラ王子ももうどうとでもなれ、という心境なのだろう。能面のように無表情でただ頭を下げるだけだった。
‟近衛隊長をお貸ししたいところだが、あいにく彼はこの後、試合を控えているゆえ、そうだな…アレを連れて来い”
と、ニヤリと笑い近くに控えていた護衛に声をかける。
礼をして去って行った護衛が連れて戻ってきたのは、大柄なギルアドニアの近衛隊長より頭が二つ分ほど大きい、とにかく大きい大男だった。肌が黒く異国の者のようだ。
ドミトリ王子はニヤリとして大男に近づくと
‟さあ、お前の出番だ。相手はロンズディン王の王子だ。命がけで戦えよ”
と言って、自分の席に戻った。男は無表情で立っている。
“…”
その場にいる者たちは唖然とした。
これは、最初から計画していたな。
大男の力量は定かではないが、おそらく近衛隊長と同格かそれをしのぐものに違いない。最初からロンズディンに言いがかりをつけて試合を取り付け、自国の隠し玉でこちらをコテンパンにして恥をかかせるつもりだったに違いない。だからこいつを剣術試合には出さなかったんだ。
周りで見守っていた人々は予定外の余興に興味を示したようだ。青ざめたり、怒りで赤くなったりしてるのはロンズディンの者たちばかり。
ロンズディン王も青ざめたが、
‟良かろう。レイシャーン、準備を”
と平静を装いレイシャーンに声をかける。
‟承知いたしました”
自分の武器を取りに行く途中、将軍と副将軍が声をかけてきた。
‟レイシャーン、大丈夫か”
‟まあ、頑張るしかないでしょうね”
レイシャーンは肩をすくめる。
‟あの大男、どこかの奴隷市で買ってきたのではないか?おそらく剣闘士だろう。西南の大陸では合法に行われていると聞く”
‟捕まるなよ。どの程度動きが速いか予想がつかないが、捕まったらお前の頭などあっという間につぶされてしまう”
‟伯母上、それは私を激励してくれているのですか?それとも、怖がらせているのですか?”
と、レイシャーンはちらりと二人を見やる。
‟まあ、つぶされたら、拾いに来てくださいね”
‟リ-シャ!”
軽口をたたくレイシャーンに、後をついてきたミシルカが怒ったように声を上げる。
‟ふざけてる場合か。お前、もしものことがあったら…”
‟ごめん、ルカ。でも引くわけにはいかない。私は軽率なことをしたのかもしれないが間違ったことはしていない。この方法でしか証明できないのなら、全力を尽くすまでだ”
‟リーシャ…”
‟大丈夫、この試合で死ぬようなことはないだろう。それに、負けるつもりもない”
“わかった。リーシャの勝利を信じる”
といってミシルカはレイシャーンをぎゅっと抱きしめた。




