(2)悲しきことこの上なし
(2)悲しきことこのうえなし
あぁ、悲しい。生きていることは悲しい。
毎晩行きつけのバーで日付が変わるまで飲み倒し、ふらりふらりと夜道を歩く。掠れたインクみたいになったボロボロの脳内を、必死で守っているネジの外れた頭。
静かで。ここはとてもとても静かで。この世界には俺1人だけなんじゃないかと思う。…ここはどこなんだっけなぁ…。夢か現実かもわからなくなってしまった。僕かどこの誰かか、この体を動かしているのは。
…僕は誰なんだっけなぁ…。
何日も片づけることができずに溜まってしまった夢の残骸に、今日も埋もれているようだ。ぼんやりとした輪郭、場所、色、音、声、人、人じゃない物…。不確実なのに確実で、つじつまが合っていないのに全部合っている。ピエロも、拳銃も、心臓も。お前も。
あぁ、本当に悲しい。お前を連れて行った死神を見つけるまではといつぞやにそう決意してもう何年だ。もう生きられないかもしれんな、悲しすぎて。涙が出なくなるほど悲しすぎて。悲死、かなし、だな。しょうもねぇ。悲しきことこの上なし。
…なぁ死神さんよ、いっそこっちから迎えに行ってやろうか、もう。なぁ。
傾けたジントニックの底に沈む、串切りされたレモン越し。良い感じにキラリキラリするバーカウンターネオンサインやら小さくておしゃれな電灯やらが、時々獣か化物か何かの目に見える。
そういえば、レモンって欠陥品っていう意味もあったっけか。
頭の中があっちゃこっちゃにぶつかる。ぶつかっては飛び散る。全部フィクションであればいいのになぁ…って、ノンフィクションに求めても意味はないのだろうが。起も承も転も結も見当たらない。こんなことがあるんだなぁ。悲しいなぁ。
何がそんなに悲しいか、真面目に考えてみた。そう言われてみれば、何がなんだろうなぁ。悲しいはずなんだけどなぁ、こんなしょうもないことじゃなくて。何がって言われたら、お前が死神に連れていかれたってことくらいかなぁ。…忘れちまったなぁ…お前なぁ。どこに連れて行かれちまったわけさ。お前なぁ。
…悲しいなぁ…。