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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 FP6 寄付の代償

 

 ようやく行列が途絶えて、ほっと一息ついたときミシルカの前に恰幅のいい一人の壮年の男が立った。


 たしかタットリア男爵といったか。元々大商人だったのが最近貴族の爵位を得たと聞いているが金はあるが品はない男の典型だな。招待した覚えはないのだが、誰かのコネでついてきたのか。普通招待状がなければ入れないのだが公式のものではなく寄付目当てだったので少し緩くしすぎたかもしれない。


 ‟私めもミシルカ様の慈善事業に貢献いたしたい。学習塾を新たに作るのであればその為の学舎を一つ提供させていただきたい”


 といってずっしりと重い袋を差し出してきた。

 多額の寄付である。


 ‟…”


 ミシルカが礼を述べようと顔を上げると、いきなり顔が近づいてきた。


 ‟代わりに私にも唇をいただく栄誉が与えられるでしょうか”


 ‟は?”


 ねっとりとした笑顔に呆れてめまいがした。いくら公式の場ではないといえ仮にもミシルカは王族だ。それすらも知らないのか、知っていてもこんな行動に出るほど馬鹿なのか。私を金を払えば何でもする人間だと思ってでもいるのか。お前は何歳のエロおやじだ、恥知らず。


 ‟タットリア男爵、無礼ですぞ”


 と傍にいたジャルドー伯爵も非難めいた声を上げる。それを無視し男爵はにやついた顔でミシルカをの返事を待っている。周りの者たちは眉をひそめながらも事の成り行きを興味深そうに見ている。近衛騎士が剣に手をかけようとしているのを目で制する。


 金は、欲しい。大事にもしたくはない。だが猛烈に気持ちが悪い。


 一体どんな言葉で罵倒してやろうか、それともこの硬貨の入った袋で殴ってやろうかと思案してると、


 ‟これはこれは、タットリア男爵。恵まれない子供たちのためにこれほどの寄付をしてくださるとはすばらしい”


 という明朗な声が聞こえて、すっとミシルカの前に立つ者がいる。


 ‟リーシャ”


 レイシャーンは舞踏会には参加していない。なぜここにいると聞く間もなく、ミシルカを自分の背にかばうように立つとレイシャーンは男爵から硬貨の袋を受け取ると近くに控えてい従者に預けおもむろに男爵に向きあう。


 恭しく礼をすると、


 ‟しかも代償が口づけ一つとは欲のない”


 訝し気な男爵の顔を両手でつかみ


 ‟!!!”


 ぶちゅー


 その場が一瞬静まり返った。そしてきゃーっという悲鳴があちこちで上がる。

 レイシャーンが男爵の限りなく唇に近い頬に口づけしたのだ。


 ‟な…私はミ、ミシルカ様に…”


 ‟まことに感謝いたします。では、失礼”


 と、にっこり笑い、あっけにとられる男爵と周りをしり目にさっそうと退場する。



 廊下を足早に歩いているレイシャーンの後ろから


 ‟リーシャ!”


 ミシルカが追いかけてきた。


 ‟おま、おま、お前はなんという事をしたのだ!”


 ‟言うな”


 とレイシャーンが顔をしかめミシルカを振り向きもせず


 ‟お前がバカだからだ!”


 と、珍しく声を上げる。


 ‟私が?なにを…”


 ‟寄付をもらって代わりにキスを返すなど、何を考えているんだ!”


 ‟あれは成り行きで…だいたいなんでお前がここにいるのだ”


 ‟舞踏会でお前が無理やり踊らされていないか見に来たんだ。そうでなければ、お前の言う成り行きであのスケベ男爵に危うく口づけされるところだったんだぞ!”


 レイシャーンは怒っている。


 ‟だからって、なんでお前が”


 ‟もうだまれ、ほかに思いつかなかったんだ。ああ、思い出すだけで吐き気がする、早く口を洗わないと”


 と、ごしごし袖口で口を拭きながらも歩みを止めないレイシャーンの手を掴むとミシルカが


 ‟い!私が洗ってやる”


 とさらに足を速めた。

 ミシルカも怒っていた。


 その場を離れた二人は知らなかったのだが、ミシルカとまではいかなくても、レイシャーンのキスをもらえるのなら大金を払っても構わないと思う紳士淑女は少なからずいたのだ。おまけにミシルカも退場してしまった。おかげで、タットリア男爵は皆から総スカンを食い、すごすごと帰って行ったのだった。これからしばらく彼は貴族たちに相手にされなくなるだろう。



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