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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP5 ミシルカの舞踏会

 

 ミシルカはドートリアニシュ神官長とともに孤児院や、学習塾の運営を担っている。学習塾は主に城下の平民のものだ。それを貧民にも広げたいと思っているのだが、これはなかなか障害が大きかった。国から金が出ないのであれば寄付を募るしかない。実際療養所や孤児院の運営は貴族からの寄付によるところが大きい。しかし教育の寄付となると貴族たちが渋るのである。平民は裕福な商人や技術職の子であれば優秀なものは教育の機会を得ることができる。だがそれはあくまでも特別に掬いあげられる形であり全ての平民の子供たちへの教育となると“余計”の一言に尽きるらしい。

 そこでミシルカは寄付を目的とした小規模な舞踏会を開くことにした。

 この際背に腹は代えられない。

 本来そういった催し物が苦手なミシルカにとっては苦肉の策である。



 良質なものを好みセンスのよい王妃の血を引いていても、ミシルカは無頓着というほどではないがいつもシンプルな装いを好んでいる。舞踏会などで紳士貴婦人たちがごてごてと着飾りお世辞を言い合うのを見ると鳥肌が立ってくる。しかし、ミシルカの舞踏会の計画を聞いた側近や侍女たちは、めったにない機会だと大喜びで衣装を仕立てる準備を始めた。王国の至宝といわれながらも着飾ることを好まない主人が服を新調する機会を逃すはずがない。


 寸法を測られながら、


 ‟私は主催者だ。絶対絶対踊らないからな。こんな衣装など無駄だぞ”


 と苦虫を嚙み潰したような顔をしている。

 そこへ王妃が見物にやってきて


 “こういうことも彼らの務めであり数少ない楽しみなのです。少しは察してやりなさい”

 と、ころころと笑いながら眺めていった。明らかに面白がっている。こうして周りが浮き浮きと舞踏会の準備を進めている間、ミシルカは寄付をしてくれそうな貴族を物色して招待状を作成した。



 そして舞踏会当日美しい衣装をまとったミシルカの姿は、招待されたものたちが自分たちの幸運を噛みしめるのに十分なものだった。豊かな金髪を半分緩く結い上げ残りは垂らす。髪留めはミシルカの目の色に合わせた青い宝石で淵には金の細かな装飾が施されている。ほっそりとして体のラインを強調するような長衣で腰には錦糸をふんだんに使ったサッシュを巻いている。長衣の裾が広がらないような作りになっているのは本人が絶対踊らない、という確固たる意志の表れの様で期待していた人々を落胆させたのだった。


 ‟もう一押しほしいな”


 王族らしくもなく集まった寄付を頭の中で計算しながらミシルカはつぶやく。


 ‟独り言ですか”


 と突然後ろから声をかけられた。びっくりして振り向くと柔らかな栗色の髪をまとめ優しげな顔した青年貴族が立っていた。


 ‟ジャルドー伯爵”


 ‟ジュリアンとお呼びください、ミシルカ様。先日の治水工事の件以来ですね。工事の計画と準備に関しての御助力大変ありがとうございました”


 仕事の事で褒められるのは純粋にうれしいのでミシルカもにっこりとビジネスではないスマイルを浮かべる。


 ‟ところで寄付の事をお考えでしたか”


 ミシルカは赤くなり、コホンと咳払いをする。


 ‟金勘定など下世話だと思っているのでしょう”


 ‟いえいえ、その様なことはありませんよ。恵まれない子供たちのためなのですから。ああ、それで思い出した。私の姪を連れてきているのですが彼女も何か寄付をさせていただきたいと言っておりました。ご紹介させていただいてよろしいですか”


 ‟それは素晴らしいお心がけ。もちろんです”


 伯爵は近くに控えていた自分の連れに何かささやく。その者はうなずいて消えていった。そして


 ‟ではミシルカ様、もう少し中央へまいりましょう”


 と言ってミシルカの背に軽く手を当てて話をしながら歩いて行く。中央に出てきたミシルカに人々は注目する。近くにいた貴族と他愛もない話をしていると、ほどなく、


 ‟ミシルカ様”


 という可愛しい声が聞こえてきた。

 可愛らしい少女がミシルカの前に立ってきれいにお辞儀をした。社交界デビューしたばかりだろうか。まだ幼さが残る顔立ちだ。


 ‟お話し中申し訳ありません。アンジェリーナと申します。私、ミシルカ様にお渡ししたいものがありまして”


 と言って小さな小箱を差し出した。


 ‟これは?”


 ‟私が持っている首飾りに一つです。ぜひ、ミシルカ様のお仕事にお役に立てていただきたくて”


 寄付である。


 ‟それは…まことにありがとございます。アンジェリーナ嬢”


 と言ってミシルカは小箱を受け取り、何気なく彼女の頬にキスをした。周りがどよめく。少女はポッと頬を染めた。ジャルドー伯爵も目を見開いている。

 自分のしたことがこれほど注目を浴びるとは気づかずミシルカは首を傾げ、会話を続けようとした。ミシルカが後悔したのはこの後すぐである。比較的年少の少年少女たちがこぞって寄付を始めたのである。両親にねだって、ある者は身に着けている宝石などの装身具、ある者は金貨の入った袋などミシルカの前に長蛇の列ができた。

 後悔してももう手遅れ。ミシルカはそれを顔に出さず辛抱強く笑顔を作り寄付をしてくれた少年少女たちに声をかけ握手をしたり小さい子にはキスをしたりした。



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