ドラマ黄昏時に落ちる星 EP2 丘の上の誓い
レイシャーンとミシルカは毎日王城の裏手にある丘に来て語り合った。
‟王族や貴族は窮屈なものだ。レイシャーンのように勝手に家族から引き離されたり、好きでもない人間と娶せられたり。王族への忠誠心が篤い者も多いがその者たちも忠誠心に縛られて自分の家族や人生を犠牲にしなければいけないこともある”
ある日ミシルカがぼそりと言った。
‟その忠誠心だって裏表があるものもいるし、利害が絡めば危うくもある”
‟確固として信じられるものなどないのでしょうか”
レイシャーンもつぶやく。
‟親子の情だとて忠義の前には押し殺さなければならない時もあるし、友情だとて利害の前には揺らぐこともあろう。だが、レイシャーン、お前は私の心は信じてもよいぞ。私は決してお前を裏切らない。誓って”
ミシルカが胸を張りレイシャーンをまっすぐ見つめて言う。
‟ミシルカ様”
‟身分もしがらみも、婚姻も何も私の心は変えられない。それだけは覚えておいてくれ”
‟私も、あなたを決して裏切りません。この命よりもあなたが大切です。私の心からの誓いです。身分もしがらみも、婚姻も何も私の心は変えられません”
レイシャーンもミシルカをまっすぐ見つめる。二人はお互いの誓いをそれぞれの心に刻み込んだのだった。
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七年後
‟モイラン殿がそのようなことをおっしゃったのか。お前の方が身分が高くなる、そしてお前の臣下になるからわが子とは呼ばない、と”
ミシルカが笑いを堪えるようにレイシャーンを見る。
‟言った。確かに言った”
レイシャーンは草原に寝転がりながら顔をしかめている。
‟それにしては…”
とミシルカは堪えきれずに噴き出す。
‟な、笑えるだろう?あれが臣下の態度か?言いぐさか?今朝顔をみるなり顔を洗ったのかだの着付けがきちんとされていないだの小言の嵐だ。この前の報告書だって間違い字が多い、字が汚いとさんざん貶されて手習いからやり直せだとか言われたぞ”
‟まあ。軍での身分はモイラン殿の方が上だからな”
叔母であるモイランは女性にしては背が高めだがすらりとしてややきつめだが非常に美しい容姿をしている。それに反して副将軍らしく剛毅な性格でずけずけとものをいう。レイシャーンは育った家を離れてから七年も経つというのに相変わらず子ども扱いされ何かにつけてダメ出しをされている。
丘の上の誓いから七年の月日がたった今もあの日の事は忘れない。レイシャーンはあの時から少しずつ本来の明るい性質を取り戻し、非常な努力によって王宮での自分の位置を確立していった。
母親譲りの黒髪を無造作に束ね黒い瞳はいつも煌めいており生命力が溢れていてそれが整っている容姿を親しみやすく見せている。その上卓越した剣技、王宮での教育で培った気品ある立ち居振る舞い。そして本人の伸びやかな性格で人々の心を掴んでいったのである。
ミシルカも他国に知られるほどの美貌の持ち主に成長した。輝くような黄金色の髪と深い紺碧の瞳は見るものをくぎ付けにして止まない。華やかな容姿とは裏腹に勤勉でまじめな性格と意外に身分にとらわれない言動で国民にも慕われる存在となっていた。
レイシャーンは、正室の子であるミシルカの次に王位継承権を持つ身だ。本人の強い希望で十三歳で軍の養成所で他の子供たちと同様に訓練を受けた後、正式に軍に入り今は一個隊の隊長になった。副将軍である叔母モイランはレイシャーンの上官に当たり、本来なら傅かれる立場であるレイシャーンはあべこべに命令を受けたり叱咤されたりしているわけである。十八歳で隊長というのも早い出世だがレイシャーンは頭もよく武術にも優れ誰も異を唱えなかった。何よりも上からはかわいがられ、下からは慕われるという得な性格をしていた。気取らないレイシャーンは王の子であるということはほとんどの者、特に上の立場にある者たちは知っていたが軍の中では特別扱いもされず比較的のびのびと過ごしていた。
七年前、王宮に入ったレイシャーンはすぐに王に面会させられた。緊張しながらもきちんと礼をしようとするレイシャーンを傍近くに呼び寄せ、王はその体を抱きしめて涙を流したのだった。
‟お前が…アイランの子だったとは。似ているとは思っておったがこうして間近でみると生き写しだ”
レイシャーンは言葉もなく体を硬くする。
‟わかっておる。家族から引き離してお前には済まないと思っている。だが、余もアイランを失いその隙間は埋められずにいる。これからは余の傍で少しでもそれを埋めてくれまいか。家族に会いに行ってもよい。王宮で好きなことをしてもよい。アイランもそのような自由な女であった。余はそんなアイランが愛しかった。お前もお前のままでいてよい。ただ、余の傍にいてほしい”
この王の言葉はレイシャーンにささやいただけだったのだが、近くにいて耳にした者たちには少なからず衝撃を与えたのだった。この時からレイシャーンはある者達にミシルカの王位継承を脅かす存在として王宮で認識されたのだった。




