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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP7 王太子ルードウィック

 

 ‟はは、はは…ああ、苦しい。腹が痛い。レイシャーンがあのタットリア男爵にキス…”


 涙を流しながら体をよじって笑っているのはこの国の王太子ルードヴィックである。床から出るのは月に数回という病弱な青年だ。抜けるような白い肌、薄い金色の髪。優しい容貌の美しい青年が声をあげて笑うのはめったにないことだ。


 ‟兄上、そこまで笑わなくても…”


 先日の舞踏会の報告に来たミシルカとレイシャーンは二人とも苦虫を嚙み潰したような顔をしている。笑いすぎてせき込み始めたので慌てて侍女が背中をさする。それを手で制してミシルカの方を見る。


 ‟お前が怒ってどうする、ミシルカ。レイシャーンに助けてもらったのだろう?私もかの男爵の噂は聞いたことがあるよ。一度謁見の間で見たことがあるが確かにあまり魅力的な男とはいいがたかったね。ミシルカのためとはいえレイシャーン、お前もなかなか思い切ったことをしたな”


 ‟私も王太子殿下がそこまで笑うことはないかと思うんですが…”


 ‟レイシャーン”


 ‟すみません、兄上”


 自分を王太子殿下と呼んだレイシャーンを小さな声で咎めるルードヴィックに「兄上」と呼びなおしたレイシャーンはチラリとベッドサイドに控えている侍従の顔をチラリと盗み見る。無表情。黙認という事か。


 ‟ところで寄付は十分集まったのか?”


 涙をぬぐいながらルードヴックはミシルカに確認する。


 ‟はい、ほぼ目標額になりました”


 ‟そうか、足りない分はこれを使うといい”


 ルードヴィックは小箱に入った指輪を差し出す。


 ‟これはモレスロントのおばあ様から以前いただいた指輪ではありませんか。いけません”


 中を見たミシルカが慌てて押し戻そうとすると、


 ‟構わない。役立ててくれればおばあ様も喜んでくださるよ。それに私がこのような装飾品を持っていても使い道がない”


 さみしそうに微笑むルードヴィックにミシルカもレイシャーンも言葉を飲む。


 ‟王太子殿下、そろそろ…”


 ここで侍従が助け船を出すように声をかけた。ルードヴィックは小さく頷いて体を横たえる。


 ‟また面白い話を聞かせに来ておくれ”


 二人が兄の頬にキスをして部屋を出ようとした時、ルードウィックが“あ”と声を上げる。


 ‟そうだ、レイシャーン、お前に会わせたい者がいるんだ”


 そう言うと傍に控えている侍女に耳打ちする。侍女は一瞬眉を顰めたが礼をして部屋から出て行ったがほどなくやせた若い娘を連れてきた。着ている服を見ると下女のようだが、そんな身分の者がどうして王太子の部屋に、と訝しむ。


 ‟見覚えはないか?”


 顔を上げよ、というルードウィックに娘はおずおずと体を起こす。そう言われて首を傾げたレイシャーンが一瞬の間を置いて


 ‟ああ、お前か。ケガはどうだ”


 と破顔した。ミシルカがレイシャーンの顔を見る。娘は再度平伏したまま


 ‟あ、あの時は命を助けていただきありがとうございました!”


 震える声で礼を言われてレイシャーンは近寄っていく。娘の腕に手をかけて体を起こさせると


 ‟うん、傷はいいようだな。少なくとも顔の傷はきれいになってる。体の方はもういいのか”


 優しく問いかけた。娘は真っ赤になって


 ‟はい、もう痛みません”


 と消え入るような声で答えた。


 ‟この者の名はアナという。傷が治ってからお前の武勇伝を聞きたくて何度か来てもらったんだ。家族も失ったという事だからここで働いてもらっている”


 ‟兄上のお優しいお心づかいに深く感謝いたします”


 レイシャーンはその場で片膝を折り、礼をした。そんなレイシャーンをアナはぼーっと見つめていた。



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