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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP9 ミシルカの憂鬱

 

 ミシルカは王都にある孤児院に来ていた。孤児院はドートリアニシュ神官長の管轄下にあるが、彼はのんびりしているように見えて忙しい。なかなか城下に顔を出せない彼の代わりにミシルカは出来るだけ顔を出すようにしている。

 ミシルカを見ると供たちがわらわらと集まってくる。


 ‟天使様!”


 ミシルカは子供たちにそう呼ばれている。金髪が美しい外見の所為もあるが自分たちが食べるものと着るもの、眠るところがあるのはミシルカと神官長の働きによるものが大きいことを理解しているのだ。だからミシルカは子供たちにとって救いの天使なのだ。そしてミシルカもここに来るといつもの皮肉っぽい口調や生真面目なために冷たくなりがちな表情が出ず、まさに天使のほほえみを惜しげなく振りまく。


 ‟皆、こんにちは。今日は何をしていたの?”


 ‟エリスにねぇ、モノの数え方を教えてもらってたんだよ”


 ‟それは偉いね”


 つと顔を上げると小さい子供たちの後ろにやや年長の少年が照れ臭そうに立っていた。エリスは数年前にドートリアニシュ神官長が貧民街から連れてきた子だ。親が病か栄養失調による衰弱で死んでしまい、本人も骨と皮ばかりでごみを漁っているところを見つけたのだ。およそ人間とは思えないような生活をしてきたのだろうが、孤児院に来て落ち着くと驚くほど素直で聡明であることが分かった。読み書きもすぐ覚えたが算術や物作りなどが得意で本人も興味があるようだ。ミシルカはエリスをもっと学ばせていやりたいと考えていた。

 先日催した舞踏会での寄付金集めも、エリスのような子供にもっと未来への希望を与えてやりたいと思っての事だったが実際に手掛けてみると、勉強うんぬんより日々生きていくこと助けるのが先決なのだと実感したのが正直なところだった。

 私にはまだまだ力がない。それにすぐ解決できる問題ではないのだな。

 歯がゆい思いを隠しながら、子供たちの勉強の成果を見てやった。



 王宮に戻ると、ラストリル宰相が声をかけてきた。侍従長が後ろに付き従っている。


 ‟ミシルカ様、お探ししましたぞ。先ほどからジャルドー伯爵様とジュリアン様がお待ちです。また城下へ行かれたのですか?”


 侍従長が眉を顰める。


 ‟ああ、済まない。約束の時間に少し遅れてしまってるな。孤児院と療養所の様子を見に行っていた”


 と素直に謝罪したのだが、


 ‟下々の者たちに目をかけてやるのは大変結構ですが、ミシルカ様はもっと人の上に立ち、下のものを動かすことを覚えませんと”


 宰相に言われミシルカは一瞬黙った。こんな話は耳に胼胝ができるほど聞かされてきた。


 ‟わかっている。だが、私はまだ若輩者だ。もう少しいろんなことを幅広く知りたいんだ。自分のしてることに責任を持つためにも事がきちんとなされているか自分の目で確かめたい”


 ‟そのお心がけは立派です。ただ、あまりレイシャーン様の影響を受けて頻繁に城下に出かけられるのはお控えください。何かあったら大変です”


 ‟なぜここでレイシャーンが出てくる。関係ないだろう”


 むっとして答えると、


 ‟あなた様は次の王になられるお方。レイシャーン様とは違うのです”


 と、宰相は続けて言う。


 ‟だからレイシャーンは関係ないと言っている!それに兄上がいるのにそんな話をするな”


 ミシルカはとうとう、声を強めて言い放つと宰相に背を向けて立ち去った。

 宰相はため息をつき、


 ‟レイシャーン様のことになるとあのように感情を乱される。頭が痛いことだ…”


 後ろに控えていた侍従長も頷いた。


 ジャルドー伯爵親子との面談の後、まだむしゃくしゃしていたミシルカの足は自然と剣技場の方へ向いていた。うまく行けば兵士たちが訓練していることろを見られるかもしれない。

 ミシルカの期待通りレイシャーンの隊とほかの部隊の訓練は行われていた。人数が多いので今日は基礎訓練をやっているらしい。レイシャーンの剣技が観られないのかと、少しがっかりしながらその姿を探す。ミシルカがレイシャーンを見つけるより早くレイシャーンがこちらに向かってきた。


 “ルカ、来たのか”


 その笑顔に癒される。


 ‟少し時間ができたから。邪魔して済まない。こんなにたくさん兵士たちがいるところでよく私が来たのがわかったな”


 ‟お前が来ると兵士たちの落ち着きがなくなるからすぐ分かる”


 と、レイシャーンが苦笑する。レイシャーンの背後を見るとみんなこちらを見ながら顔を赤くしてざわついている。こんなところにミシルカが現れたので皆うれしい驚きに浮ついている。


 ‟…本当に邪魔したな”


 ミシルカはきまりが悪くなり‟

もう行く”と言って立ち去ろうとする。

 レイシャーンが慌ててその腕をつかみ


‟ルカ、何かあったのか?”


と顔を覗き込んでくるが、うまく説明もできず首を振る。


 ‟いや、息抜きに来ただけだ。私ももう行かないと”


 そう言って歩き出したミシルカにレイシャーンは後ろから声をかけた。


 ‟日没前には終わるから、丘にいる”


 それにミシルカはハッと振り向いて”約束だぞ”とほほ笑んで立ち去った。



 ~~~~



 ‟レイシャーン、お前、次の王にならないか?”


 先に丘に来ていたレイシャーンの隣に座るなりミシルカは問う。その顔からは表情が抜け落ちている。


 ‟いきなり何を言う。兄上がおられるのにそんなことを言うのはお前らしくない”


 そう言われてミシルカは苦笑した。泣きそうな笑みだ。


 ‟…そうだよな。私は何を言ってるんだか”


 ‟どうしたんだ、今日は。何かあったのか”


 心配そうなレイシャーンにミシルカは黙って首を横に振る。


 ‟自分がもの知らずで無力だという事を身に染みて感じたんだ”


 ‟そうか、私もいつもそう思ってるぞ。だからいろんなところに行ってたくさん学んで、兄上でもお前でも王になった時に支えられるようになりたいんだ”


 そういうレイシャーンの瞳には迷いはなくミシルカも心が軽くなった。


 ‟私もそうだ。私たちが二人で力を合わせれば一人前なるかな。まあ陛下はまだまだご健在だし私たちには学ぶ時間もある。お前と共にならばいろんなことができそうだ。いつかこの王室の古い体質を変えることも、もっと広い視野で国の内外をを見ることも”


 そう言ってミシルカはレイシャーンへ手を伸ばす。それをぎゅっと握りしめてくる手の力強さに安堵した。


 ‟実はちょっと焦っていたんだ。この前の寄付金集めの事もそうだが、私は表面上の事しかわからない。町の子供たちがひもじい思いをしてるから食べ物を与えたい、勉強させたいから学問所を作りたい、でも現実はもっと複雑だ。金が集まればその時はいいかもしれないが一時しのぎにしかならない。ではどうすればそれが継続されるのか、その方法はわからない。たまに城下に行って子供たちを見てわかって気になっていても結局何も出来ない”


 “そんなことはない。知ろうとすることは第一歩だ。子供たちのことを知ればその問題が自分にとって現実味を帯びてくる。何かを始めたら、それを続けるためにどうしたらいいのか考えようとする。そういうところから変わっていくんじゃないのか?言っただろう、私たちはまだこれからだ。時間はたっぷりある”


 空いている方の手てミシルカの頬に手を添え、こつんとおでこをぶつける。


 ‟そうだな、一緒に学んでいこう”


 ミシルカもようやく表情を緩めた。



 この時二人は共にある未来を疑っていなかった。




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