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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
19/99

ドラマ黄昏時に落ちる星16 玲の変化4


 ‟いい天気だねー。乗馬日和だ”


 抜けるような青空を見上げて渡利が声を上げる。

 東京から約一時間半、今日は馬を使った撮影に来ている。気温が穏やかになってきて外でのロケーションが始まった。本格的な疾走シーン、ダン.クレイドやレイシャーン、ゾリークにはスタントを使うが騎乗している姿は撮影する。


 ‟あ、楷君、雪永君、葛城君は乗馬の経験あるんだっけ?”


 ‟はい、前に時代劇やった時に少し練習したんで”


 と、ともや。


 ‟俺もです”


 と奏一郎。


 ‟俺は田舎そだちなんで”


 と、玲が小声でいう。


 ‟南条君は全くの初心者?”


 ‟…です”


 引きつった顔でみつきが頷く。


 ‟ま、君はそんなに乗るシーンもないから心配しなくていいよ。どうしても無理だったら、アップでそれっぽく映してあとはスタントで遠回しに撮るから”


 ‟精一杯頑張ります。頑張れるとこまで”


 ‟馬、だめなんですか?”


 ともやが聞くと


 ‟馬というか、動物全般が苦手。猫アレルギーもあるし”


 みつきが情けなさそうに言う。


 ‟嫌いなわけじゃないんだけど、どう接していいかわからなくて緊張するとそれが相手にも伝わるみたいで”


 ‟へえ、なんでもこなすみつきさんらしくないというか、動物に嫌われるところが逆にみつきさんらしいというか”


 ‟ちょっと!嫌われてないから”


 と軽口を叩くともやを睨みつける。そんな二人の会話に玲は目を瞬かせた。


 なんか、意外。というかいつも完璧に美しく振舞ているみつきがきまり悪そうにしているのを見るとなんだか可愛く思えた。恐れ多いけど



 乗馬のトレーナーについて指導を受け、それぞれ撮影していく。

 昼休憩中、玲が散歩をしていると玲の乗った馬のトレーナーが馬と一緒に厩舎から出てきた。


 ‟あれ、シャムロック散歩ですか?”


 玲が軽く頭を下げて声をかけると、トレーナーはにっこり笑って挨拶を返してくれた。


 ‟あ、葛城さん。午後から疾走シーンがあるからすこしウォーミングアップさせようかと思って”


 ‟見てていいですか?”


 ‟もちろん”


 玲はトラックの柵の外側に立ってトレーナーが馬を軽く走らせているのを眺めていた。


 きれいだなあ

 風になびく鬣、美しく躍動する筋肉。走る馬をみてきれいだと思わない人がいるのだろうか。


 ‟きれいだね”


 後ろから声をかけられて、振り向くとみつきがいた。


 ‟いっしょに見てていい?”


 ‟も、もちろんです”


 二人でしばらく無言で走る馬を見ていたが


 ‟…乗馬がすごく上手だった。あ、そうじゃなくて馬がすごく好きだったのかな”


 ‟?”


 誰の話?


 ‟それを眺めているのがすごく好きだった。すごくきれいだったんだよ”


 みつきの目は馬を見ているようで、でももっと遠くを見ているような感じだ。どう返していいかわからず黙ってみつきの横顔を見る。

 そこへトレーナーが馬を連れて戻ってきた。シャムロックは鼻面をなでようとする玲の手を避けてその頭を小突いた。


 ‟うわ!”


 バランスを崩してよろめいた玲をもう一度小突く。


 ‟ちょっとやめて!な、なんで?”


 さらにシャムロックが頭に鼻を擦り付けたので玲の髪がぼさぼさになる。


 ‟ぶっ!”


 傍に居たみつきがいきなり噴き出した。


 ‟ふ、ははは”


 肩を揺らして笑い出す。


 ‟な、南、みつきさん?”


 ‟だって…ひはは”


 ツボにはまったのかみつきの笑いが止まらない。トレーナーもあっけにとられて見ていたが一緒になって笑い出した。


 ‟シャムロックは葛城さんの事が好きみたいですね”


 ‟え―それでこの扱いですか?ちょっと!シャムロックやめてってば”


 玲一人が馬にからかわれてわたわたしている。


 ひとしきり笑った後、


 ‟葛城さん、ちょっと乗ってみますか?シャムロック、遊んで欲しいじゃないかな。経験あるんですよね。さっき乗った時も結構堂に入ってましたよ”


 ‟いいんですか?!”


 騎乗してゆっくりと歩き出した。

 風が気持ちいい。馬の動きに体を合わせていく。スピードが少し上がった。


 そんな玲の姿をみつきは目で追う。


 こうしていると、あの頃に戻ったみたい。あの時の自分はもう少しアクティブでもちろん馬にも乗れたが、それよりもこんな風にレイシャーンを見ているのが好きだった。彼はいつもまぶしくて、見ていると心が浮き立つ。



 ‟おい、あれ撮ってくれないか”


 ‟え、ああ、はい!”


 カメラマンの恩田が指さす方向にアシスタントカメラマンがカメラを向ける。


 ‟お前はそのまま葛城を撮れ。俺は南条みつきを撮る”


 ‟でも南条さんなんもしてないですよ”


 ‟見ろ、あの顔。南条みつきのあんな顔めったに見られないぞ”


 玲はもう兵士の衣装を着ていないのでカジュアルな格好だし、みつきにいたってはぼーっと見てるだけだ。だが、その美しさに視線が外せない。どちらも見てる側の胸が高鳴るような被写体だ。使える使えないは別にしてカメラマンとしてはぜひこの映像を収めておきたいと思った。



 ~~~

 後日


 ‟監督、これみてよ。この前撮影した乗馬のシーンなんだけど、すごくない?”


 カメラの恩田が渡利に声をかける。


 ‟あの葛城君だっけ?乗馬の経験少しあるらしいんだけど、これ休憩中にちょっと馬と遊んでるとこ。すごくいい画像()になりそうでつい撮っちゃったんだけど。なんか目を引くんだよねぇ、彼。この前の殺陣のもかっこよかったけど、こういうナチュラルな顔もすごくいいよね”


 恩田に見せられた映像を渡利が眺める。


 うん、かっこいい、さすがだ。だけど、こっちは使えないね、みつき君。そんな顔人には見せられないよ。


 ‟葛城君、いいねぇ”


 ‟これ、ちょっと見せたい人がいるんだけどいいかな。今企画中のCMのプロデューサー”


 ‟小西社長に聞いてみようか?喜ぶと思うよ”


 渡利はにこにこしていった。



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