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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
25/99

ドラマ撮影休憩 みつきと玲のCM共演

 


<みつきのパート>


 パシャ、パシャとフラッシュがたかれる。

 言われるままに微笑み、ポーズをとる。


 ‟いいねぇ、そのまま目線はこっち”


 きらびやかな衣装を着て妖艶に微笑む。言われるままにポーズをとる。


 ‟休憩でーす。ちょっと直しますね”


 ボトルを渡され、水を一口飲んでいる間にも汗を拭われ顔にかかってきた髪をメイクの女性の指で後ろに流される。


 ‟じゃ、次お願いします!”



 撮影が終わったのはかなり遅い時間だった。夕飯も食べてないけど、もう一刻も早くここから離れたい。ようやくもぎ取った久しぶりの休み。たった一日だけど都会の喧騒から離れてどこか息をつけるところへ。


 車のハンドルを握り夜の高速を走る。


 仕事が嫌なわけじゃない。だけど、時々無性に息苦しくなる時がある。


 ああ、疲れてるんだな。


 山道に入りしばらく森の中を走り予約してた小さなホテルにチェックインしてシャワーを浴びる。ワインを口にしたら、もう瞼を開けていられなくなった。パフンとベッドに倒れこむ。


 明日朝起きたら散歩に行こう。近くにきれいな川があるってパンフレットに書いてあった…


<玲のパート>


 早朝


 木の枝をかいくぐって走る。小さな岩を軽く飛び越える。傾斜している地面は朝露で少し湿っているが慣れているから滑ったりはしない。愛犬はどんどん先に行ってしまっている。

 もう日は昇っているが、木の枝にさえぎられて、森の中はひんやりとしている。

 このしんとした空気が好きだ。


 しばらく自分の息遣いだけを聞きながら走る。と、犬が吠えているのが聞こえてきた。目的地に着いたのことを知らせてるのか、遅いと怒っているのか。ふふっと自然に笑みがこぼれる。

 水が流れる音。

 森を抜けて河原へ出た途端、そこに佇む人がいた。


<みつき>


 ホテルの人に教えてもらった川に着き、せせらぎをぼんやりと眺めていた。ひんやりとした空気を胸いっぱい吸い込んだ時、犬の声に振り返ると、少し離れた木々の間から人が走り出てきた。


 目が合った。


<玲>


 一瞬外国人かと思った。明るい髪。切れ長の瞳。化粧はしていないようだが白い肌と艶やかな唇。スラリとしたたたずまい。こんな所でこんなきれいな人に出会うなんて。まるでおとぎ話の妖精のようだ。


 目が離せない。


<みつき>


 森から走り出てきた人は息を切らし少し汗ばんでいるようだ。大きな目を見開いてこちらを凝視している。

 木漏れ日が当たって、姿全体がキラキラしている。


 きれい


 ‟…”



 その時、大人しくしていた犬が再び吠え始めた。

 わおん、わおん!


 ‟うわ!なに?なんで?”


 動物全般が苦手なので飛び上がってしまった。そのとたん


 ‟ぷ!ふははは”


 その人は急に噴き出して笑い始める。

 自分の犬が吠えているのに笑うなんて失礼な、と睨みつけると


 ‟ごめんなさい”


 と歩み寄ってきた。

 その笑顔にこちらもつい噴き出してしまう。


 “お茶、飲みますか?”


 犬をなだめている相手が汗をかいているのを見て、ペットボトルのお茶を差し出すと、相手は手で制した。


 ‟大丈夫です。水持ってますから”


 二人でボトルを傾けながら川を眺める。


 ‟きれいな所ですね”


 ‟はい”



 そこにその森の名前と旅行会社の名前がでてくる。東京から少し足を延ばしたところにある自然。都会の喧騒から逃れて心を休めるために訪れたい場所。



 ~~~



 ‟いいですね、すごくいい。会話とかほとんどないけど、気持ちが伝わってくる”


 広告の依頼主は満足げに頷く。


 ‟葛城君、いい顔するね。犬と一緒に走ってるとこなんてほんとかっこいい。それにしても”


 CMのプロヂューサーが意外そうにカメラマンに話しかける。


 “南条みつきには驚いたね。こんな表情ができるなんて”


 ‟俺もびっくりしましたよ。南条がこんな顔するのを初めて見た時は。これが素なのか、演技なのかはわかりませんが今までのキラキラしい近づきがたいイメージとはまるっきり違う。またこれで新しいファンが増えそうだ”



 ~~~


 ‟もうそろそろ素直に接したらどうだ”


 ‟自分ではかなり改善したと思ってるんけど”


 きまり悪げにみつきが応えると、隣でクスクス笑う声がする。


 ‟照れてるんですよね、みつきさんは”


 ‟ともやは余計なこと言わないで!”


 ‟いいじゃないか、このCM。走ってるときの顔なんてあの頃のままだ。だから目を奪われる”


 ‟わかってるよ…”


 ‟このCMは反響を呼びますよ。これからは気を引き締めてかからないと。ドラマも始まるし葛城さんが注目され始めると、きっと何かが起こる。ですよね、みつきさん”


 にこにこしていたともやの口調が変わる。


 ‟ああ、そうだな。ま、ある程度それを狙ってちょっと強引にこの企画を進めたんだが”


 佐伯も真面目な顔で同意した。


 ‟お前も気づいてるだろう?玲は変わり始めている。というより本来の自分を取り戻し始めてるんだ。だから何かが起こってもきっと大丈夫だ。それに今は俺たちがここにいる。必ず玲を守って見せる”


 ドラマの放送開始は週明けからだ。



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