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7話

視点 青葉 陽毬

「ただいまー」


 扉を開けて家の中に入る。

 出迎えたのは豪華なシャンデリアと白い床、この光景にはまだあまり慣れることができていない。

 そして何よりいい匂いが漂っている、今茅野は料理中のようだ。

 とりあえず私は匂いのするリビングルームに入る。


「茅野ー今日の晩御飯は?」

「あ、お帰りなさい青葉さん、お邪魔しています、今日は肉じゃがですよ」

「……ん?」


 あれ、この灰色髪の少年は……天上君だ。


「なななななんでここに⁉︎」

()が多くない?」


 私がそう彼に問うと、


「あ、陽毬ちゃんおかえりー」


 キッチンから茅野が現れた。


「た、ただいま、これどういうこと?」

「天上君とは帰ってる時に会ったんだけどカクカクシカジカ」


 私は茅野から理由を聞いた。その内容がなんとも不幸な内容なので、私は天上君に同情した。


「そ、それはまたなんとも」

「うん、それで、駄目かな? 無理そうなら僕は出て行くけど」

「ん? いや、大丈夫大丈夫大丈夫」

「また多いね」


 ついさっきから同じ言葉を何度も口にしてしまうのは、とうとう私も病気だろうか?

 その後私は椅子に座り、食べ始める。


「あ、美味しいね」

「うん、天上君が手伝ってくれたし」

「野菜しか切れなかったんだけどね」


 天上君は恥ずかしそうにそう言う。

 確かに、天上君は中学生の頃家庭科で野菜を切る以外殆ど失敗していた。今では懐かしい思い出だ。


 あ、天上君に言わなければいけないことを忘れていた。


「天上君、今日はありがとう」


 私を助けてくれたお礼を言うのを忘れていた。


「え? いや、いいよそんな顔にならなくて」


 そんな顔とは、真剣な顔のことだ。むしろ、このような時に彼は真剣な顔にならないのだろうか。


「私は貴方に命を救われた。しかも、片腕を失ってまで」

「いや、だからそんな感謝されるようなことは、まあしたけど、結果的に僕の腕は再生したし、怪我人は僕だけだったんでしょ、再生したけど。ならまるで全部自分が悪いみたいにしないで」

「でも、私がまだ力不足だったから、天上君はあんな思いを」

「だ、だから僕の腕なんて何回でも再生ができるから」

「でも、痛かったよね」

「そ、それはそうだけど」


 天上君は私から目線を外す。


「……僕は再生できるから、痛みなんてどうでもいいんだよ。僕自身が傷ついて周りが助かるなら、僕はそれでいいんだ」

「でもそれだと天上君は救われるの?」

「まず、僕は救われる側じゃないから、大丈夫だよ」

「答えになってないよ、貴方自身救われたくないのって聞いているんだけど」

「……」


 沈黙が空間を支配し始める。私もこれ以上言葉を発せなくなった。


「そ、そういえばさ、天上君のその『再生』ってどんな能力なの?」


 今の空気を和ませようと、茅野が話を切り替える。無理矢理だが、今はその無理矢理に救われた。


「その名の通りだと思うんだけど」

「ああこれね、これは一言で言えば()()()()()、でもこの能力は僕が再生するというよりかは()()()()()()()()が正解だね。だったら『細胞再生』って言った方が正しいかな」

「細胞?」

「うん、この能力は僕だけじゃなくて、他人に触れればその人にも使えるんだ。その時に僕がすることは腕を生やすんじゃなくて、僕がその人に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ご、ごめん陽毬ちゃん、私理解ができない」

「うん、大丈夫、私も無理」

「ま、まあそうだね、例えば物騒なこと言うけど、青葉さんの腕が切れたとするね。その切れた面の細胞に再生に必要なエネルギーや腕の設計図を送りつける。そうするとそれを受け取った細胞は無意識に送った設計図を頼りにエネルギーを使って再生する、まぁ簡単に例えるとそんな感じかな」

「ま、まだよく分からない」

「茅野、考えたら壊れるからやめておいたほうがいいよ。それじゃあ、ワイバーンを行動不能(スタン)にさせたあれは?」

「ああ、あれはまだ損傷していない細胞に余分なエネルギーや設計図を送ることで、その細胞がやりすぎた再生に耐えられなくて自ら崩壊するって仕組み」

「そ、それじゃあ、それを使えば、相手を一瞬で」

「あ、それは無理、なんかこの能力で送るものは『魔力の抑制力』に引っかかって、もしそうすることができる相手は、魔力量ゼロの物体、でも僕のは細胞が生きているものにしか使えないから、結局そうしたりするのには時間がかかるんだよ」


 『魔力の抑制力』とは、体内に自分以外の魔力を感知すると、それを揉み消そうとする力だ。

 なので、体に影響を与える魔術はそれが強い人程効きにくい。この力は魔力量が多い人程強い、なので魔力量が学年でもトップレベルな私には魔術の効きは良くない。


「だから、再生も自分だと一瞬なのに人にやると30分とか、僕魔力弱いし」


 何というオチだ、と私と茅野は思ったが、ちょうどいい。


「……その能力、活かせるかもしれないよ」


 私は椅子から立ち上がる。


「へ?」

「その素晴らしい能力は鍛えればもっと人の役に立つ、なら」

「なら?」

「天上君も学校に入学すればいいの!」


 再び沈黙が訪れる。

 天上君は少し静止したが、


「いや、無理無理絶対に無理」

「大丈夫、私が遅れて帰ってきたのはもうその手続きを済ませたから、明日は休日、天上君、転入試験、行こ♡」

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 こうして翌日、天上君は、念願の試験を受けたのであった。

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