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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星13 玲の変化1



 今日は久々の休みなので地元に帰る予定だ。玲の実家は東北にあり、新幹線で日帰りできる。帰省の目的は地元にあるアクションスクールに顔を出すことだ。小さなスクールだが昔アクション俳優をやっていたという玲の恩師が小学生中学年以上の子供たちを相手にアクロバット的なことや空手の基礎などを主に指導している。たまにダンスの講師などを招いてはダンスをしたり歌の練習などいろいろ取り入れているユニークなスクールだ。玲も小さいころからそこで学んできた。恩師は高齢ながらまだまだ現役で、特に震災後はあまり指導料を取らずに子供たちの心身の健康のために指導を続けている。玲は上京してからも暇ができると出来るだけ顔を出すようにしている。



 ‟玲さん!”


 と顔見知りの子供たちが明け寄ってくる。玲を初めて見る子供たちはどう接していいかわからないようでもじもじしながら遠巻きにみている。


 ‟こんにちは、良く時間取れましたね。もうお家の方には顔出してきたの?”


 と声をかけてきたのは佐々木という初老の女性で、恩師はこの活動の事務や子供たちの人数や出入りの管理などすべて彼女に任せている。


 ‟玲君が来てくれて助かったわ。今日お客様が来る予定なのに先生が腰を痛めちゃったもんだから。東京で会社をやっている方でこの活動の事をサイトで見つけて興味を持たれたらしいの。忙しい方らしくて、今日はたまたま仕事で近くまでくるから話を聞きたいって。あなたのほうからこのスクールの説明をしてくれるかしら。急なことであなたの予定を確認する時間もなかったんだけどメール見てくれた?”


 ‟はい、新幹線の中で。佐伯さんですよね。お名前と顔だけは有名だから知ってるけど”


 今回のドラマのスポンサーでもある。あと、南条みつきと噂のある…


 ‟寄付を検討してくださってるんですって”


 ‟そうですか、何時くらいに来るの?”


 ‟三時頃だって”


 その後玲が子供たちと一緒に稽古室でストレッチやら腹筋やらやっていると、外が騒がしくなった。キャーキャー言う声が聞こえてくる。玲がいぶかし気に外に顔を向けると、佐々木さんが


 ‟玲君、ちょっとちょっと”


 とドアを開けて顔をのぞかせた。その後ろからみつきがひょっこり顔を出す。


 ‟な、南条さん!何でここに?”


 ‟実はこっちに来る仕事があったんだけど、予定よりかなり早く終わったんだよ。葛城君がここに来てるって楷さんから聞いて、寄ってみたんだ”


 確かに地元に帰ることと、スクールの事はともやに話した。それにしても佐伯と言い、こんな偶然あるんだろうか。佐伯とみつきが噂になってることが一瞬頭をよぎった。


 ‟邪魔しないから、見学してていい?”


 固まってしまった玲を見て苦笑しながらみつきが手をあわせる。 


 ‟も、もちろんです、けど”


 ‟それとも、何か手伝えることある?結構時間あるんだ”


 少し考えてから


 ‟じゃあ…”


 みつきは子供たちにウォーキングを教えることになった。子供たちは皆みつきを間近で見てみたこともない美しさにぼーっとしてたがみつきは意外に厳しい先生で、まじめにレッスンを始めた。


 ‟立ち方、歩き方は動作の基本。見てる人に与える印象がすごく変わるからね”


 と言って気を付けをしている子供たちの姿勢を直していった。みつきに手伝いを頼むのは気が引けたが、じっと見学されてるとこちらが緊張してしまう。意外に楽しそうにしているみつきを見てほっとした。


 ‟今日はちょっと変わったことをしてみようか”


 玲は自分のグループにセルフディフェンスを教え始めた。玲は小さいころから空手をやっていてその一環で学んだのだ。俳優をやっているとアクションで結構使える。


 ‟結構ためになるし喧嘩の演技をするときにも使えるよ”


 と言って何通りかやり方を教える。集中していたせいかドアのところに訪問者がいるのに気がつかなかった。




 しばらくすると同じ動きを繰り返していることに子供たちが飽きてきたのか集中力がなくなってきた。どうしようか玲が考えていると、


 ‟デモンストレーションしてみてはどうかな”


 と、後ろでいきなり声がした。聞きなれない低音の男の声に振り向くと、そこには背の高いスーツ姿の男が立っている。


 ‟佐伯さん、いらしてたんですか”


 玲がぺこりと頭を下げる。佐伯はそれには答えず


 ‟自分たちが単調な動きを繰り返してるだけじゃつまらないだろうし実際どんなふうに使うのかわからないでしょう。どうです、実際やって見せては。僕が相手になりますよ”


 突然の提案に面食らったが佐伯はさっさとスーツの上着を脱ぎ始めた。玲は慌てて、


 ‟え、いや、佐伯社長にそんなことさせるわけには”


 と両手を前に振ると


 ‟いいからいいから。僕はこれでも結構やるんですよ”


 シャツの腕をまくりながら片目を瞑る。


 いい男だ。


 それなら、


 ‟よろしくお願いします”


 と玲が手を差し出す。その手を握り返して二人は対峙する。部屋の半分を使っていたみつきのグループも場所を開ける。みつきはやや眉をひそめて佐伯を凝視している。


 ‟じゃぁ、僕からかかっていきますね”


 と言うなり、佐伯はジャケットを床に放り投げた。高そうなジャケットを傍に控えていた秘書?っぽい人が拾い上げる。

 それを目で追っていたら、いきなり胸倉をつかまれる。玲は反射的に相手の腕の力を無効化させる角度で佐伯の片腕をとらえて捻り上げるが、玲の拘束からすり抜けた佐伯はその後も違う方法で襲ってくる。玲はそれをすべて子供たちに教えたやり方で防御した。


 スピードはどんどん上がってくる。基本の型を見せるだけなので襲われても防御しても相手には一発のパンチも蹴りも入っていない。しかし十五分もやっていると二人とも汗だくになった。後半は玲が攻撃を仕掛ける。回し蹴りをかけようとして足が滑った。


 ‟うわ!”


 ころぶ!と思ったとたん玲の体ががっしりとした腕に支えられた。佐伯が笑って支えてくれていた。ワーッと、子供たちの歓声と拍手が聞こえてきた。


 ‟いい動きですね”


 ‟す、すみません。こ、この辺にしておきましょうか。お相手ありがとうございます”


 腰に回された手に玲は慌てた。


 ‟改めて、初めまして。佐伯です”

 玲の体を離して向き直り手を差し出す。まっすぐにこちらを見つめてくる強い視線。丁寧な言葉遣いをしていても他を威圧するような雰囲気を醸し出している。


 ‟葛城です”


 ‟もちろん知ってますよ。今日はぜひお話を伺いたくて来たんですが、こんなにいい運動をするとは思わなかった”


 そこにみつきが近寄ってくる。


 ‟こちらは南条みつきさん。あ、ご存じですよね。ドラマで共演させていただいていて今日はたまたま近く来たそうで寄ってくれたんです”


 ‟こんにちは”


 みつきは華やかに微笑むが、気のせいか目が笑っていない。


 ‟南条さんの事ももちろん知ってます。驚いたな。東京からこんな離れたところで大人気のスターにお目にかかれるとは”


 佐伯も微笑むがお互い

(胡散臭い笑顔…)

 というメッセージを送り合っていた。とくにみつきの視線は冷ややかだ。


 仲がいいんじゃなかったのか…?


 そこへ佐々木さんがやってきて、


 ‟葛城君、佐伯社長を応接しにご案内したらどうかしら。お話があるんでしょ。アシスタントの人も来てくれたし子供たちは大丈夫だから行ってらっしゃい”


 ‟ありがとうございます”


 ‟僕もここで子供たちを見てるから“


 というみつきの申し出に恐縮しながらも甘えることにする。玲は佐伯を応接室というか佐々木の事務室に案内してソファに座った。


 ‟いい活動ですね。今日は葛城さんにお会いできてよかった”


 ‟ありがとうございます”


 ‟実は地域の慈善事業や復興活動をしている団体に寄付をすることを検討してるんですがここも候補に挙がりまして”


 ‟でもここは私の恩師がやっているこじんまりとしたもので、そもそも慈善事業ではないのですが。彼の年齢的なことを考えるとこれ以上大きくする気もないと思いますし、寄付を頂いても有効に使えるかどうか。もっとふさわしいところがあるんじゃないですか?”


 ‟欲がないですね”


 玲はそのあと少し具体的な活動内容などを説明した。


 ‟先ほど慈善事業ではないと言いましたが確かに震災後、経済的にも精神的にも余裕のなくなった家庭が多いのは事実です。私としては、そうですね、もし子供たちになかに本格的に演技やアクションを学びたいという子がいたらその子にある程度の経済的サポートをするとか、そういうことができるといいかな、とは思います”


 ‟なるほど、そういう形もいいか…”


 話は弾んだが佐伯は忙しい身。東京でまた連絡すると言って帰って行った。佐伯とみつきは挨拶らしい挨拶も交わさずに別れた。


 待ち合わせしてたんじゃなかったんだ…


 玲はそんな風に邪推する自分に恥ずかしくなった。

 そのみつきはどういうわけか玲と鉄板焼きの店に来ていた。ビールで乾杯した後、


 ‟南条さん、わざわざ訪ねてきてくださったのに待たせちゃって、その上子供たちまで見てもらって本当に申し訳ありませんでした。ここはごちそうさせてください”


 玲が深々と頭を下げる。


 ‟やった!たくさん注文しちゃおう”


 みつきはメニューを眺めるながら更にビールをぐびっと飲んだ。そんなみつきに玲はあっけにとられた。


 なんだろう、この突然の変化は。あった時から思っていたがまるで別人だ。


 ‟あの、モデルって食事に関しすごくストイックと聞いたんですが”


 ‟だいじょーぶ。たまにはいいでしょ、ショーも控えてないし、監視もないし”


 ‟あ、マネージャーの榊さん、ですよね?彼は今日は一緒じゃなかったんですか?”


 ‟先に東京に戻った。予定が空いたら空いたでやる仕事はいくらでもあるらしいよ。マネージャーの仕事だけじゃなく父の事務所では長いから頼りにされてるんだよね”


 ‟南条さんとの付き合いも長いんですか?”


 ‟うん、小さいころから知ってる。親戚のおじさんみたいな感じかな”


 そう言ってお通しをつまみながらみつきは何か考え込む顔をしている。


 ‟ねえ、敬語止めない?確か葛城君年上だよね?”


 ‟たった一個違いだし、そもそもみつきさんに比べたら俺なんか”


 ‟その口癖もやめない?俺なんかって自分を落とすような言い方。言葉って繰り返し口にするとどんどん身に付いちゃって本当になるんだって”


 ‟…”


 ‟これから玲って呼んでいい?僕の事もみつきって呼んで”


 ‟いや、呼び捨てはさすがに…じゃあ、みつきさん”


 呼ばれてみつきはにっこり笑った。その笑顔に玲の胸はドクンッと音を立てた。


 な、なんだ、これ。なんでそんなにうれしそうな顔するの


 ‟それより、佐伯さん用があったんだ?”


 困ったように眉を下げる玲を無視してみつきは続けた。


 ‟あ、寄付を検討してくれるそうで、今日は俺の恩師が不在だったんで代わりに話をさせてもらったんです”


 ‟話ってそれだけだった?”


 ‟はい、佐伯社長も忙しそうですぐ帰られて…でも、それがどうかしたんですか”


 玲の問いには答えずにみつきは考え込む。


 なんでわざわざこんなところまで押しかけてくるかな…


 ‟南条さん?”


 ‟なんでもない、食べよ食べよ”


 と、みつきは気を取り直したように玲を促した。



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