33話
視点 アドラン・アルス・テルラー
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ルールリア・アルス・テルラー
俺は家に帰ってくると、妹の部屋へと向かった。
妹の部屋の前に着くと、扉をノックする
「ただいま。ルールリア」
中から返事は無し。どうやらさっきのことでかなり怒らせたらしい。
「……反応はしなくていい。聞いてくれるだけで十分だ。今日は、悪かった。お前の心を何も考えていなくて。お前は、こんな兄でも慕ってくれてたんだな。本当にありがとう。お前のタイミングでいい、仲直りがしたい。生徒会長も降りない。だから、許してくれないか?」
俺は扉の前で、奥で聞いていると思われるルールリアにそう伝える。すると、
「明日の午後6時」
「え?」
扉の向こうから、ルールリアの声が響いてきた。
「屋内実技場に明日午後6時に天上 優も連れて来て」
屋内実技場? しかもユウをなんでフルネームで。
さまざまな疑問が出てはくるが、ルールリアがそう言っているのに対して、NOとは言えない。
「ああ、分かったよ。明日の午後6時な。連れてくる」
ルールリアはその後喋ることはなかったので、俺はその場を立ち去った。
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数分前
帰ってきた私は、ずっと部屋の隅で座り込んでいた。
なんであそこまで言ってしまったのだろう。もっと他に言い方があった筈だ。
私が自分のしたことをかなり後悔をしていた、その時、
「ほぉ、ここが君の部屋か?」
聞いたことのない低い声が、私の部屋のベランダから現れた。
「誰?」
暗い中目を凝らしてよく見てみると、黒マントで体を覆った虫の仮面を付けた人がそこに立っていた。
「怖がらなくてもいいさ。私は別に殺しも盗みもしに来たわけじゃない」
「どうやってここに?」
「なぁに、隠れながら忍び込むのが得意なだけでね」
男は歩み寄ってくる。
「近づくな」
私は身構えた。
「怖い顔はしないほうがいい。私は決して君の敵ではないからね」
「嘘。なら証拠を」
「敵じゃない証拠なんて無い。いや必要ない」
すると男は黒いマントの中から、白い手袋を付けた手を出してきた。
「兄との仲を戻したいと思わないのかい?」
「……戻したい。でも貴方には関係ない」
「もし戻したいのなら、これを手にするといい。力になる」
男は白い手の上に、サソリなのか蜘蛛なのか分からない生物を作り出した。
「……嫌だ」
「おおそれは残念だ。だが忠告しておくよ。これを手に取らない限り、君は兄と今後上手くいかないだろう」
「……嘘」
「そうか、ならそれも君の選択だ。だが忠告はした。このままいけば確実に君は兄と寄りを戻すどころか、対立し合うだろう」
「ッ⁉︎」
私は鳥肌を覚えた。
兄さんとそんなことになるのは、嫌だ。
気がつくと、私は男の腕の虫に手を伸ばしていた。そして掴んだ。すると、
「やはり人間は精神力が脆い」
その言葉を聞いた次の瞬間、
「ッ⁉︎」
掴んだ虫は私の腕をつたっていき、私の頬に引っ付いた。そして、
「ウッ、アッ」
激痛を走らせてきた。
痛い。嫌だ、嫌だ!
「君の選んだ選択だ。もう後戻りはできない。ん?」
その時、仮面の男は顔を扉の方に向けた。
「ただいま。ルールリア」
兄さんの声だ。
「兄さッ⁉︎」
兄さんに助けを求めようとしたが、口が開かない。声が出ない。
「スィアル」
仮面の男はそう唱えた。口封じの魔術だ。
その後、兄さんは喋り続け、
「……許してくれないか?」
喋り終わる。
その時、私はあることに気がついた。張り付いていた虫がいないのだ。
「ああ、それはいなくなったんじゃなくて、顔に染み付いたから。紫色のタトゥーみたいに」
小声で仮面の男はそう言う。
染み付いた? 私の顔に? 嫌だ、嫌だ!
そして、
「明日の午後6時」
仮面の男は私と同じ声を出し、扉の向こう側にいる兄さんに伝えた。
「屋内実技場に明日午後6時に天上 優も連れて来て」
「ああ、分かったよ。明日の午後6時な。連れてくる」
そう兄さんは言い、立ち去る音が聞こえてきた。
待って! 行かないで! 助けて!
しかし私の声は聞こえる筈もなく、兄さんは扉の前から消えた。
「フフフ、さぁ、そろそろ意識が消えてくる頃かな」
仮面の男はそう言いながら私を覗き込んでくる。
確かに、意識が、どんどん……
「安心するといい。君の代わりに、僕のその子供が、君をするさ」
そして、私の意識はここで途切れた。
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