ドラマ黄昏時に落ちる星15 玲の変化3
本格的な撮影が始まった。玲自身も忙しくなり、それでも相変わらず奏一郎の荷物持ちなどしてる。彼にはマネージャーもついているので完全な雑用係だが、そんな生活にも慣れている。だが、最近の奏一郎は機嫌が悪い。役作りがうまくいっていないのか、取り直しが多くなかなかスムーズに撮影が進まないのだ。
‟待って待って、ダン。そこはもう少し丁寧に話してくれないかな。彼はレイシャーンとは長い付き合いで友人ではあるけどあくまでも部下なんだから”
‟…はい。すみません”
頭を下げつつ返事をするがどこか不満そうな表情を隠しきれていない。渡利も小さくため息をついた。
‟なんか、振りが大きいというか、目立ちたがりというか”
傍で見てるスタッフが小声でささやいているのが聞こえてくる。
‟ていうか、楷さんに対抗意識燃やしてるように見えるんだけど”
‟も、そこはね…”
レイシャーン役のともやは繰り返される取り直しにイラつく様子も疲れた様子も見せず、淡々としている。
楷さんて、すごいなー。レイシャーンの性格をよくつかんでいる。普段のともや少し生真面目な印象だが、役に入るとレイシャーンの明るさや飄々とした雰囲気をうまく表現していてとても好感を持てる人物に仕上がっている。それにしても、こんな人が王様を殺そうとするとか、やっぱり無理があるんじゃないかなぁ
と玲は自分の思考に入り込んでいた。
‟おい、玲、ボケッとしてないでドリンク!”
いきなり声をかけられて慌てて奏一郎用の飲み物を渡す。
‟お前、今日この後撮影入ってないんだろ?今夜に飲みに行くぞ”
‟え、でも俺明日早いんですけど”
‟うっせーよ、遅くならなきゃいいだろ。小林達にも声かけとけ”
‟…わかりました”
二人きりじゃないだけましかと思いながら返事をする。最近は奏一郎の愚痴ばかり聞いていて正直うんざりしている。
でも、明日は小林君も朝一緒だから切り上げやすいか
幸い奏一郎も疲れていたのかそれ程遅い時間にならないうちにアパートに戻ることができて、今朝も問題なく現場に来ることだ出来た。今日は刺客の撮影がメインで正直楽しみだ。一緒に特訓してきた小林達とも気が合い、揃いの黒装束を着ながら笑い合う。
こんな感覚久しぶりだ。もともと演技することも、難しいアクションにチャレンジすることも、みんなで何かを作り上げることも大好きなのだ。玲は三年前のあの時から自分は演じることを楽しんじゃいけないといつも自分に枷をつけてきた。
ああ、でも今だけ。名前もないこの役なら、この役に没頭することを次音も奏さんも許してくれるかな
朝から準備に入っていたが刺客が主役を襲うシーンを撮るのは夜だ。昼の間もう一つの役であるソーラ王子役の打ち合わせや衣装などの確認、他の場面の撮影の補助などをしながら夜を待つ。
ナンドラ国は南方の砂漠地帯に位置する小国でカラフルな大判の布を頭に巻き、移動の時は顔の下半分を布で覆う。鏡に映る自分を見る。
そういえば俺の役って顔に出がてこないのばっかりだな
ソーラ王子は話してるときはほとんど俯いてるし、刺客役もしかり。顔がほとんど隠れている。兵士役は顔は出てるがその他大勢で仮に顔がアップになっても誰も気にも留めないだろう。別にだからどうだという事はないが、何となく自嘲した。
俺にはちょうどいい
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目だけ露出した黒づくめの玲は台(塀の設定)の上から中庭にいる二人の人間を見下ろす。標的標的のレイシャーン王子とミシルカ王子だ。そして仲間と共にひらりと飛び降り地面に着地する。
レイシャーンは手練れだ。既に仲間の放った小刀で肩に傷を負っているミシルカを先に狙うが、レイシャーンが立ちふさがり仲間を次々に倒して自分に迫ってくる。剣の腕はともかく好戦的な人間ではないと聞いていた。だから隙がある、と。昼に偵察に来たときもにこにことして穏やかそうな人間だった。ところがどうだ。あっという間に仲間達をためらいもなく切り殺していく。そして俺の刀を奪うとその刀ですかさず俺の肩を樹の幹に縫い留めた。
‟ぐあぁ!”
激痛が走る。
‟ミシルカに短刀を放ったのはお前か”
怒りに我を忘れたかのようなレイシャーン。痛みと共に恐怖がせりあがってきて息が荒くなる。
‟言え!”
‟リーシャ!やめろ!”
悲鳴のようなミシルカの声。人が変わったようなレイシャーンにおびえているのは自分だけではないらしい。もはや勝ち目はないが自分の様な名もない刺客にも矜持がある。ぎりっと睨み返した時別の声が聞こえてきた。
‟よせ、殺してしまっては黒幕がわからぬぞ。捕らえて吐かせろ”
カーメイのゾリーク王太子の声にハッとするレイシャーン。
そこに一瞬の隙ができた。
思い切りレイシャーンを蹴り飛ばすと肩に刺さっている刀を引き抜き、それを自分の胸に突き立てた。
膝から崩れ落ちて、地面に倒れる。
‟カーット”
わーっという声と拍手がする。
顔を上げると先ほどまで怖い顔で俺を睨んでいたともやがにっこり笑って手を差し出して俺を引き起こしてくれた。
‟楷さん、すごくよかったですよ!ミシルカを傷つけられて怒りに我を忘れてるレイシャーン。鳥肌が立ちました”
“葛城さんも、かっこよかった―”
‟ちょっとこの映像見てよ。今撮ったやつ”
カメラを覗いて渡利が言う。
‟この葛城君のアップいいねぇ。この目。これから人を殺そうとする刺客の冷たい感じ”
自分で見ると恥ずかしくてしょうがないんだけど
‟この調子でもう一個の刺客の場面も頑張ってよ”
肩を叩かれて、顔が出ないからと言って一回死んでるのにまたカメラに映るってどうなんだ、と一人で突っ込みを入れてみる。




