28話
視点 天上 優
僕は階段を駆け上がった。
「いやぁ、少し時間がかかったよ……ん?」
上がった先、空き箱の前にいたのは、紫の髪をしたさっきの少女だった。
少女は右手の甲でイエロードラゴンの首筋を優しく撫でていたのだ。
「あぁ、ちょっといいかなぁ?」
今引き裂くのはあまり良くないと思うが、とりあえず今はあの竜に持ってきた毛布で包んであげるということを1番しなくてはいけない。
少女は僕の存在に気がつくと隣に僕のスペースを無言で作った。
「あ、ありがとう」
僕はその空けられたスペースに入り込み、持ってきた毛布でその箱の中の竜を包み込んだ。
「さあてこれでどうだ?」
イエロードラゴンは毛布に包まれると、まるで安心しきったかのように眠りにつき始めた。
数分後、
「スピー、スピー」
完全に眠った。
「寝たね……なんだかんだで、この子の様子見てくれたんだ」
僕は彼女にそう言う。しかし、相変わらず少女は口を開かず、僕から目を逸らす。
「まあ感謝してるのは本当だよ」
そう僕は言う。
自分の腕時計を見る。時計の針はすでに昼休み終了5分前で止まっている。
「あ、もうそろそろ時間だよ。行った方がいいんじゃない?」
僕は少女にそう伝える。すると、
「来ていい?」
少女が口を開いた。
「え?」
口を開いた衝撃により声が漏れてしまう。
「イエロードラゴンの世話をしに」
「あ、ああそういうことね。いいよ、僕もここでやるから」
て、喋れるんだ。すごい失礼なことかもしれないけど、人と喋れるんだ。だったらもっと声かけてくれても良かったのに。
「名前」
「はい?」
「名前教えて」
片言! でもその喋り方直せなんて言える訳ないよ。だってそれもその人の個性だからね。言わない言わない。
「……天上 優だよ」
「アマガミ……」
「あ、ユウでいいよ」
この世界は、苗字と名前の組み合わせ方が元の世界でいうところの外国に似ているので、日本の名前には馴染みがあまりないのだろう。
「ユウ……分かった」
「じゃあ君の名前は?」
「私……ルールリア」
「ルールリアさんか……学年は?」
「1年」
1年生か。1年生だと転移者がいないから僕のこと知ってる人はかなり少ないかな。
「それじゃあ、これからよろしくね。ルールリアさん」
「うん……」
……あ、それだけ? ま、まあいっか。
「外だとすごい寒いでしょ。だからこの場所にしたんだよ。しかも誰もいないし。だから昼休みの時にここに来て」
「分かった……」
他にも何か喋ろ? 気まずくなるから。
そして、僕達2人でその日からこの竜の世話を開始
何故イエロードラゴンの飼育をし始めたのか。
それは今から約18時間前のことである。
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僕とブレア先輩はその時、職員室前の廊下の清掃をしていた。
「なんでこんなにも汚すやですかね?」
デッキブラシに力を込めながらブレア先輩に言う。
「私達が後でやるから自分達はどれだけ汚しても問題ないとでも思ってんだよ」
僕以上の力で擦るブレア先輩はそう答える。
現在午後6時、この学校の生徒の殆どが帰ってから早2時間が経過していた。
2時間たっても、僕達2人は手を休めることはできず、床にブラシを擦りつけなくてはいけない。
あぁーブラックだぁー。
僕達が愚痴を吐露していると、職員室の扉が開く。その瞬間僕とブレア先輩は口を閉じる。
「お疲れ様です」
職員室から出てきたのは、書類を片手に持ったファルナ先生だった。
「「お疲れ様です」」
僕とブレア先輩は同時にそう答える。
ファルナ先生は歩き出し、僕の横を通り過ぎる。
「あ、そうでした」
するとくるりと後ろに振り向き必死に掃除をしている僕達を見た。
「……なんです?」
「実はあなた方2人に頼みごとをしたいのですが、1人でもいいので聞いてもらえますか?」
そんなことを先生は言い出す。
「ユウ、私はちょっと転移して違うところ掃除してくるからここは任せた!」
僕に向かってブレア先輩は早口でそう頼む……って、
「ちょっと!」
「『転移』」
その瞬間、目の前にいるブレア先輩は青い光を出してその場から消え去った。転移石だ。
「嘘ー」
「それでですね」
「無視ですか⁉︎」
ファルナ先生は目を少しパチクリさせる。
「1人でもいいと言ったので、しかも貴方なら問題無いでしょう」
あ、駄目だ。面倒ごとが来る。
「それで、今モンスター専門の先生が国外に主張に行ってあるんですよ。なので数日間だけペットモンスター1匹の飼育をお願いできますか?」
「……飼育……ですか?」
「はい、基本的に24時間つきっきりで」
「あ、他をあたってください」
無理、絶対無理。今この状況でも過労死するレベルなんだから飼育24時間なんてしたら脳と体が溶ける。
「そこをなんとか」
「嫌です死にます」
「時給アップ」
「やります」
即答である。
その話を出されたら断る道理なんて無い。全力でやる。
「貴方は話の分かる人ですね」
ファルナ先生は悪魔の笑みを浮かべながらそう言う。前に天使だとか言った気がするが、撤回しよう。
「それで、何モンスターの飼育ですか?」
「イエロードラゴンです」
「……ん?」
DORAGON……あ、
「無理です」
「ですが、貴方はさっきやると言いましたよね」
「いやいやいやー、ドラゴンなんてできませんよー。命無くなりますよー」
僕は笑いながらそう言う。
するとファルナ先生は僕の肩を掴み思いっきり力を入れる。
「やると、言いましたよね?」
あ、駄目だ、逆らったら死ぬな。
「……はぃ」
怯えた声で返事をしてしまう。
「それではお願いしますね。大丈夫ですよ。まだ子供なので、噛まれで指が消えるくらいなので」
「大丈夫じゃないですね」
そしてその時、半強制的にイエロードラゴンの飼育を僕がすることになってしまいましった。