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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP3 二人の王子1


 ロンズディン王国は、周囲を山に囲まれた自然の美しい小国である。緑の森と美しい川や湖がありもともとは農耕で自給自足をしてきてのんびりした国であった。しかし三つの大国と隣接しており、産業の発展とともに物資の流通が活発になり三国の通過点として重要な位置を担うようになっていった。三国はロンズディンを通過しないと現時点では互いに交易を行うのは困難なのである。そのためロンズディンは交易の重要地点となりここ百年程の間に急速に経済成長を遂げた。一応三国とは通商協定を結んでいるがそのうちの西に位置するギルアドニアは隙あらばロンズディンに侵攻しようという危うい空気をはらんでいる。真北に位置するモレスロントは王妃の実家である。東に位置するカーメイはつかず離れずの関係であるが今のところ表立っての問題はない。


 ロンズデイン現国王には現在三人の王子がいる。王妃の長男である王太子。二番目のミシルカ。そしてミシルカより二歳年上の愛妾の子レイシャーン。王太子は病弱でり、そのすぐ下は愛妾の子。その次が正室の子という微妙な関係にありながら、子供たち同志は仲良く成長してきた。


 ミシルカとレイシャーンが初めて出会ったのはレイシャーンが王宮に入るずっと前だった。ドートリアニシュ神官長に連れられて城下をお忍びで訪れていたミシルカと叔母モイランに連れられて城下を見回っていたレイシャーンは神官長が責任者を務めている療養所で初めて出会った。


 天使みたいだ。男の子?女の子?


 ミシルカを見た時の第一印象はそれだった。レイシャーンと同じくらいか、少し年下に見える。六、七歳くらいだろうか。派手ではないが上質な服を着て緩いウェーブのある長い金髪に大きな瞳。おそらく身分の高い家の子供であろうことはすぐにわかったが、その子は薄汚れた子供たちを数人集めて小さな木箱の上に籠に入れてもって来た焼き菓子を広げていた。


 ‟これには木の実が入っていて、こっちには干したブドウが入ってる。こっちの方が甘いくて柔らかくて、こっちの方がカリカリしている”


 と、焼き菓子を指さして説明している。一人の子が一つの菓子を指さすと、それを手渡そうとして、


 ‟あ、手を洗ってきたか?”


 と問いかける。その子が首を振ると


 ‟ちゃんと取っておいてやるから洗ってこい”


 と促す。その様子をレイシャーンはぼーっとしてみていた。視線に気が付いたのかミシルカはレイシャーンに目を向け


 ‟お前も食べるか?”


 と声をかけた。レイシャーンはフルフルと首を振る。断られたことに気を悪くしたのかミシルカが眉を顰めたので


 ‟他の子に足りなくなるから、いらない”


 と、慌てて答えた。ミシルカは一瞬目を瞬かせて、


 ‟そうか、優しいな、お前は”


 とにっこり笑った。

 自分より小さなその子は大人びた物言いをしていたが、笑顔は愛らしく心がほっこりと温かくなった。その子が王様の子であることは後から叔母に聞いたが驚きはなくむしろ納得した。それから後、叔母が王宮に呼ばれるときはレイシャーンもミシルカの遊び相手としてついていくことが多くなったのだった。少し大きくなると一緒に剣や乗馬の練習をしたり、読み書きを学んだ。武術はレイシャーンの方が優れ、学問はミシルカの方が上だったのでお互いに得意なことを教え合ってともに成長してきた。



 ~~~~


 そして現在。十八歳ともなれば立派に政務を手伝える。この日も、宰相の補佐をして朝の仕事を終えたミシルカが廊下を歩いていると、貴族の子弟たちの話し声が聞こえてきた。


 ‟さっきムンバートリとすれ違ったぞ。こちらが立ち止まって挨拶をしているのに、軽く会釈してさっさと行ってしまった”


 ‟教養もない粗野な育ちの奴だ。そのくせ陛下にかわいがられているのを笠に着て好き放題してる”


 それを耳にしたミシルカはすっと廊下を曲がり彼らの前にでる。二人はミシルカの姿に一瞬びくっとしたが顔を赤らめ恭しく礼をとる。


 ‟これはミシルカ様、本日もお美しくあらせられる”


 ‟ミシルカ様にお会いできるなど今日は何と幸運なことでしょう”


 それに対して軽く頭を下げると冷ややかな視線を送り、


 ‟朝から無駄話にお忙しいようですね。ちなみにムンバートリ隊長は今朝がた城下の療養所の建物が崩れた件で急ぎ出て行ったのです。あなた方と一緒にお互いの容姿を褒めあったり機嫌を取ったりする暇などなかったのでしょう”


 この言いように二人ともむっとしたがミシルカ相手に言い返すこともできず気まずい雰囲気が流れる。そこに、少し間延びした声が入る。


 ‟皆様方、ごきげんよう。どうされました、こんなところにお集まりで”


 とドートリアニシュ神官長が姿を現す。


 ‟なにか面白い話でもありますのかな?ぜひわたくしめにもお聞かせいただけますか”


 “いや、神官長様の貴重なお時間を無駄にすることはできませぬ。われらも職務に向かわねば。では、ミシルカ様、神官長様、ここで失礼いたします”


 と二人とはそそくさと逃げ出した。それを見送りながら神官長はミシルカをちらりと見て、


 ‟いけませぬな、ミシルカ様。もう少しお言葉を抑えることを覚えなされませ”


 と、諭すように言う。その言葉に、ミシルカはむっとして言い返す。


 ‟何を言う、ドートリアニシュ神官長。そなたも聞いておったのではないのか?あの者たちがリーシャの事を何と言っていたのか”


 ‟彼らがレイシャーン様をどのように言おうとレイシャーン様の価値は落とすことはできませぬ。ご本人も彼らの嫌味など、右の耳から左へと筒の中を通る水のように流しておられるでしょう。あなた様がそうむきになり、あのように言葉であの者たちを追い詰めては益々レイシャーン様への風当たりが強くなるばかりです”


 ‟そういうものなのか?”


 ‟そういうものです。だいたいレイシャーン様が王宮にいらしたばかりの頃、そうやってやり過ごせとおっしゃったのはミシルカ様だと伺っておりますよ”


 ぷうっと頬を膨らませたミシルカを見て神官長はあきれ顔で言う。


 ‟やれやれ、ミシルカ様。あなた様はたいそう聡明で理知的で宰相殿の補佐を立派に勤めておられる。それなのにレイシャーン様のことになると子供のようにむきになる”


 ‟そんなことはない”


 とミシルカは更に口をとがらせる。そんな仕草をすると普段の優雅さや近寄りがたさが消えてずいぶんと子供っぽくなる。こんな表情を見せる相手はレイシャーン以外では、小さいころからミシルカを知っているこの神官長くらいのものだ。


 ‟それに、彼らがあのように言うのは、なにもレイシャーン様の事を見下しているからだけではありませぬぞ。レイシャーン様とお話をしたいと思っていたのに相手にされなかったので残念な気持ちを素直に出せないのです”


 ‟…それは、あの者たちがリーシャを好ましいと思っているということか?”


 ‟もちろんですよ。レイシャーン様は見栄えも良ければ、とても気さくで魅力的なお方です。仲良くなりたいと思っている者は大勢いますよ”


 それを聞いたミシルカは益々不機嫌になり


 ‟なお、悪いわ”


 とフンと顎をそらし立ち去ろうとした。その姿を神官長はやれやれと苦笑しながら見送ろうとしたが、ふと気が付いたように、


 ‟ところで療養所の建物が崩れたとか。大事ではありませんか。病人やけが人の救助や移送の手配などもうされたのですか?私の方には報告は上がってきておりませんが”


 振り向いたミシルカがしらっとした顔で、


 ‟ああ、レイシャーン一人で大丈夫だろう。たぶん雨漏りを直しに行ったのだ。時間が余れば城下をぶらついて鍛錬まで帰ってくるだろう”


 と言って今度こそ去って行った。

 恐らくレイシャーンは急用のあるふりをして逃げて行ったのだろうし、ミシルカも出まかせを言って貴族の若者たちをごまかしたのだろう。


 ‟どちらも頼もしく成長なされた”


 ドートリアニシュ神官長はニヤニヤ笑いながらミシルカと反対方向に歩いて行った。



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