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5話

視点 青葉 陽毬

    ↓

   天上 優

    ↓

   青葉 陽毬

「ウッ」


 吹き飛ばされるのを踏ん張る。

 ワイバーンの飛行に翻弄され、私はなす術がなかった。

 飛んでいる敵に対してリーチの無い剣では対抗が仕切れない。それに、飛んでいる敵とは戦ったことが無い、そんな私は完全にワイバーンに遊ばれている。


「ンアッ⁉︎」


 低空飛行からの爪による攻撃を剣で防ぐが、パワー強すぎるせいで吹き飛ばされた。


「……まだ」


 立ち上がる。

 立ち上がれる理由は1つ、希望があるからだ。先生さえ来てくれれば、ワイバーンは倒せるはずだからだ。それまでの時間稼ぎだ、絶対に倒れる訳にはいかない。


「剣技……」


 腕を通して魔力を剣に込める。これは私が編み出した魔力を使った技だ。


「ウォォォ!」


 ワイバーンは追撃の姿勢をとり、そのまま私に向かって飛び出した。しかし私は動かない。


 まだだ、ギリギリまで……


「グォォ」


 ワイバーンは咆哮を上げながら顔を45度ほど回転させ、私を口に入れようとする。


 あと3メートル……2メートル……1メートル、今だ!


 私は体を回転させ、それを左にかわす。流石のワイバーンも、このような避け方をされれば、対処ができない。


 そして首が空く、ここだ!


 私はため込んだ魔力を一気に解放する。


()()()()()()()!」


 炎を纏った剣が、ワイバーンの首を切り裂く。

 吹き出した鮮血は、炎により蒸発する。切り裂かれた部分は、鱗によって守られ深くは斬りきれなかったが、ようやくダメージと呼べるダメージを与えられた。


「グォォォォォォォォ!」


 衝撃によってワイバーンは吹き飛ばされる。

  

 よし、今のうちに追撃をしなくては。


 私は吹き飛ばされたワイバーンにもう1度攻撃をしようとする。するとワイバーンはすぐに体制を整えると、私を赤い目で威嚇する。そんなものに構わず、私は走り続ける。チャンスを逃す訳にはいかない。

 ワイバーンは再び私を食いちぎろうと、高速で突進してくる。しかし私はもう対応の仕方は分かっている。

 私は体を回転させその攻撃を避けた。


 首が空く、さっきは斬りきれなかった首を、今度こそ……何⁉︎


 ワイバーンは左に避けた私を、完璧に目で追っていたのだ。


 つまり、これは予知されていた……ということは、


「ぁあっ⁉︎」


 翼による……打撃……?


 腹部に打撃をくらった私は吹き飛ばされる。だが、この程度ならギリギリまだ動ける。左手を使って吹き飛ばされ逆さになった体を反転させ着地する。口から何かが出てきそうだが、それをグッと堪え、ワイバーンを見る。


「え?」


 既にワイバーンの口は、私の目の前にあった。


 ……殺される……もう元の世界には戻れない……喰われる!


 覚悟をこの一瞬で決められる訳がない。心の中は今絶叫中、何も考えられない。あるのは虚無だけだ。だが、その時、


「ッ⁉︎」


 体が何かに突き飛ばされ、横に吹き飛ぶ。それと同時に私は横を見た。そこにいたのは、天上……天上 優だった。天上君が私を突き飛ばしたのだ。

 そしてその突き飛ばした手袋を付けた右腕は、


「グアッ!」


 ワイバーンの口の中により挟まれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 痛い! 痛い痛い! 痛い痛い痛い!

 

 とんでもない激痛だ。

 僕は腕を噛まれたまま、ワイバーンと低空飛行を共にする。その飛行中、僕の腕から流れ出す血は後ろに投げ出さとばされる。


「グッ、ダメだ! 引き剥がさな……きゃ!」


 僕はワイバーンの横顔を殴る。

 顔まで鱗で覆われているせいか、とてつもなく拳は痛い。

 だけど、このままだとまずい!


 僕は左腕で何度も顔を殴る。しかしワイバーンは一向に手を離さない。

 でも今()()()()()時間はない。


 それじゃあ残された方法は1つ、


「あぁぁぁぁぁ!」


 腕を引きちぎる!


 僕は左腕でワイバーン顔を抑え、押す。それとは反対方向に、喰われた右腕を肩の筋肉で引っ張る。血が大量に飛び出る。当たり前だ、噛まれた右腕はほぼ切れかかっている。それをさらに、無理矢理引き剥がそうとする。そうすれば大量に血は出るに決まっている。

 しかし不思議なことに歯は僕の骨にあまり食い込んでいない。なら骨は自分で折る。


「うぁぁクッゥゥゥゥ」


 僕は体を揺らす。激痛が体全体に行き渡る。そして再び引っ張るとミチミチと音を立て、とうとう肉は分割できた。あとは骨を、もうここまできたら切れた腕から骨を引き抜く。


「うぁぁぁぁぁぁ!」


 なかなか取れない。


 けどまだだ。


 右肩に力を入れて全力で引く。すると肩の骨が脱臼した。あまりの力の入れ過ぎに耐えられなかったのだろう。


「こんなことでぇぇぇ!」


 しかし引っ張る。


 たとえ腕が、体が、頭が、悲鳴を上げてでも、引き抜く!


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ぐぁぁぁ!」


 取れた!


 右腕の切断された面からは、15センチ程骨が飛び出てしまっていた。

 僕はそのまま地面に転がりこむ。右肩には既に感覚なんてものはない。なので痛みはあまり無いのですぐに動けた。


「青葉さん!」


 僕は彼女の名を叫ぶ。


「あ、天上君、その腕」

「今はそんなことよりも、クッ」


 懲りずに突っ込んでくるワイバーンを僕は避ける。


「僕が怯ませるから、その後の攻撃をお願い!」

「で、でも」

「早く準備して!」


 僕は手に付けた茶色い手袋を口で噛んで取る。今は右腕に構ってはいられない。


「来い!」


 確か、ワイバーンは魔力が少ない。だから()()を使う。


「グォォォォォォォォ!」


 ワイバーンは空中で旋回し、標的を僕に定める。

 

「青葉さん、信じてるよ」


 そう呟き、僕は迫る竜に向かって走る。

 接触まであと少し……ワイバーンは口を開けて顔を横にし、僕を確実に喰い殺そうとする。

 顎を閉じれば挟まれる範囲に僕は入り込むと、ワイバーンは閉じようと口を一気に閉じようとする。僕はそれをギリギリで下に避け、この時に左腕に力を込める。懐に完全に入る、そして、


「くらえー!」


 左手を上に突き上げた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私は剣を構え、魔力を込めている。

 天上君は、私を信じている筈だ。しかしあの痛々しい腕が目に入ると、胸がとてつもなく苦しくなる。だとしても、彼の思いを踏みにじる訳にはいかない。

 天上君とワイバーンが衝突する。それを避け、天上君は左腕を突き上げた。

 私はこの後、ワイバーンとの激しい戦いがあると思っていたのだが、


「え?」


 ワイバーンは下から顎を殴りつけられた瞬間、まるで力が無くなったかのようにグタッと横に倒れたのだ。


「青葉さん!」


 天上君は私に合図を送り、退避する。

 私は動かないワイバーンに向かってたまっていた魔力を解放した。


()()()()()()


 剣の先を離れているワイバーンに突き刺すと、剣先から渦状の炎が放出され、ワイバーンを包み込んだ。

 焼かれている間、ワイバーンは声を上げず、ただ焼かれ続けていた。炎が消えると、その鱗はもうボロボロに劣化しており、もう動く気配は無い……と思ったが、


「グォォォォォォォォ!」

「嘘っ⁉︎」

「クソ、()()()()


 ワイバーンは私に狙いを定めだす。


「青葉さん!」

「ダメ、もう魔力が」


 既に魔力は底を尽きた。さっきの剣技は、私の大技中の大技、使ったら大量の魔力を持っていかれる切り札だ。

 私達はワイバーンの攻撃に対抗しようとする。すると、


「ソウル・リリース……」


 聞き覚えのある声が、私達の背後から聞こえてきた。

 振り返ろうとすると、

 

「弓技()()()()()()()


 私の横を何かが通った。

 目では追えない速度の何かは、分散し、無数の光となってワイバーンに吸い込まれた。

 アレは、あの技で飛び出たのは、()()。分かった理由は、私はあの技を知っていたからだ。それに、あの技を使う人も。

 ワイバーンの体は刺さっていない箇所が見当たらない程穴だらけになってしまっており、大量に血を流しながら死骸となった。


「あ、貴方はファルナさん?」


 そう、あの技を使っていたのは、私達の担任、ファルナ先生だ。


「す、すごすぎる……クッ」

「天上君!」


 私とファルナ先生は天上君に近づく。

 右肩の麻痺が解けて切断された痛みが、きているのだろう。


「これは酷いですね、切断面がグチャグチャだ。このレベルになると、魔法や薬の類では……」

「そんな」


 だが確かに、この面はもう使い物にならないくらい損傷し尽くしてしまっている、色が悪くなってしまっているのがその象徴だ。そんな中、


「大丈夫ですよ」

「「え?」」


 天上君は、そんな言葉を吐く。


「ま、まさかこの腕を元に戻す方法が」

「ありますよ。僕は周りより劣っていますが、()()()()()()()()()()()()ができます」


 そう言うと、彼は自分の切断された面を左手で触り始めた。


「な、何をしてるの? そんなことをしたら」


 私の言葉を聞いても、彼は止めない。


「僕は、周りとは与えられた能力が違うんです。周りは魂を武器として具現化、でも僕にはその能力が付かなくて、付いたのは」


 すると彼の肩が光りだす。


「こ、これは?」


「僕の与えられた能力、それは……『再生』だったんです」


 光り終わると、なんと、右腕が復活していた。


「「ッ⁉︎」」


 私とファルナ先生は、全く同じ反応をしたのだった。

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