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神の力、お借りしてます  作者: もなき
第1章 
2/47

様子見

……



……



……



……




 あれから15年経つが、いまだにその力は神に戻ってきていない。


「あの、全然返ってこないのだが……」

「そうですね」

「……」



 あの日突然命を落とした女は、神に特別な力を与えられ、この世界で違和感のない風貌の6歳の少女として生まれ変わった。人気のない村の最奥で目を覚ました彼女は、そこに偶然通りかかった老人に声をかけられ、身寄りのない彼女を心配した彼の勧めで一緒に住む事になった。

 どういう訳か、おじいさんの家の周りには他に家々はなく、ポツンと建っていたが、寂しいと思う事はなかった。彼女自身元々1人で行動する事が嫌いではなかった事もあるが、何よりおじいさんが彼女を本当の孫のようにとても大切に育ててくれたからだ。森で狩りをするのを手伝ったり、採ってきた木の実からジャムを作ったり、木を削って道具を作ったりと、物知りなおじいさんのおかげで毎日飽きる事がなかった。


 そんなおじいさんとの楽しい生活が始まってから5年が経った頃だろうか。おじいさんは、森へ狩りに出かけたある日、突然命を落とした。不慮の事故だった。彼女にとっては、この世界に来てから初めて知る大切な人の死だった。彼女はあまりに突然の出来事にショックを受け、そのまましばらく家に籠りきりになってしまった。




 10年の月日が経った。彼女は未だ1人で家に籠ったままだ。


「さすがにそろそろ動き出しても良い頃だと思うのだが」

「そうですね」

「ちょっと様子見て声掛けてきて」

「私がですか?」

「他にいないだろ!」


 最初は神と共に彼女の様子を水晶に映して観察していたのだが、数年もすると神はさっそく飽きてしまい、それからは私1人で観察していた。

 といっても、家に籠ったままなので、私も特にやる事がない。神様も神様で「彼女に動きがあったら連絡して」と言ったまま完全に放置していた。


 だが仕方がない。神の命令には基本背かない方針なので、渋々「いってきます」と言って下界に降りていった。

 彼女の家の前に着くと、なんとなく悪い事をしている気分になり、小さく「失礼します」と言ってから、魔法で扉を開けて侵入した。


 随分長いこと塞ぎ込んでいたから家の中は荒れ放題なのかと思っていたが、実際は全くそんな事はなかった。

 むしろナチュラルブラウンに統一された木製の家具が、埃ひとつなく綺麗に置かれている。テーブルクロスやクッション等、所々手作りのものがあったり、テーブルの上には赤黄ピンクの可愛らしいお花が飾られていたりと、程よく生活感があって温かみのある空間だった。


 ドアの音で気が付いたのか、キッチンからひょいと女が顔を出した。


 ……ほお、以前見た時から随分成長したな。

 それもそうか。彼女が家に籠ってからのこの10年、私はずっと家の外から観察していて、殆ど彼女の姿を見ていないのだ。

 昼間は窓にレースのカーテンがかかり、夕方薄暗くなる前に厚手のカーテンがかかるので、観察といっても彼女の影をほんやりと確認するくらいだった。

 水晶で家の中の様子を見れなくはないのだが、神の使い魔とはいえ、やはりそこは憚られた。


 久々に見る彼女の表情は穏やかだった。とても塞ぎ込んでいるようには見えない。

 それもそうか。人間にとっての10年とはとてつもなく長い時間なのだ。あれからずっと家に籠っていたとしても、それなりに元気にやっていたのだろう。


「どなた……って、あぁ、あの時の」

「私の事、覚えていましたか」

「それはもちろん」


 そうか、私の事は覚えていたか。ならば話は早い。サクサク話をして、チャッチャと終わらせよう。


「では、時の力の事は覚えていますか?」

「もちろん」


 彼女は覚えていると言う。ならば私は問いたい。


「では、なぜその力を使わないのですか?」


 この力は偉大だ。この力を使いさえすれば、望むものの多くを手にする事が出来る。

 しかし、彼女の返答は予想外のものだった。


「使ってるけど」


 彼女は右手に持ったワインのボトルをこちらに見せる。


「えっと、それは?」

「ワイン」

「いや、そうではなく」


 私の意図したものがなかなか彼女に伝わらない。彼女は気にした様子もなく、淡々と話し続ける。


「この力、触れたものの時間を遡らせるでしょう? ワインに触れると……ほら」


 彼女はボトルを持っていない方の手でワインボトルに触れる。すると、ボトルのラベルに書かれていた「2020年」が「1980年」に変わった。


「でね、実際飲んでみたのよ。そしたら、ほんとに変わってるの。熟成された美味しいビンテージワインの出来上がり」


「葡萄に戻っちゃったらどうしようかと思ったけど、上手くいってよかったわ」と彼女は笑う。






 うん、色々整理しよう。


 彼女は自分を育ててくれた大切な人を亡くした。彼女はその大切な人を生き返らせる(であろう)術を持っている。ではなぜ使わない。なぜワインに使う。



 答えは1つだ。時空魔法の存在を忘れている。



 死んだ人間の体に触れると、その人間を甦らせる事が出来るとされているが、その体自体が今なければ、どうする事も出来ない。おそらく彼女は人間の中でも心の強い方で、ずっと禁じ手を使うかどうか葛藤していたのだろう。そして、悩んでいるうち、時が経ち過ぎてしまった。

 しかし、時空魔法を使えば、その障害すら跳ね除ける。人間とは時に盲目的になり、周りが見えなくなる事がある。彼女も今そういう状態で、時空魔法であっさり解決出来る(であろう)事を忘れているのだろう。


「過去や未来に行ける事は覚えていますか?」

「ええ、もちろん」


 彼女は「何を当たり前の事を言っているのだ」という顔で私を見る。


「ではなぜそれを使わないのですか?」

「? 使ってるけど」




 ……ん?使っている?



「そうそう、今から使う予定なんだけど、一緒にどう?」




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