表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
21/99

ドラマ黄昏時に落ちる星18 玲の変化6

 

 ‟玲、何やってんだよ。さっさとドリンクとって来いよ”


 奏一郎は椅子に座ってせわしなく膝を揺らす。床に顔を近づけながら玲は


 ‟奏さんのバッグの中に保冷剤と一緒に入ってるんで自分で取ってください”


 ‟何?”


 ‟だって人がたくさん出入りしたら余計見つかりづらくなっちゃうじゃないですか”


 ‟玲、お前何のつもりだ?”


 奏一郎の声が低くなる。飲み物がどうとかいう問題ではなく、玲が奏一郎ではなく他の事を優先させたのが気に障ったのだ。


 ‟…”


 ミナがおろおろと奏一郎と玲を見る。返事をしない玲に奏一郎が更に言い募ろうとして体を動かした時何かが靴に当たった。次の瞬間ガチ!と音がした。


 ‟え?!”


 ミナがギクッとして音のした方を見て蒼白になった。


 ‟あ、悪い。俺の足の下にあったわ”


 ちっとも悪そうな顔をしないで奏一郎は足を上げると床には青い小さな石が、割れていた。


 ‟そんな…”


 慌てて奏一郎の足元ににじり寄り震える手でそっとかけらをつまみ上げる。


 ‟何だよ、ちょっと踏んだくらいで割れるなんて随分安物だな。南条みつきにしては意外”


 ‟奏さん、何言ってるんですか。謝ってくださいよ”


 ‟みつきさん、大切なものだって言ってた”


 ‟だから悪いって言ってるだろ。大体落とした方が悪いんだろうが”


 普段の奏一郎ならここまで意地の悪いことは言わない。機嫌が悪い上に意固地になってるみたいだ。


 ‟私が悪いんで、後でみつきさんに謝ります。失礼します”


 涙ぐみながらミナは出て行った。


 ‟おい、玲。お前何のつもりだ?”


 ‟何のつもりって。どうしたんですか、奏さんこそおかしいですよ”


 珍しく玲も引き下がらなかった。自分に言われるならまだしも他人に対してもあんまりな態度だと思った。


 気まずい空気のまま奏一郎の休憩は終わり、また撮影に戻って行った。入れ替わりにみつきが戻って来た。ミナはペコペコ頭を下げていたがみつきの表情を見る限りひどく怒っている様子はなかった。安心すると同時にミナの事だからきっと全部自分が悪かったと報告したんだろうな、と思いトレーラーに乗り込もうとしたみつきに声をかける。


 ‟あの、みつきさん”


 振り向いたみつきを見て玲はどきりとした。


 泣いてる?


 一瞬みつきが泣いてるように見えたのだ。だが


 ‟なに?”


 と返事をしたその瞳に涙は浮かんでなくて、ただとても悲しそうではあった。


 ‟あの、すみません。ピアス。俺もあの場にいたんですがすぐ見つけられなくて”


 ‟うん、そのことはいいよ。脆い石だしピアスなんて今までも無くしたことあるから、気にしないで”


 力なく微笑んだ後、ちょっと寂しいだけなんだ、と小さな声でつぶやいた。その時玲はどうしようもなく切なくなり思わず言っていた。


 ‟あの!あれもしかしてタンザナイトですか?”


 ‟…そうだけど”


 ‟これ、貰ってください”


 そう言って自分の首からネックレスを外しみつきに差し出した。そして目を瞬かせているみつきを見てハッとする。


 ‟すみません、いきなり。失礼すよね。俺のなんてすごい安いヤツだし。ネックレスだし。みつきさんのはすごくきれいできっとずっといいヤツですよね”


 同じ石なら何でもいいというわけでもないだろうし、ピアスそのものに思い出があるだろうに。こんなもの渡されても困るだろうに何をいきなり言ってるんだ俺は


 羞恥に赤くなり慌てて手を引っ込めようとして玲の手をみつきが掴む。


 ‟いいの?でも、なんでこれ”


 ‟前にアフリカ旅行した時一目ぼれしたんです。すごい安物ですけど”


 と恥ずかしそうに言う。


 ‟ほんとにいいの?”


 みつきの声が震える。


 ‟もちろんです。みつきさんさえよければ”


 手のひらに乗せた青い石はみつきのピアスよりもずっと淡い色だったが、まぎれもなくタンザナイトだった。


 ‟うれしい…”


 みつきの頬に一筋の涙が伝い落ちた。


 ~~~


 泣き出したみつきに慌てる玲を追い出し、一人になったみつきはネックレスを握りしめて目を閉じた。


 そういえばレイシャーンからもらったネックレスも誰かに踏みつけられて壊れてしまったのだった。手を伸ばしても拾うことはかなわなかった。大勢の怒号。取り押さえられるレイシャーン。目の前で起こっていることが信じられずスローモーションのように見えていたことを覚えている。

 あの時砕けたのは石だけではなくレイシャーンと自分が共にある未来だった。


 ああ、だけどまたここに戻ってきてくれた

 言いようもなく心が満たされるのを感じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ