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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP10 生誕祭1



 今年はロンズディン王の四十回目の誕生年である。その為盛大に祝いの催しが計画されており他国からも多数貴賓が来ることになっていた。

 ギルアドニアからは第二王子ドミトリ、モレスロントからは王の従妹でありロンズディン王妃の兄ルシアン公爵、カーメイからゾリーク王太子、その他の近隣諸国からも国賓が招かれる。この機会に関税に関する会議も行われる予定になっていた。


 公式な行事の後は狩りやら舞踏会やら茶会やらも予定されているが一番の目玉になっているのは剣術試合である。

 この試合の形式は単純に個人の試合であり一定の基準を満たしていれば一国かのら参加人数に制限はない。ただ時間と場所に限りがあるため大体三人から五人くらいとなっている。剣術となっているが得物は剣でも刀でも槍でも構わず男女無差別の勝ち抜き戦である。ロンズディン国で開かれるのであるから当然自国からの参加人数も多くなるが大体の上位者の予想は五人ほどだ。カーメイのゾリーク王太子、ギルアドニアの近衛騎士団長、モレスロントの近衛騎士、ロンズディンのジャルドー伯爵、そしてレイシャーンである。レイシャーンは今まで他国の剣士と戦ったことはないが国内では将軍に次ぐ腕である。将軍は審判をするので出場はしないためロンズディンの者たちはひそかにレイシャーンに期待ししていた。


 貴賓たちの滞在期間は国によって違うが大体誕生祭の数日前より入国し、誕生祭当日から三日から一週間ほどとなる。その間、城下にも貴賓についてきた護衛の中でも身分の低い者や荷物持ちの者などが滞在することになる。宿屋や商人たちにとってはかき入れ時だが、同時に諍いが起きやすい。そこそこの身分の者や王宮に主とともに王宮に付き添う護衛はともかく臨時で雇われた荷物持ちや身分が低い兵士などは主人の目が届いてないこともあり他国の者同士で喧嘩沙汰になったり、地元の住民と諍いになったりするのだ。そんなわけで軍に属するレイシャーンは市中の見回りなどで非常に忙しかった。



 誕生祭の前日レイシャーンは私服で城下にいた。この日はさすがに非番で(前日くらい休みを取って一日かけて小ぎれいにしておけという王と王妃の勅命により)王宮にいるはずだったのだが孤児院にどうしても届け物をしたくて抜け出してきた。城下には多くの兵士が見回りをしていて見つかってモイラン叔母に告げ口されては困ると思い粗末なフード付きのマントに身を包んで先を急いでいた。

 早く戻らないと侍従長にまた嫌味を言われてしまうな、と一人言を言いながら歩いていると、人垣が見える。


 なんだ?


 野次馬根性半分と職務の癖で覗きに行き近くの商店のおやじに聞くと


 ‟柄の悪い連中が花売りの娘に嫌がらせしたあげく、連れ去ろうとしたんだよ。止めようとした肉屋のトクラが剣の柄でひどく殴られて、その上危うく切られそうになったところにあの黒のマントの男が止めに入ったんだ”


 ‟ナンドラ国の護衛様だと偉そうに言ってたけどありゃ、ならず者とかわりゃしない”


 と、となりに立っている男も苦い顔をしている。


 レイシャーンが人だかりの中心に目をやると体格のいい目つきの悪い男たちが六人、それに対峙して背の高い黒のマントにフードを深くかぶっている男が一人が立っていた。


 黒マントの男の後ろには髪は乱れ顔は涙でぐちゃぐちゃになった花売りの娘とその肩を抱く中年の女が地べたに座り込んでおり、彼女たちの傍には目元を腫らし鼻血で顔が真っ赤になった男が倒れていた。


 ‟ナンドラも相当人手不足のようだな。臨時の護衛にならず者を雇ったか、それとも上官が相当の能無しか”


 マントの下から響く声は六人の大柄な男たちを前にしても全く恐れを感じさせない自信にあふれたものだった。そのもの言いから推察すると身分の高い人間がお忍びで市中見物でもしていたのだろう。

 まずいな、とレイシャーンは思った。他国の賓客がロンズディンの街中でケガでもさせられたら大変なことになる。腕に自信があるのかもしれないが、一対六ではさすがに分が悪い。レイシャーンは持っていた荷物を隣にいるおやじに預け


 ‟ちょっとこれ預かってて”といい、別の男にケガ人を助けるように指示すると自分もマントのフードを深くかぶりなおして人込みをかき分けた。


 ‟ちょっと、どいてどいて”


 と言って前に出るともうことは始まっていた。男たちは剣を抜いている。


 ‟うりゃー!”


 とならず者の一人が両手で大剣を振り上げマントの男に向かっていった。一人相手に六人、勝負にもならないと高をくくっているのだろう。相手の力量を見定める様子もない。大ぶりの剣は、もし当たったら相当の痛手を被ることになるだろう。


 あぶな…とレイシャーンが声を上げる間もなくマントの男は大剣をさらりとかわし、勢い余ってつんのめったならず者の背中を剣の柄で強くたたく。それだけでならず者は崩れ落ちた。力の差は歴然としていた。マントの男は剣も抜いていないのだ。この一瞬でそれが男たちにもわかったのだろう、今度は二人同時にかかっていった。マントの男は動揺する様子も見せずゆっくりと剣を抜いた。しかし場所が悪い。狭い上に人が多すぎる。それにロンズディンの見回りの兵士に見つかれば事は大きくなる。レイシャーンは、さっさと片付けた方がいいと判断し、自分もスラリと剣を抜いて渦中に入って行った。


 かけ寄るレイシャーンに気づいて一瞬マントの男の気がそれた。レイシャーンが敵か味方か判断着きかねたのだろう。その隙に敵が突っ込んできた。


 ‟!”


 マントの男の背中に向かってきた剣先を軽く自分の剣ではじいてレイシャーンが男の背中合わせに立つ。バランスを崩した敵の開いたわき腹に思い切り蹴りを入れた。男は倒れる。


 ‟おまえは?”


と、マントの男。


 ‟ただのもの好きさ。お使いの途中だったんだけど、こっちの方が面白そうだったからさ”


 とレイシャーンが軽い口調で答える。


 ‟ふざけたやつだな”


 と言って男もフッと笑った。


 ‟それに王様のお誕生日っていうめでたいお祭りをよそ者に台無しにされたくないもんでね”


 二人は会話しながらいきり立って襲ってくるならず者をいなしていたが、


 ‟それは済まないことをした。では、さっさと片付けるとするか”


 といって男はすっと一歩前に踏み出すと初めて自分の方からならず者に向かっていった。鮮やかな剣さばきで相手の剣をはじき落とし、切り返した刃で片足と片腕をなでる。


 ‟うぎゃあ!”


 腕と足を傷つけられた男は逃げることも、戦うこともできずにへたり込んだ。


 ‟お見事!”


 と言いながらレイシャーンも同じように敵の足を切って動きを止める。


 ‟そちらこそ”


 二人はあっという間に残りの三人ををかたづけてしまった。周りからは拍手喝采だ。


 ‟おやじ、どっかから縄を調達してきてよ。さすがにこのままってわけにはいかないだろ”


 そして受け取った縄で男たちを縛りながら


 ‟見回りの兵士が来たら適当に言っておいて”


 とおやじに頼んで、預けていた荷物を受け取った。

 それを見ていたマントの男は


 ‟名前は…聞かない方がいいのか?”


 とレイシャーンに視線を向ける。マントの下に見える瞳は漆黒の光をたたえており半分ほど見える顔は精悍で引き締まっていた。レイシャーンより少し年上のようだ。


 ‟うーん、それはお互い様じゃないのか?”


 レイシャーンは下から目線だけで見上げながら言う。


 ‟そうだな。とにかく加勢に感謝する”


 と言って背を向け去って行った。


 ‟必要なさそうだったけどね”


 と、レイシャーンも半分独り言のように言って目的の場所へ向かった。



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