ドラマ黄昏時に落ちる星 EP13 剣術試合2
ワーッと歓声が上がる。
美丈夫のジャルドー伯爵と美しいミシルカの対戦は人々の、特に女性たちに目の保養にもなったらしくあちこちでため息やらざわめきが聞こえてきた。
‟参りました”
と、頭を下げるミシルカ。
‟いえいえ、こちらこそ、危ないところでした。ミシルカ様の腕は侮れません。それにしても、これでは皆にかなり恨まれてしまいますな”
と、伯爵は如才なく返す。
‟ご冗談を”
とミシルカは華やかな笑顔を返すと退場した。その微笑みにその場にいる男も女もほーっとため息をついた。伯爵の息子のジュリアンも寄ってきて
‟お見事でした、ミシルカ様。私などまだまだ父には三本に一本も取れないのに”
と、ミシルカに汗をぬぐうためのハンカチを手渡す。
その時、
‟ルカ!”
‟リーシャ!戻っていたのか”
レイシャーンが歩み寄ると汗をぬぐいながらミシルカがにっこり笑う。これは、先ほどの社交上の笑顔とは違う屈託ない心からの笑顔だ。傍に居たジャルドー伯爵親子もミシルカの微妙な変化に気がついて一歩距離を置いた。二人に礼をしてレイシャーンはミシルカに向き直る。
‟ルカが出ていたとは知らなかった”
‟お前の代わりだ。急に欠場になっただろう?お前の対戦相手が余ってしまったので数合わせで出たのだ。負けてしまったがな”
‟いやいやここまで勝ち抜いたのだから大したものだ。しかもジャルドー伯爵の腕前は相当なものだぞ。あれだけ踏ん張ったんだ、よくやったな”
と、レイシャーンはミシルカのほつれた髪を耳にかけてやる。何気ない仕草でミシルカも平然としているが見ている者はなぜかどきりとして赤面してしまった。
そこに、一人の近衛騎士が後ろから声をかけてきた。深々と頭を下げ、
‟レイシャーン様、陛下がお呼びです”
言われることは大体予想がつき、胸の中で舌打ちをしながらも神妙な顔をして王のそばに行き膝を折る。
‟其方、やってくれおったな”
と王が苦々しい顔で話し始める。
‟まあ、仔細は聞いておる。お前に非があるとは思えぬが、ただ、相手側が証人もいないのに一方的に悪者扱いされた上ケガをさせられたのでは面目が立たないと申してな。そう言われるとこちらも弱い”
‟申し訳ありません、陛下。短慮でした。私が名乗りでてことが収まるのであればよいのですが相手がそれで納得するか…”
‟そこよの。だがこればかりは仕方があるまい。ないものは出せない。正直に言うしかなかろう”
そうしているうちにも試合は進んでいる。今、三組目の対戦を始めたのはモレスロントの近衛騎士と、カーメイの王太子ゾリークだった。モレスロントの騎士はこういう大会では常に上位三人に入る名の知れたベテラン剣士だった。ゾリーク王子は噂で強いと聞いているが人物も剣技も実際に見るのは初めてだ。長身に引き締まった体躯。精悍な顔立ちに強い意志を感じさせる漆黒の瞳。レイシャーンは既視感を覚えた。ゾリークは余裕の表情を見せて剣を構えもせず優雅に立っているだけなのに隙が無く、相手の騎士は剣を構えたまま固まってしまっている。
二人の剣士は少しの間見合っていたが緊張に耐えられなくなったのか、均衡を崩そうとしたのか近衛騎士が‟はあー!”っと気合を入れて素早く切り込んでいく。
速い!
しかし、ゾリークは対照的にむしろゆっくりしたわずかな動きでそれをかわす。二度それを繰り返した後突然ゾリークが目にもとまらぬ速さで剣を振り切った。
切られる!
その場にいた誰もがそう思い、観ている婦人たちは目をつむった。
だが、その剣先は近衛騎士の首元でぴたりと止まっていた。一瞬その場は静まり返りその後、歓声が響き渡る。
近衛騎士は冷や汗をぬぐい、礼をする。
‟ま、参りました”
ものの数分。上位者同士の対戦でこんなにも早く決着がつくのは珍しかった。しかも敗れたのは優勝候補に挙がっていたモレスロントの近衛騎士なのだ。
‟すごい”
ミシルカはあっけにとられている。レイシャーンはごくりとつばを飲み込む。
あの時のマントの男はやはり…
最後の四組目はギルアドニアの近衛隊長とアバティーナ国の剣士だ。この対戦はどちもがっしりとした体格の者同士で接戦となった。半刻にも及ぶ長い対戦のあとギルアドニアの近衛隊長の勝利した。この後は、上位に残った四人の剣士たちに十分に休憩を取らせるために遅い昼食も込みで二刻のちに再開することになった。
昼食のために席を立とうとしたロンズディン王のもとに、さっとギルアドニアの第二王子が来て礼をとる。
‟恐れながら、ロンズディン王、今朝お願いた議につきましてのご返答をいただきたく存じます”
後ろにはナンドラの王子が首を縮こませて立っている。




