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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP4 二人の王子2

 


 ムンバートリ家は一応貴族の末席に加えられているが歴史は浅い。彼女の曽祖父ムフミ.ムンバートリがまだ戦乱の世であった頃に傭兵として、おそらく東国から流れてきて、たいそうな武勲を立てた褒美に当時の王から貴族の位を与えられたという。そのため特に裕福でもない。ただ優れた武人としての血は濃く受け継がれ、ムンバートリ家のものはだいたい軍の重要な位置にいてレイシャーンの母アイランも王に見初められた時は副将軍職に就いていた。長いつややかな黒髪、細身だが鍛え抜かれたしなやかな体を甲冑に包んで兵士たちを指揮する姿は美しく、剣を取らせれば将軍と互角に戦える腕を持っていたという。剣術試合の時に王はその姿に一目で恋に落ちたということだ。王の寵愛を受けながらも武人としての生き方を優先させたため、側室として正式に後宮に入らなかった。

 そんな彼女はレイシャーンを身ごもった時、優しく嫋やかな王妃をおもんばかり軍を辞しひそかにレイシャーンを出産したがその後すぐ病で亡くなった。


 ロンズデイン王国は男女の差はあまりなく女でも爵位を継げるし実力があれば宰相にも将軍にもなれるが、もともとの身分には重きを置いてる。そのため、宰相はじめ古参の臣下や有力貴族たちはレイシャーンが王位継承者であることを快く思っていない。王宮に召されたレイシャーンの生活は決して心地よいものではなかった。しかしレイシャーンは要領よく、飄々と頭の固い大臣や貴族たちの嫌味を聞き流し、堅苦しい王宮生活を乗り切っていた。

 ミシルカはモレスロントの王家より嫁いできた王妃エレノリアの子で、その血筋ゆえに王宮内では圧倒的支持を得ていた。実の兄である王太子は子供のころから病弱で満足に公務はこなせておらず王座に就くことはないだろうと口には出さないものの公然の事実だ。次期国王にミシルカを推す者は多いがミシルカ本人はそんな王宮内の空気にうんざりしていた。

 そして周りの思惑に反してミシルカとレイシャーンは誰よりもお互いを大切にし一緒にいて気安い相手だったのである。


 ~~~~


 ‟ミシルカ、今日も忙しいのか”


 朝食のために食堂に入ってきたレイシャーンは軍の隊服を着ていた。


 ‟朝はいつも通りラストリル宰相のところに政務を手伝いに行く。お前は?出かけるのか?”


 ‟いや、今日は何人か新しい隊員が入ってくるからその案内をするから隊服を着てるだけだ。その後は鍛錬が主だな”


 ‟なんだか、楽しそうだと思ったらそういうわけか”


 ‟今日は将軍も伯母上も忙しいらしくて私が任された。うるさい方々がいないと気楽だからな”


 とにかっと笑う。


 ‟それはうらやましい限りだ”


 と、ミシルカはため息をつく。


 ‟こちらは頭の固いじい様方と鼻を突き合わせての話し合いだ”


 “俺には到底無理だ。というか、大臣たちの方が俺と会議に同席すると半刻ももたないだろう。その点お前はすごいよ、ミシルカ。素晴らしい才能だ”


 ‟褒められてもうれしくない”


 とミシルカは鼻にしわを寄せる。


 ‟ま、暇があったら気晴らしに鍛錬に顔を出しに来い”


 と言ってレイシャーンはパンに冷たい肉と野菜を挟み素早く食べ終わると出て行った。





 ‟ラストリル宰相、少しよろしいですか?”


 午前中の政務を粗方終え、休憩に入ろうというときミシルカはラストリス宰相に声をかけた。


 ‟これはミシルカ様、いかがいたしましたか”


 ‟ジャルドー伯爵の領地内の河が大雨の度に氾濫するため、治水工事を検討している件ですが”


 ‟ああ、誰かそういう面で詳しいものを探していたところでしたな”


 ‟モレスロントはその類の技術が発達しています。技師を借りるということは可能でしょうか”


 “なるほど、いい考えですな。王妃様のお口添えがあればより話を持っていきやすくなりますでしょうな”


 ラストリル宰相は非常に有能でロンズディン王も全幅の信頼を置いている。代々宰相を何人も輩出している家柄で本人の意識も高い。彼は頭もよく血筋もよいミシルカをとても買っている。ミシルカの提案や質問にはいつも快く答え、政務のノウハウを教えてくれる。ミシルカにとっては頼りになる師のような存在だが、レイシャーンを煙たがっている者たちの筆頭だった。


 “ところで、ミシルカ様、先日の平民の子供たちのための学習塾の事ですが、やはり今回は予算の捻出は難しいとの事です。皆ミシルカ様のお優しいお心に感銘を受けておりましたが何分ほかに優先させるべきことが多くありまして”


 ミシルカは唇をかんだ。

 予想はしていたことである。立ち去る宰相の後姿を眺めながらミシルカは思案に暮れた。





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