31話
視点 天上 優
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アドラン・アルス・テルラー
朝の8時、その時、学校中がざわめいた。
校舎の窓は全開、全員が校舎前の道を見ている。
理由はただ1つ、校長と生徒会の人達が帰ってきたからだ。
彼らは、銀髪の女性と青髪男子を先頭に、ゾロゾロと歩いてきた。恐らくあの青髪の人がルールリアさんのお兄さん、つまり生徒会長だろう。そしてその隣にいる銀髪の美人が、この学校の校長なのだろう。
「生徒会の人達が帰ってきた」
「校長もだぞ」
「どうなったのかな?」
そのようなことをたくさんの人が窓から呟いている。
さぁて問題です。僕は今どこで何をしているでしょうか……はい時間切れー。正解は、
「待って待って待って待って」
この状況の中、生徒会の進行方向を横切ろうと低空飛行している、イエロードラゴンを捕まえようとしています……やばぁぁぁい!
そして、低空飛行を楽しんでいたイエロードラゴンは、見事に集団の前を横切ろうとする。
させるかぁぁぁ!
僕は集団が進もうとしていた道を横切る前にイエロードラゴンをキャッチ。そしてすぐさまその場から引き下がろうとすると、
「おい」
生徒会の中のまるで不良のような人に呼び止められる。
「はいっ!」
僕は今まで生きてきた人生史上最高のシャキッとした返事をする。
「邪魔すんなよ」
苛立ちながらそう言ってくる。僕はクルリと振り向き、
「すみませんでしたっ!」
深く、深ーく頭を下げた。
「もう皆様の邪魔にならないように尽力致しますっ!」
「そこまで言えとは言ってねぇよ! 気をつけろと言っただけだ」
僕の言葉と行動は、不思議な程綺麗にツッコミされた。
そして生徒会の人達は何も無かったかのように再び前進を始めた。
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会議室で俺達校長を含めた9人は円状のテーブルの椅子に腰をかける。
「それでは早速、会議を始める」
俺はそう皆に告げる。
「今年行われるレグニカ、デゼル、セルムーン、フォランの4ヶ国の騎士育成学校の生徒達を集め競う『騎勇大会』に出場するか否か、みんなの意見を聞きたい」
そう、俺達が国外に行っていた理由。それがこの『騎勇大会』についてだ。
「今年の開催地は、確かフォランだったな」
眼鏡をかけなをしたエッジがそう聞いてくる。
「ああ、そうだ」
「ならやめた方がいい。あの国では今行方不明事件が多発している。もし行ったらこの学校の生徒達も」
「おいちょっと待てよ。自分の身も自分で守れねぇ奴が選ばれるわけでもねぇだろ」
エッジの意見にヘルガが反論する。
「だがしかし、もし起こった場合どうする?」
「起こると限ったことじゃあねぇだろ」
2人の意見が対立しだす。
「もしもの話をしているんだぞ」
「だからそのもしもを対処できずに何が騎士だって言いてぇんだよ」
「ふ、2人ともやめなさい!」
2人の間に桃色の髪をしたウェンディが割り込む。
「喧嘩することもないでしょう」
「……悪かったよ」
「チッ」
そして言い合いも静まった。
その後も丁寧に自分達の意見を出し合い、多数決をしたが綺麗に分かれた。だがこの中で、少しも話し合いに参加していない人が1人、
「あのぉー校長」
寝ている。
「校長起きてください!」
「……ひゃい?」
みんなの意見がもしかしたらこの時合致したかもしれない。
真面目にやれ!
「校長、服にクッキーの粉が」
「あ? ああ、ありがとう」
校長は白い服に付いていた粉を払う。
「それで、どこまで?」
「あとは校長の意見だけです」
「あらそう。なら私の意見は出場に賛成です」
「はぁ、分かりました。ということで、今回の大会は出場ということにします。エッジ、後で国に連絡を」
「ああ分かった」
「話し合いはこれで終了です。お疲れ様でした」
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「はあ、書類多いなぁ」
時刻は8時、自分の家にはまだ帰れず、俺は1人生徒会室でここ何日か溜まっていた書類に目を通していた。すると、
「部屋の清掃に来ました」
部屋の扉を誰かがノックした。恐らく清掃員だろう。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けて入ってきたのは、灰色の髪をした少年だった。朝の少年だ。この学校の生徒かと思ったのだが、その服装は清掃員の汚れた服であった。
少年は持っていた箒と雑巾で床や棚などを隅々まで掃除した。
「ありがとう」
「いえいえ」
「そういえば、君は生徒じゃないのかい?」
「いやー僕には皆さんのような力が無いので入学できませんですし、バイトですよバイト」
そう笑いながら答える少年は、あっという間に部屋の掃除を終わらせた。
「終わりました」
「早いね」
「ありがとうございます」
そう言い残し、部屋を退出しようとする彼だが、俺はその時、あることに気がついた。
「あ、君ちょっと待って」
「はい?」
思い出した。アリアちゃんが言ってた清掃員ってこの少年のことか。
「君、ユウって名前?」
「はい、そうですけど」
ビンゴ!
「アリアちゃんに聞いたよ。妹をサポートしてくれてたんだって」
「はい、ルールリアさんには僕も助けられてます」
「本当にありがとう。いやー最近俺は妹と口も聞いてないから、どう接していいのか分からないんだ」
「え?」
「ああ、なんか避けられててさ」
「そ、そうなんですか」
「まあ本当にありがとう。これからもなかよくしてくれ」
「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」
ユウは俺に軽く頭を下げると、部屋から出て扉を閉めた。
俺は片手を自分の目に覆い被せる。
「本当に、どうルールリアと接すればいいんだ……」
俺は部屋の中で1人そう呟いた。