8話
視点 天上 優
「えーとー、筆記は40点、実技は測定不能、魔力総合はF(最低)……嘘」
「それが僕の腕です。嘘偽りない僕の実力です」
休日なので誰もいない学校の食堂で、僕と青葉さんは試験結果の紙を見ていた。
その内容は救いが一切なく、申請していた青葉さんでさえ頭が痛いのかさっきから抑えている。
「なんでこーなるの」
ごもっともです。
正直に言うと自分ではもっといくと思っていたのだ。
だが結果は、実技はともかく筆記は元の世界なら赤点回避、魔力総合に関しては僕の予想より大幅に下だった。
「それにしてもこの測定不能ってパワーワードなんで出るのかな?」
「ああ、それ、僕の加護のせい」
「加護で?」
「うんまずその測定不能は規格外の強さって意味じゃなくて酷すぎて測定ができなかったんだ。理由は僕の『非武装の加護』のせいで、これで僕は物を攻撃目的で使えないんだ」
「そ、そんな加護があるの?」
「うん、僕の持っている加護は他にはみんなと同じ言語と、初級の反射と格闘、それくらいかな」
「つまり、騎士に慣れる兆しのある加護は」
「うん一切無い。むしろ僕は物を武器で使えないからさ、使おうとすると」
僕はテーブルに恐らく常時置いてあるフォークを取り、自分の左手の平目掛けて一気に振り下ろす。だが、振り下ろしたフォークは僕の手に触れる前に見えない力により弾かれ、宙を舞いながら床にコトンと落ちた。
「こんな感じ」
青葉さんの顔を見ると、僕をとても心配そうな目で眺めていた。
「天上君、なんでもそうやって自分で実験しないで」
「実験というよりかは証明だけど」
「そんなことをやり続けたら、天上君は」
「わ、分かったよ、分かったからそんな顔をしないで」
僕は慌てて彼女を宥める。
少し怒り気味だった青葉さんは、置いてあるカップの中にある紅茶を飲み切り、落ち着いた。
「それじゃあ、僕はこれで」
「え?」
「無理だった以上ここにいても仕方がないから、バイト探すよ。昨日は泊めてくれてありがとう」
「ちょっと待って、どこかに住む宛でもあるの?」
「無いけど、これ以上2人に迷惑をかけるわけにはいかないよ」
本当は少し惜しい。
バイトが決まるまで居候したい気持ちは大いにあるのだ。だが僕がいるだけで彼女達の保身に関わる。なのであえてこうするしか方法がないのだ。
「天上君……」
「それでは……清掃員はどうでしょうか」
「まぁ清掃のバイトはよくやってたから多分できると思うけど……ん?」
僕と青葉さんは、テーブルを挟んで話し合っていたのだが、その横から、僕でも青葉さんでもない他者の声がしたことに気がついた。
「ファ、ファルナ先生⁉︎」
「ヒマリさん、私をまるで遭遇したモンスターのように振る舞うのはやめてください」
横で声を出していたのは、青葉さんの担任ファルナ先生だった。
「あの、清掃のバイトがあるんですか?」
「はい、この学校では、清掃員用の宿舎付きで清掃員の仕事を募集してます」
「え⁉︎ それ本当ですか⁉︎」
「はい、食事は自費出費ですが」
だとしても、住むことのできる宿舎があるだけで相当ホワイトだ。
「で、ですが先生、清掃員は今は」
青葉さんが慌てながらそう言う。
何か問題でもあるのだろうか。
「どちらにせよ、彼はこの学校に転入などできません。さらに明日も休日、面接は愚か、明日は仕事をやっているところなど無いです」
ファルナ先生のごもっともな意見に青葉さんも声を出さなかった。
でも僕は、もう決めたよ。
「清掃員やります!」
「あ、天上君⁉︎」
「だって宿舎付きだよ、ありえないくらい最高でしょ」
「で、でも」
「決まりですね、それでは休日ですが、明日は1ヶ月に一度の休日清掃なので、早速仕事です」
「はい! 頑張らせていただきます!」
僕は大きな声で、元気良く、明るく返事をした。
だが僕はまだ知らなかった。
この清掃という仕事が、ありえない程大変だということを、この時はまだ知る由もない。