(1)寝不足少年 シンヤ
こんばんは。
(1)寝不足少年 シンヤ
寝不足のまま大興奮の楽しい1日を過ごし、雨音のうるささに耐え兼ねて、いつもより夜更かしをしている。今いる”ここ”が現実なのか夢なのか、それともまた違うどこかなのか、いつも以上にわからなくなるところまできた。何とも言えない浮遊感を抱え、ほんの少し弱まった雨音を聞き流す。限界突破だ。おめでとうと、さっき自分に皮肉った。
午後から久々に雨が降り続いている。いずれ止むだろうと、それまでは本を読んでいようとベッドに転がり2時間。あのまま弱まると思った雨は僕を裏切り、強さを増した。
ベッドの端っこにあるデジタル時計はすでに日付を回っている。さっき2階にいた母親は、まだ起きているだろうか。父親と姉は、もう寝てしまっただろうか。この大雨の中いつも通りに眠れるのが非常にうらやましい。うらやましいし素晴らしいと思うから、眠れるうちにしっかり寝てほしい。
ベッドの足元側にある金網のケージから、何かをひっくり返す音がした。見ると、部屋で飼っている愛兎の水箱がカラッポになって横倒しにされていた。この子は僕が水がなくなったことに気が付かないでいると、こうして「おい人間、水がねーぞ」と要求してくる。本を置き、水を入れるためにケージのドアを開ける。すると、待ってましたとばかりに愛兎が部屋に飛び出していった。まぁ僕もまだ起きているだろうしと、甘やかした。80mlの水を入れベッドに座った僕のところに、兎がぴょんと飛んできて撫でを要求する。僕は少しの遠慮もなく、撫でまわさせてもらう。雨音に警戒し耳をまっすぐに立てる兎を落ち着かせるための撫でか、はたまた眠れない僕の荒れた心を落ち着かせるための撫でか、僕にはわからなかった。
…あ。さすがに限界かもしれん。とりあえず、明日の予定が何もなくてよかった。いつでも寝れるから。ただでさえよく眠れていないのに、また何か用があったら僕はどうにかなってしまう。いやもうどうにかなっているのかもしれんが。
雨はさっきよりは収まったが、依然として強弱強弱を繰り返している。大サビ後もクレシェンドとデクレシェンドを交互させて、終わらない曲のようだ。
…あー、限界だ。ウッサ、ケージにお戻り。
ウッサにおかえりいただき、布団に潜り込み、手だけでリモコンを探して電気を消す。暗くなった部屋を眺めているうちに、雨が止んできたのが分かった。だが、どこかの雫が外の室外機の上に一定のリズムで落ちてきてうるさい。僕はこの音が大嫌いだ。この音と自分の心臓の音、そして聞きたくなくて電池を抜いたアナログ時計の秒針の音が重なる。アナログ時計はもう動かないはずなのに。雨は止んだのに今度はこっちか。クソ。どちらにせようるせぇ。
夜に振る雨は嫌いだ。寝不足な僕をもっと寝不足に引きずり込み、じわりじわりと気持ちが悪いくらいにゆっくりと絞め殺してくるから。
おやすみなさい。