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6話

視点 天上 優

    ↓

   茅野 雫

    ↓

   天上 優

「やっと帰れる」


 僕は帰路を歩きながらそう呟く。

 あの後情報収集などをされ、結局帰ってきたのは午後3時、とくに感謝料なども払われずに帰された。

 あのワイバーンは、とある生徒がダンジョンボスから取れるドロップアイテムを使って召喚したらしいのだが、よくダンジョンボス倒せたなぁ、まあいい迷惑だけど。

 本当に何も貰えなかったのが少し惜しいが、青葉さんを守れてよかったと思っている。そう思うと、感謝料のことで変に考えている自分が恥ずかしい。


「あ、家賃滞納してたなぁ、まあもう少し保てるかな?」


 バイトで長期間家を留守にしていたので、家賃が払えていない。バイトを転々としていたが、所詮はバイト、高収入が得られる訳じゃない。となると格安の家賃も払えない、なんて酷い話だ。

 歩いていると自分の借りている古い木造建築の家、いわばアパートが見えてきた。

 部屋の広さは、8畳といったところだろうか。あまり広くはないし若干ぼったくりのような家賃だが、それでもここら辺では格安だ。なので、よく隣の家からは言い合いの声がよく響く。

 僕は扉の前に立ち、ドアの鍵を開ける。ギギッと音を立てて開いた部屋の中は、


「え?」


 想像を絶することになっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 時刻は5時、空は夕方の色になり、カラスが空を飛んでいる。

 陽毬ちゃんは先生と話すので、私に先に家に帰っていてと言われたので、今家への帰り道を歩いている。

 ついでにさっき買い物も済ませたので、家に帰ったら今日の夜ご飯の支度をしなくてはならない。


「……ん?」


 歩いていると、2人の男の言い合いが聞こえてきた。ちょうどそこの建物と建物の間の小道からだ。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ大家さん! 僕言いましたよね! 長期間のアルバイトがあるからしばらく帰るのが遅くなるって!」

「悪いけどね、こっちも家賃貯まっている人の荷物とかずっと置いておく訳にはいかないの」


 暗くて顔はよく見えないが、お年寄りの人に私と同じくらいの歳の人少年がそんなことを叫んでいた。すると少年が、まるで子供のように、


「じゃあどうするんですか? もうしばらくバイトが無いし、明日から休日だし、今さら!」

 

 と泣き叫ぶ。


「あのね、それはそっちの問題だから。それじゃあね」


 そう言って老人は道の奥の暗闇へと消えていった。


「あ、あの大丈夫ですか?」


 私は恐る恐るその人に声をかけた。


「……はい、大丈夫です」


 その人は顔を上げる。


「そ、そうですか……あ」


「わざわざ心配してくれてありがとうございます……あ……か、茅野さん?」


 その顔の持ち主は、()()()()、天上 優だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そ、そうなんだ」


 歩きながらあのようになった事情を茅野さんに説明する。

 あの時、ドアを引いた時、中には何も無かったのだ。ベッドも、食器も、何もかもが後方もなく消えていたのだ。


「家賃貯めすぎた〜、あ〜も〜ど〜しよ〜」

「今お金はどれくらいあるの?」

「……金貨2枚銀貨1枚」


 僕はポケットから所持金全てを取り出して見せる。


「それじゃあ生活はできないね」

「しかも明日は休日、ろくにお店もやっていないよ」

「そうだね……あの、天上君は、どんなバイトしていたの?」


 茅野さんは興味津々に聞いてくる。


「あー荷物持ち、掃除、修繕、配達、介護、店番、猫探しとか」

「すごいね」


 本当に僕自身驚いている。思い出すととそんなに僕はバイトをやっていたのか。


「まあ、今となったら意味ないけどね」

「……」


 茅野さんは僕の顔をまじまじと見ていた、何故かは知らないが、とても真剣そうに。

 その後歩いていると、高級そうな同じ形をした家が、密集している地域に着いた。


「あ、ここから女子寮?」

「うん」


 やっぱりそうか、僕なんかが踏み入れていけない雰囲気がすんごいする。


「それじゃあ、ここで。青葉さんによろしく」

「……」


 茅野さんは僕の顔をまだ見続けている。


「ど、どうしたの?」


 彼女は少し息を吸うと、


「よ、よかったら、と……と」

「と?」


 何故()で止まるのだろうか。


 少しずつ茅野さんの顔は赤くなり、そして、


「と、と、泊まっていきませんか⁉︎」

「……………ん? 今なんと?」


「ね、寝る場所がないなら、わ、私達の寮に来ませんか⁉︎」


 長い沈黙、そして、


「えぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎」


 全力で僕は叫んだ。



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