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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP1 王宮へ

ここからしばらくドラマが続きます。転生してきた人たちの記憶をもとにしたお話です。

 


 ‟私が陛下の子供?”


 レイシャーン.ムンバートリはびっくりして目の前の叔母モイランを見つめる。一日の鍛錬を終えた後、剣の手入れをしていたレイシャーンは叔母のモイランに呼ばれて彼女の書斎に来ていた。そこには彼女の夫である叔父の姿もあった。ムンバートリの家名はモイランが継いでおり夫婦で王国軍に属しているが役職もモイランの方が上である。寡黙な叔父は黙って叔母の後ろに控えていた。いつもと違う固い雰囲気に何かいやな予感をしながら話を聞いていたのだが、まさに青天の霹靂とはこのことだ。大きな瞳を更に見開き育ての母と慕う叔母を見つめる。今伝えられたことを理解しようとするがその努力はあまり成果があるとはいえなかった。


 実の母も軍人であったが自分を産んで間もなく病気で亡くなったことも聞いている。父親も自分が生まれる前に亡くなったと聞かされており、未婚で自分を身ごもった母は副将軍という要職を退いたという。残されたレイシャーンを妹のモイランが引き取り自分の子として育ててくれたのだ。


 ‟そうだ。姉上は副将軍というお役目を担っていたので後宮に入ることを拒み陛下もその気持ちを汲んでくださったのだ。陛下は姉上がお前を身ごもっていたこともご存じなかった。姉上がお前を身ごもったことに気づいたころ、王妃様の初めてのお子である王太子がひどい病に罹っていてな。王妃様のお気持ちも慮って腹が目立ってくる前に病にかかったと言って役目を退いて田舎に引きこもったのだ。だがお前が王宮に出入りするようになり、姉上に生き写しのお前を見かけて陛下はずっと疑っておられたようだ。どうやら人を使って調べさせたようでお前を取り上げた産婆を見つけて話を聞いたりして、私としてもこれ以上隠し通すことができなかった”


 私の実の子だと言い張ることも考えたがあいにく私と姉上は全く似ていないからな、と苦笑した。


 ‟そのようなことを急に言われても…。叔母上、私はこれからどうなるのですか?この家を出ていかなくてはならないのですか?”


 レイシャーンにとっては自分が王の子であることも驚きの事実だったが、それよりも自分を実の子供たち同様にかわいがって育ててくれた叔母夫妻や兄弟同様の従妹たちと離れるほうがショックだった。ムンバートリ家は貴族といっても身分は低く歴史の浅い武官の家系で、武人としての躾は厳しくとも気取らずおおらかな家風だ。レイシャーンは叔母について幼いころから王宮に出入りしていて、そこがどういう場所かはよく知っている。陛下のお子であるミシルカは大好きだがあんな窮屈なところでは暮らしたくない。


 ‟わたしは…いやです”


 レイシャーンの目からぽろりと涙がこぼれた。


 ‟レイシャーン…”


 モイランも悲し気な表情で見つめる。


 ‟私たちだってお前を離したくない。だが、陛下がお前をお子だと認められた以上このままというわけにはいかないのだ。お前の身分は私たちよりも上になる。何より陛下はお前をおそばに置きたいと強く仰せられている。もったいないいお言葉だ”


 ‟でも!私は行きたくない!”


 ‟レイシャーン!わきまえろ!”


 いきなり叔母が声をあげる。


 ‟わがムンバートリ家は家格こそ低いが王家への忠誠だけで貴族と認められた誇りある家系だ。私情に流されて、陛下のお心に背くこうなど間違ってもあってはならない。よいか、お前は三日後に王宮へと召される。その後は我らはお前の家臣となるだ。金輪際お前をわが子とは呼ばん。わかったな!”


 レイシャーンは言葉もなくしゃくりあげた。たった半刻ばかりの話でそんなことを言われて納得するには十一歳のレイシャーンは幼すぎた。


 叔母の通告通り、レイシャーンは三日後王宮へと旅立っていった。


 ~~~~


 王宮に来た当時レイシャーンはしばらく部屋に引きこもりがちだった。懐かしい生まれ育った環境から引き離され、厳しい王族としての行儀作法などを覚えなければならずレイシャーンはすっかり塞いでいた。その部屋に日参するものがいた。王妃の子であるミシルカである。


 ‟レイシャーン、入っていいか?”


 開いた扉のかげからキラキラ金髪で天使の様なかわいらしい顔をひょっこりのぞかせてミシルカが問いかける。嫌だなどということはできず、レイシャーンは頷く。


 ‟今日は焼き菓子を持ってきた。干しブドウと木の実が入っていてうまいぞ。一緒に食べよう”


 と言って大ぶりのハンカチにくるまれた焼き菓子をテーブルの上に広げた。


 ‟…”


 おとなしく焼き菓子をつまんで口に運ぶ。口の中でサクっと崩れ、甘みが広がる。


 ‟おいしい”


 それを聞いてミシルカがにっこり笑う。しばらく何の会話もないまま二人はもそもそと焼き菓子を食べていたが、ミシルカが


 ‟外に出よう”


 といってレイシャーンの手を引いて部屋を出た。二人は城の裏門から出て近くの丘に向かって歩いて行った。丘のてっぺんまでくるとミシルカは上等の着物が汚れるのにも構わず草原にペタンと座り、


 ‟レイシャーン、ムンバートリの家族が恋しいか?”


 と問いかけてきた。正直にそうだと答えるのは正しい返答ではないことはレイシャーンも理解している。


 ‟いえ、そんなことはありません”


 それを聞いて、ミシルカは顔をしかめた。


 ‟私の前で嘘はつかなくていい。無理もしなくていい。恋しくて当たり前だ”


 ‟でも、そんなことを言えば陛下に盾突いたことになると…”


 ‟おおかた、年寄りのマレ大臣か侍従長あたりにでも言われたのであろう?気にするな”


 ‟でも、私が王宮に迎え入れられたのは過分な計らいで…身の程を…”


 と言いながらレイシャーンは涙ぐんでしまった。レイシャーンが王の子として迎え入れられたことは長く王宮に仕えてきた者たちには歓迎されていなかった。特に母であるアイランが正式に側室として後宮に入っていなかったことと、貴族とはいえ身分が低いのにレイシャーンがミシルカよりも先に生まれてたことで後々争いの種になりかねないことなどが反発の理由である。王宮に来た日からそうした理由でレイシャーンに対してあからさまに冷たい態度をとったり皮肉を言ったりするものが少なからずいたのだ。その為にレイシャーンはすっかり委縮してしまい本来明るくて活発な性格はすっかりなりをひそめてしまっていた。


 下を向いてしまったレイシャーンをミシルカが細い両腕で包み込んだ。柔らかい金髪か顔に当たる。驚いて身じろぐレイシャーンを更にぎゅっと腕に力を込めて抱きしめる。レイシャーンの肩が震え、嗚咽が込み上げてきた。


 ‟レイシャーン、泣いていいぞ。お前は家族を恋しがってもいいんだ。だが、お前は家族は無くしてはいない。お前にはもう一つの新しい家族ができただけだ”


 ミシルカはレイシャーンの顔を両手で挟んで目をのぞき込むと優しく続ける。


 ‟陛下は…父上はお前が来てくれて喜んでいる。私もうれしい”


 ‟…ミシルカ様と家族に慣れたのはうれしい。でも、侍従長は残してきた家族のことは忘れろと”


 ‟そんなことを言ったのか?”


 ‟うん…”


 ‟しょうがない石頭だな”


 ぐすっと鼻をすするレイシャーンの頭をなでながらミシルカは苦笑する。


 ‟そういうときは適当に頷いておけ。そうすれば満足する”


 目を見開いてミシルカを見つめレイシャーンは思わずプッと噴き出す。


 ‟適当にって、そういうわけには”


 ミシルカも笑って


 ‟ここには頭の固い年寄りが多いからな。いちいちまじめに取り合っていたら何も出来ないうちにこっちまで年寄りになってしまう。はいと返事をしたからと言って心の中まで変える必要もないだろう”


 そんな風に思ってもいいわけがない、とレイシャーンは考えるのだが。


 ‟大体寂しいものは寂しいのだ。だめだと言われて寂しくなくなるわけがない”


 あいつらはバカじゃないかというつぶやきは聞こえないふりをした。


 ミシルカはレイシャーンに向き直り


 ‟だがこれからは私もお前の家族だ。私がずっとそばにいる“


 と言ってミシルカはもう一度レイシャーンを抱きしめた。レイシャーンもそっとその華奢な背中に手を添えた。




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