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3話

視点 青葉 陽毬

 その日の昼、私はアリア、茅野と一緒に食堂で昼食をとっていた。

 この学校には私達が元いた世界の大学のようなとても広い食堂がある。貴族の行く学校だからなのかもしれないのだが、すごいことにここの食べ物は全てタダなのだ。

 これは元いた世界では殆どありえないことであるため、私達全員は驚き、歓喜した。そして何より美味しい。

 いつもなら何度もおかわりをする、だが今回は違った。


「どうしたのですか? ヒマリ?」

「……いや、なんでもない、大丈夫」


 私を心配しているアリアにそう答える。

 今日は食欲が無い。今朝の天上君との出来事で、私の1日が少し崩れてしまった。

 天上君だけがあんな扱いを受けるのは間違っている、私は少なくともそう思っている。そんなことを考えていた結果、私は午前中からいろいろなことでミスを連発。

 そのようにズルズルと昼まで引きずり続けていたのだ。


「陽毬ちゃん、確か天上君と話したんだよね」


 雫がそう聞いてくる。


「あ、うん、そうだけど、何かあった?」

「うんうん、なんでもないよ」


 手を振りながら茅野が解答拒否をする。何かあったのかな?


「それにしても、そのユウという男、自分が救世主の1人だということを何故喜ばないのですかね?」


 アリアはそう言う。しかし実際この世界に来て喜んだのはごく一部だ。


「自分は劣っているって天上君は言ってたけど、何で自分でそんなことを言ったのかわからない、なにか理由があるのかな?」

「そうですね……あ、ヒマリ、シズク、次の授業は実技ですよ、急ぎましょう」

「そうだね。行くよ茅野」

「あ、待って」


 席を立った私達に急いでついてくる茅野。器を洗う人に渡し、食堂を出ようとする。すると、


「流石ですね橘さん!」


 出入り口付近のテーブルからそのような大声が聞こえてきた。


「ダンジョンのボスを一人で討伐なんて」


 そのテーブルの周りは5、6人の男子に囲まれており、その中心には赤髪の男が1人。

 彼の名は(たちばな) 海斗(かいと)、学年順位は2位で、よく学校をサボっていることで有名だ。だが今日は来ているようだった。


「それで、ドロップアイテムは何だったんですか?」

「……この変な石だ。ただの石のように見えるが、衝撃を与えると光る」

「おおそれはそれは、売ったら高いんじゃ」

「興味無いな、やるよ」

「え? いいんですか?」

「俺が持っていても仕方がないからな」


 そんな会話が聞こえる。するとアリアは、


「またダンジョンに無断で行ったのですか。本当に救世主だからといって調子の乗りすぎですね」


 と呆れながら言う。

 国の外のダンジョンに行くには、18歳以上でなくてはいけなくて、18歳未満の人は学校の許可を貰わなくてはいけない。だが、橘君は無断でダンジョンに行っている。なので実践経験があるため、学年順位2位にまで上り詰められたのだろう。


「それに対してヒマリは努力の塊ですよね」

「そ、そんなこと言わないでよ」

「いえいえ、ならその()()()()()はどう努力すれば付くのかを教わりたいですね」


 アリアは私の胸をじっくりと見る。


「な、なにっ?」


 私はあとずさる。


 まずい、このまま襲われるんじゃ、


「ごめんごめんヒマリちゃん、遅くなって」


 するとそれと同時に茅野が来た。


「シ、シズ、ク」


 アリアの目線は私と似たようなところにいく。何故なら茅野の胸は私より一回りボリューミーなのだ。


「ん? どうしたのアリアちゃん?」


 アリアの首がガクッと下を向く。


「何故、何故私には……それ程までのレベルが」

「ア、アリア、多分遺伝」

「クハッ」


 あ、死んだ。


「と、とりあえず実技場へ行きましょう」


 アリアは絶望から無理矢理這い上がり、そう言う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「「はぁぁぁ!」」


 剣と剣が交差する。木でできた殺傷能力があまり無い剣でも、その衝撃は本物。相手を殺るか、こっちが殺られるかの真剣勝負だ。


「フフ、ヒマリは今日あんなに悩んでいたのに、これになると必死になるのですね」

「うん、やっぱり負けたくないから、ね!」


 アリアの武装は双剣、私は片手剣だ。剣の速さ、動きの速さだとアリアの方が優れているが、斬撃の重みは私の方が上、しかし彼女は体を大きく使う戦い方なので、相手を大きく翻弄できる。そうなると、軽い斬撃を複数回当てることができるので、剣の重みはこれでカバーしている。だが私は、


「流石、()()()()()ですね」


 アリアの言うように、私は『加護』を持っている。

 『加護』とは、この世界で数十人に1人の確率で付く、ゲームで言うところのパッシブスキルだ。私達異世界転移者達全員には『言語の加護』が当たり前に付いており、人によって他にも加護が付く者もいる。

 例えば私に付いた加護は『剣術 中級』『反射 上級』それと『言語 超級』。なので、


「私の乱撃を避けきるのは貴方くらいですよ」

「それはやっぱり嬉しいね」


 私達はそれぞれを讃え合う。


「やっぱり2人は凄いね」


 手合わせを終えた私達に茅野が入り込む。


「そんなでもないよ」

「いやでも凄いよ。私なんかには多分あんな動き無理だからさ」

「シズク、そんなことはありません。才能もありますが、自分を鍛え上げれば、貴方にもできます」

「うん、分かってはいるんだけど」


 まだ茅野は自信が持てないようだ。


「大丈夫、私達も手伝うからさ」

「……うん、ありがとう。私頑張るから」


 少しは自信が持てたような顔をする。


「はい、それではとりあえず休憩をしましょう、周りも休憩に入り始めたようですし」


 確かに周りも人が後ろに下がっていっている。というよりかは、今先生が校舎に戻っているのをいいことにサボろうとしている。私達も水分などを取ろうとした、その時、


「グォォォォォォォ!」


 おぞましい雄叫びが響く。それと同時に地が揺れる。


「な、何⁉︎」

「な、なんだあれ⁉︎」


 男子生徒が指を刺す。その先にいたのは、


「『ワイバーン』⁉︎」


 1人の男子生徒を襲う、赤い竜がいた。

 『ワイバーン』、小型の竜のモンスターだ。小型と言ったが()()()()()()()()()()()()()だ。なので全長5メートル、小型で5メートルだ。


「や、やめろぉぉ」


 男子生徒は完全に腰が抜けており、動けずに手をかざしているだけだった。


「何故ここにワイバーンが」

「アリア、みんなを避難させて」

「はい?」

「急いで!」


 私は駆け出す。理由は1つ、助けるためだ。見捨てられるわけがない。


「ヒマリ! あぁぁぁ皆さん、こっちから避難しましょう!」

「み、み、みんなこっち!」


 アリアと茅野は私の言った通り周りの人を避難させる。

 私は走りながら右手に意識を集中させる。これは、私達が異世界から来た時に付いていた、もう1つの能力、それは、


「『ソウル・リリース』!」


 すると私の右手に赤と青のオーラが現れ、交わり、赤と青で装飾されたロングソードが出現する。これは、この世界の人だと数百人に1人の確率で付く能力、『ソウル・リリース』。自分の魂を武器として実体化することができる能力だ。


「や、やめてくれぇぇぇぇ!」


 私は振り下ろされた爪をその剣で受ける。


「クッ、は、早く逃げて!」

「え? あ? はい!」


 男子生徒は私の言葉に答えると逃げ去っていった。


「アリア! そのまま先生を呼んできて!」


 私は大声でアリアにそう叫ぶ。


「で、ですが」

「急いで!」

「あぁぁぁ分かりましたよ!」


 アリアは少し悩むと、この場から去っていった。

 今この場所には誰もいない。なら、


「少し付き合ってもらうよ!」

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