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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
12/99

ドラマ黄昏時に落ちる星9 ドラマ制作3

 


 キャストたちと本読み合わせの日。自分の出番はまだ先だが参加するように言われたので玲も後ろの方に座っていた。

 キャストと今いるスタッフ全員を集めて渡利紘一が発言した。


 ‟皆台本は読み込んできてくれてると思うけど、今日はそれぞれ自分の役についての解釈を話してくれるかな。これは必ずしも正解不正解はないけど僕の考えと演じる側の考えがあまりにもかけ離れているとさすがに困るからね”


 そこで順番に自分の考えを話ていく。メインのキャラクター達である王、王妃、神官長、宰相、そしてミシルカ。各俳優が自分の役に対する考えを話し、渡利やほかの俳優がそれにコメントをつけ足したり質問したりする。おおむねスムーズに進んでいき奏一郎の番になる。奏一郎の役はダン.グレイド。レイシャーンが隊長を務める隊の副隊長だ。彼は訓練生の時代からレイシャーンと共に過ごしてきておりレイシャーンの人柄に心酔している。


 ‟君はレイシャーンの企てが明るみに出た時、ダンはどう感じたと思う?”


 ‟えーダンってその頃に出番はほとんどありませんよね。そうですね。僕が考えるダンは真面目で実直な男です。だからレイシャーンの企てが明るみに出た時に裏切られたような気になり、失望したと思うんです”


 ‟じゃあ、ダンの立ち位置はレイシャーンを糾弾する側だと”


 渡利が確認するように尋ねる。確かにドラマではレイシャーンが捕らわれた後ダンの出番はほとんどない。


 ‟はい、そうだと思います。信じていたからこそ許せないと思います。そして心を鬼にして正義のためにレイシャーンを罰しようとすると思うんです”


 ‟でも彼はレイシャーンの腹心の部下でずっと傍に居たんだよ?誰よりも彼を理解しているはずだ。レイシャーンが王位簒奪を狙うような人間だと簡単に信じられるの?”


 そこに楷ともやが質問してきた。普段の彼らしくなく少しむきになってる口調だ。それに何かを感じたのか奏一郎はちょっとむっとしたように言い返す。


 ‟っていうかそういう設定ですよね”


 ‟…”


 ともやは不本意そうに黙り込み、奏一郎も呆れ顔で肩をすくめる。


 ‟確かにそうだね。じゃあ次いこうか”


 渡利は淡々と進めていく。


 ‟次に楷君だけどどうだい? ドラマの中盤あたりから不穏な空気が流れ始める。この後半から終盤にかけて話はレイシャーンの立ち位置によってずいぶん印象が変わってくるよね”


 となぜかちらりと玲の方を見る。


 ‟例えばレイシャーンはいつから自分が王になりたいと思っていたか、とか実際に裏工作を計画し始めたのはいつからか、とか。セリフやカメラの前でこの時点ではそれがあまり大っぴらには出てこないから難しいところなんだけど楷君の考えを聞かせてほしいな、君にとってのレイシャーン像”


 楷は膝の上の組んでいる両手を見下ろす。


 ‟…正直難しいです。なんというか、うまく言えないんですが…その、レイシャーンはなぜそんな行動をとったのか。いえ、理由はわかるんですが彼の心情がよくわからない”


 さっきの勢いとは打って変わってしどろもどろするともや。


 ‟…それは、レイシャーンが本当に王位を欲していたかどうかってこと?”


 渡利が確認するように尋ねる。


 ‟そうなのかな…そうですね。その辺が納得できなくて”


 ‟でも、それだったらレイシャーンはどうして王位を簒奪するためにいろいろ画策したんだろう?”


 と王役の色部さん。


 ‟すみません、僕は理解していたつもりでもまだ役を掴み切れていな様です”


 下を向いてつぶやくともや。


 ‟いや、今の段階ではまだ構わないよ。レイシャーンは表面上は明るいが内面は少々複雑だ。その葛藤が後で実になると思うよ”


 渡利は特に気にしていないように微笑む。


 一通りの本読みが終わって解散になり皆が部屋を出ていく時、


 ‟自分の役も満足につかめてないくせに人に難癖付けるなっての。トップ俳優が聞いてあきれるよ”


 奏一郎が小声で言い捨てるのが聞こえてきた。


 あー奏さんなんてことを


 玲はともやに聞こえていないか、びくびくした。奏一郎は確かにうまい俳優だが人から意見されたり指導されたりするのをひどく嫌う。当たり役だとすごくうまくやれるのだが、その反面調子に乗らないとすぐ投げやりになったりする。


 玲が冷や汗をかきながら自分も部屋から出ようとしたとき


 ‟葛城君、ちょっといいかな”


 と、ともやが声をかけてきた。


 ‟え?はい?”


 なんで俺?


 ‟ちょっと君の意見を聞いてみたいんだけど、君はどう思う?レイシャーンの事”


 ともやらしくなくおずおずと聞いてくる。


 ‟どうとは?”


 ‟台本、読んだ?”


 ‟はい、通して読みましたけど”


 ‟君のレイシャーンの印象、どんな感じ?”


 うーん、俺の意見とか参考になるんだろうか。


 ‟第一印象ですか?そうですね、いいヤツ、ですよね”


 ‟そうじゃなくて、彼が王位を簒奪しようとして取った行動について”


 あ、そっちか


 またうーんと考えて


 ‟根拠はないんですけど”


 ‟いいよ、それでも”


 ‟レイシャーンはそもそも王位に興味はないんじゃないかな、と”


 ‟え?”


 ‟あ、おかしいですよね。こんなこと言うと原作者の方や脚本家の渡利さんに失礼かもしれないいですけど、すごく違和感があるんですよね。まあ皆をだまして陰で策略を張り巡らせていたのだから表面上と裏で考えてることが別なだけかもしれないんですけど、でも彼がそうしたのには他に理由があったか…たとえば”


 ‟たとえば?”


 ともやがずいっと迫ってくる。


 ‟誰かを庇ってるとか、贖罪のためとか。あ、でもそれはないですよね。だって話はレイシャーンが断罪されたところで終わってるんだから”


 何言ってんだ、俺。しかも楷さん相手にべらべらと。


 と頭を掻く。


 ‟あ、すみません。俺行かないと”


 荷物を持って慌てて部屋を出た。


 ヤバい、調子に乗って変なことをべらべらと。奏さん待たせると機嫌悪くなるし



 ‟今の聞いてました?”


 玲が出て行ったドアを見つめたまま、ともやは後ろに近寄ってきた男たちに声をかける。


 ‟ああ”


 ‟僕、泣いていいですか?なんか泣きたくなった。あの人はやっぱり隊長だ”


 ‟そんなこと最初からわかってるよ、僕には”


 ともやの後ろに立っていたのは佐伯剛と南条みつき。ともやの言葉にみつきの声がかぶさる。


 ‟おい、ならもう少し優しく接してやったらどうだ”


 ‟それでも認めたくない!あれがリーシャだなんて。あんなにおどおどして勘違い自信家の先輩の機嫌とって…”


 みつきの顔がゆがむ。


 “そうだな、わかってたことだ。だから少しだけ気長にやろう。あいつが自分を取り戻す時間が必要だ”


 佐伯が珍しく穏やかな声で言った。



 “おい!おせーよ!何してたんだよ”


 奏一郎が不機嫌そうに建物の出口で玲を待っていた。


 ‟すみません。とちょっと忘れ物して”


 楷さんと話してたなんで知れたらもっと機嫌が悪くなる。


 ‟お前もさ、有名俳優たちと会う機会が多いからって調子に乗るなよ”


 ‟え?”


 ‟あいつらは下々の人間に親切にしていい人ぶってんだよ、評判あげたくて。だからお前に興味があるわけじゃないんだから話しかけられてもあんまり有頂天になるなってこと”


 玲は息を飲む。


 さっきの見られてたんだ


 奏一郎はいつもこうやって玲が業界関係者と親しくなりそうになるとくぎを刺してくる。人間関係をいつもチェックされてる気がして時々息苦しくなるが、それにももう慣れっこだ。


 ‟当たり前ですよ、そんなこと”


 玲ははは、と笑って奏一郎の後を追った。



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