ドラマ黄昏時に落ちる星11 ドラマ制作5
‟お前、いい加減にしろよ"
佐伯の凶悪な視線を受けながら、みつきはプイっとそっぽを向く。
あるホテルの一室。いつものメンバーが集まっていた。
‟みつき君、現場でキレちゃったらしいね、僕がいない間に。助監督が泣いてたよ”
渡利がやれやれと肩をすくめる。
‟困るなあ。あんまり玲君を刺激しないでくれる?これ以上委縮されちゃったらどうするの”
‟別に何もしてないよ。蚊がうるさかったから叩き潰しただけなんだけど”
ふてくされるみつきを見て呆れたようにため息をついた佐伯が口を開く。
‟まあいい。お前がグダグダしてる間に俺が調べてきてやったぞ”
‟偉そうに、何を?”
‟あの、雪永なんたらと玲の関係。二人の間に何があったのか”
玲が言い放った,“あんなこと“という言葉が頭をよぎった。
はっと身を起こしたみつきだが気まずそうに再び椅子の身を沈める。
‟わざわざ僕のために?ありがたくて涙が出そう”
素直じゃないみつきに佐伯も切り返す。
‟別にお前のためってわけじゃない。俺らみんな気になってることだろ”
‟もったいぶらずにさっさと教えなよ”
‟一体何があったんです?”
ともやも身を乗り出す。
‟三年くらい前の事なんだが、もともとあの二人は仲はよくつるんでたらしい。当時も雪永が先輩として玲を連れまわしたり、使いっぱしりにしてたようだが今よりも関係は良好だったんだ。そしてそこにはもう一人の人間がいた。奏一郎の弟、次音だ。玲と同い年で彼も役者を目指してた。そしてある映画が製作されることになって雪永はそこそこの役を貰った。そしてその伝手で次音も役を貰った”
映画のタイトルを聞くと、誰ても知ってるヒット作だった。
‟あれ?でもそこ作品に二人は…”
‟出ていない”
なんで、と口を挟むみつきとともやを制して佐伯は続ける。
‟映画の撮影が始まった時、主演女優と次音の間にトラブルが生じた。トラブルと言っても主演女優は大物で単純に次音の事が気に入らなかったんだろう。撮影が進むにつれて次音はノイローゼ気味になったらしい”
‟苛め?”
‟まあ、その程度はよくわからないが、次音の実力のほどは知らんが、まだ新人の俳優がベテランに睨まれちゃきついだろうな。そんな状況で、ある日次音が撮影に遅れた時があってそこへたまたま奏一郎の荷物持ちで玲が現れた。背格好が似ている次音の代わりに玲をカメラテストで使ったところ”
‟わかった、監督かその大物女優が葛城君を気に入っちゃったんだ”
渡利が後を続ける。
‟その通り“
‟カメラテストをみて次音と玲を取り替えたいと言い出したんだ。もちろん既に撮影は始まっていて小さい役とはいえそう簡単に交換てわけにはいかない。だが、問題はその会話を後から来た次音が聞いてしまったってことだ。ただでさえメンタル的にまいってる時だ。次音にしてみれば玲が抜け駆けして自分の役をかっさらったように思えたんだろうな。次音が大声で玲を罵倒し撮影現場を飛び出していった。その次音を追いかけてもみ合った奏一郎が階段から落ちたんだ。落ち方が悪く奏一郎が右足の複雑骨折で撮影を続行できずに結局降板になった。次音はそれからうつ状態になり引きこもり。奏一郎もその後しばらく荒れて満足に仕事ができなくなった。事務所の社長が何とか後押ししてコネを使いまくってようやく復帰出来たってことだ”
‟ああ、それは重い話ですね”
‟でも、それって逆恨みか八つ当たりじゃない。玲は悪くないのに”
‟まあ,傍から見りゃそうだが、感情的にはそう冷静にはなれないってことだろう。雪永も本来なら責めるのは弟だろうが、弟可愛さか、うつ状態になっちまって同情してるのかはわからないが、矛先が玲に向いたってことだな”
‟それにしたって…”
みつきが爪を噛む。
‟だから、人の感情ってのはそう簡単に割り切れるもんじゃないんだ。雪永が玲に向かって、お前の所為だお前さえいなかったらって怒鳴り散らしてるのを同じ事務所の俳優たちが聞いてる。玲もしばらくは使い物にならなかったそうだ。もともとそれほどがつがつなタイプじゃなかったが、それ以来奏一郎のいう事には逆らわず、俳優としてもエキストラに毛が生えたような役ばっかりで、それどころか裏方の仕事とかしてきたらしい”
‟じゃあ、このドラマで雪永と葛城さんが共演って最悪じゃないですか”
なんでわざわざ共演させるかな、と責めるようにともやが渡利を見る。
“うん、そうなんだけどね。でも雪永君も下手じゃないしさ、だとしたら役あげるでしょ、普通”
それと、と渡利は顎に手を当てて思案するように続けた。
‟彼はある意味キーパーソンかもしれないって思うんだよ”
‟キーパーソン?”
‟前世の事をやり直す云々の前に今世での玲君のあの性格。雪永君との関係から卒業しないと何も始まらないと思うんだ”
みつきは黙り込み、ともやも佐伯も納得せざるを得なかった。




