35話
視点 天上 優
「アハハハハハハ!」
笑いながら接近してくるルールリアさんの顔に、僕達2人は恐怖した。
あの彼女のこんな顔を……恐怖しない筈がない。
「ッ⁉︎」
僕とアドランさんは、振られたその金槌をギリギリで避ける。
月明かりに照らされていなければ、恐らくやられてしまっていただろう。
「ルールリア! 止めるんだ!」
アドランさんは必死に叫ぶ。
しかしルールリアさんが返してきた言葉は衝撃的なものだった。
「アハッ……アドラン、お前に用はない。私の狙いは天上 優だ。下等生物風情が、私の邪魔をするな」
明らかに口調、声質が違かった。
その声は人間の出せるものなのか、とも思ってしまう。
ルールリアさんは回避したアドランさん目掛けてハンマーを横に振り払う。
ハンマーはアドランさんにヒットする。
アドランさんは「クッ」と唸るが、不思議なことにハンマーは彼を完全に振り切ることはできなかった。
「お、お前はよく知ってる筈だ。俺はこの学校の生徒会長。つまりそれ相応の実力がある。その程度の振りをも防ぐ程の力もな!」
その途端、ハンマーが押し返される。
「ソウルリリース」
すると、ハンマーにより遮られていたアドランさんの姿が見えた。
なんと彼の右手には剣、左腕には盾が装備されていたのだ。
あれが、恐らくアドランさんのソウルリリースなのだろう。
剣と盾、攻撃と防御のバランスが取れた正しくオールマイティな装備だ。
「フハハ、少しは骨がありそうだな」
ルールリアさんは不気味な笑みを浮かべながら言う。
「その笑い、いつまで持つかな? 今回ばかりは、お前を許すわけにはいかない!」
兄弟の戦いが始まった。
流石は生徒会用だ。動きに一切の無駄が無く、ヒットアンドアウェイでルールリアさんを翻弄しようとしてい。
だがルールリアさんはあの身長以上ある巨大なハンマーを軽々振るっているので、中々攻めきれていない。
クソッ、中々割り込めない。こんな中に割り込んだら絶対に邪魔になる。
「どうしたルールリア、そんなものか」
「チッ、この!」
しかしアドランさんにはどこか余裕があるように見えた。
その証拠に、この建物内を壊さないように攻撃を調整している。
しかもあのハンマーの攻撃に慣れて、どんどん対応していっている。
「凄い対応能力だ」
僕はついそんなことを呟く。
恐らくアドランさんはそのような加護を持っているのだろう。
【対応の加護】という加護があるというのを聞いたことがある。
ルールリアさんは段々と劣勢になっていき、笑っていた顔がどんどんと険しくなっていった。
痺れを切らしたルールリアさんは一気に攻め入る為、ハンマーを使った連続攻撃を繰り出す。
だがその攻撃はアドランさんに届くことはなく、彼の盾技【リバウンドシールド】によって跳ね返された。
「ルールリア、もうこんなことはやめろ。お前に何があったのかは知らない。それは俺が原因でやっているのかもしれない。けど、ユウを巻き込むことはないだろ。なぁ、お前に何があったんだ?」
反転しながら着地したルールリアさんは答える。
「……何も無い。私には何も無い。課せられた使命は天上 優ただ1人を狙う。だがそれを邪魔されるのは困る」
「お前は一体、何を言っているんだ?」
なんで僕を狙っているんだ? 当たり前だけど心当たりなんてない。特にルールリアさんになんて絶対にそんなことはない。
僕はルールリアさんに聞いた。
「ルールリアさん。一体、貴方はなんで僕を狙っているんですか?」
その問い、彼女は再び笑みを浮かべながら答える。
「マスターが私をそう作ったんだ。天上 優を成長させるように」
「マスター?」
なんのことだ? それに僕の成長? 意味が分からない。
アドランさんは僕らの会話が終わると、ルールリアさんに剣を向ける。
「ルールリア、これ以上するとなると、お前には痛い目にあってもらうしかなくなる。頼む、ソウルリリースを解いてくれ」
「解くわけにはいかない。私は使命を全うする」
「……なら、もう容赦はしない」
すると、アドランさんは駆け出し、距離を詰めていきルールリアさんと再び武器を交える。
「なあルールリア、いつからその武器を扱えるようになったんだ? 筋力が足りなかったお前には、扱えなかった筈だ。今のお前の見た目もでも無理そうに思える。強化魔術でも使っているのか?」
武器と武器が交差し、互いに停滞している中、アドランさんは聞く。
「私の魔力で倍増しているだけだ」
「魔力もそんなに無かったよな。だから周りからバカにされて……おい、ユウ」
アドランさんは僕に問いかける。
「君はどう思う? 俺はずっと思っているんだけどさ、君も同じことを思っているんじゃないか?」
「はい。この今僕らの目の前にいるのは本当のルールリアさんなのかですよね?」
「ああ。さっきから口調といい性格といい、明らかに別人だ。お前は、一体誰だ⁉︎」
次の瞬間、ルールリアさんの体は高速で後退した。
そして笑みを浮かべ、口を開いた。
「私はマスターに作られた存在。今はこの娘の体を借りている、いや操っているというのが正解か」
「操っている? ルールリアさんを?」
「この娘を解放する方法は1つ。この肉体の活動を停止させることだ」
「活動停止って、つまりそれは」
アドランさんは僕にの言葉を引き継ぎ、怒りながら続ける。
「ルールリアを殺すということだ。貴様」
「これは天上 優の成長、そして検証も兼ねている。君は、人殺しをする人間なのかどうか。あの時、茅野 雫を助けるために命をかけた君がどういう選択をするのか。マスターはそれを私の目を介して観察している。せいぜい良い結果を出して、マスターを喜ばせろ」
「……俺の妹を、そんなことの為に……ふざけるな!」
アドランさんは怒りのあまり駆け出した。
そして盾でガードしながらルールリアさんに突進し、押し倒す。
剣を逆手に持ち、彼女の喉に突きつける。
「ルールリアから出ていけ!」
だが脅しても彼女の笑みは変わらない。
「振り下ろせ。そうすればこの娘は解放されるぞ」
「クッ」
アドランさんの腕は固まる。
振り下ろした場合、ルールリアさんの命が無くなるからだ。そんなこと、できる筈がない。
その時だった。
「兄……さん」
「ッ⁉︎」
アドランさんは目を見開く。
なんと口調、声質、それが全てルールリアさんのものに戻っていたからだ。
当然、僕も驚いた。
「ルー、ルリア?」
「兄さん……やめて……殺さないで」
涙を流す。
「ルールリア……大丈夫か? あいつは?」
「うう……兄さん、私、分かったんだ」
「分かった? 何がだ?」
アドランさんの優しい呼びかけに、彼女は答える。
「人間って、愚かだなぁって」
次の瞬間、ルールリアさんは腕を伸ばしアドランさんの首を掴んだ。
「アガッ⁉︎」
「やっぱり、すぐに騙される。人間の悪いところだ」
口調等がさっきのものに戻る。さらに形勢逆転する。
彼女は首を絞めながら立ち上がり、さっき以上に不気味な笑みでアドランさんを眺める。
「アドランさん!」
僕は助けるために駆け出す。
しかし「相手は少し待ってくれ」と言われながらハンマーで吹き飛ばされる。
どうにかそれを腕で庇ったが鈍い痛みに腕を襲われながら壁に激突した。
「クッ、ユウ……」
「他人を心配する余裕があるのか。よろしい、なら」
彼女はアドランさんを放り投げ、手に持っていたハンマーでまるで野球のバッティングかのように振った。
ハンマーは腹部に直撃し、吹き飛ばされた。体は吹き飛ばされ、遮っていた壁を破壊し、月光が照らす外へと投げ出された。
穴の壁から月が顔を出し、ルールリアさんを照らす。
「さあ、始めようか。天上 優」
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