24話
視点 天上 優
今後ろでは青葉さんとアリアさんの2人が解術の魔術を使っている。
そして、正面にはそれを阻止しようとしている男が1人。手には剣、魔術も多分使えるだろう。恐らく総合的な実力だと僕より遥か上だろうな。
だけど、やるしかないよね。
「貴様は始末した筈なんだが」
「始末? ってことはつまり、あの時僕にホムンクルスを送ったのは貴方か」
「そうだが、始末しきれなかったようだな。あの時確実にしていれば」
男は剣を僕に向ける。
「このような面倒事にはならなかった」
僕も拳を握りしめ、構える。
「お互い様。あの時貴方達に追いつきさえすれば、こんなことにはならなかった。だから、これは僕なりの罪滅ぼしでもあるんだ」
「そうか。ならば始めるぞ」
男がいい終わった次の瞬間、男はすでに目の前にいた。
「何っ⁉︎」
そして、
「フンッ!」
右肩から下が消えた。
「グゥ……」
痛みに耐えるため歯を食いしばる。
なんて速さだ。全く反応できなかった。これがレベルの違いか。けど、
「デァァ!」
僕は瞬時に右腕を再生し、目の前にいる男に殴りかかった。
「なんだとっ⁉︎」
殴ろうとするのだが、僕が拳の振るう速度があまりにも遅いため、すぐに対応された。どのような対応かというと、僕が拳が通る軌道上に剣を入れたのだ。
「ンッ⁉︎」
僕の中指と薬指の間に剣が入り込み、そこから肘まで腕を裂いたのだ。勿論とても痛い。
しかし僕はその裂かれた部分を細胞の再生で繋ぎ合わせ、新たに拳を作った。そしてそのまま、
「ハァ!」
男の顔面を殴った。そして能力により細胞を暴走させさらなる痛みを与える。
肘まで到達していた剣の部分は再生ができないため、拳を突き出した時にそのまま腕をそって僕の肩まで到達した。すんごく痛い。
「グハァ⁉︎」
真正面を殴られたため男の鼻から血が流れ出す。
僕は肩に刺さった剣を抜き、それを捨てる。ついでに肩の傷も再生させた。
「天上君、70パーセントは終わったよ。あと少し」
青葉さんは魔術を使いながらそう言う。
「分かったよ」
「クッ……なるほど、貴様も能力者か。アヴァルとは違って再生か」
「もう勝ち目なんてない、降参して」
「する訳にはいかない。勝ち目ならあるからだ」
「何?」
そう言いながら男は立ち上がり、構えだす。今度の構えは剣ではなく、拳だ。
「これならどうだ?」
そして、男は僕の腹部に素早い拳を叩きつけた。
「クハッ」
これは、まさか臓器を狙っているのか。臓器が損傷、破裂する痛みは想像を絶する痛さだ。再生できても痛みが残る僕だと、臓器が破裂した痛みに耐えながら戦わなくてはいけない。気絶させるつもりか。
「どうした能力者」
僕はその衝撃で後ろに大きく後ずさるが、その後さらなる追撃が迫る。
「クッ」
その攻撃を右腕で受ける。
重い。それにこの人速いし強すぎる。しのぎ入れるか?
「受けたか。だが」
その後、男の左足が僕の腹を蹴る。
「ウッ」
胸ぐらを掴み、顔面を殴る。
「ガッ」
肩を左手で押さえ、腹部に右腕を何度も打ち込む。
「アァ」
膝を腹部に突き上げる。
「カハッ」
そして最後に胸ぐらを掴み、後ろに放り投げ、壁に激突する。
「ウ……ァ……」
能力はすでに使った。ボロボロになった臓器や骨の回復も済ませた。しかし痛みは全く回復をしていない。
よく少年漫画とかで、骨が2、3本折れただけとか言っているキャラクターがいるけど、今なら断言できる。そんなの無理だ。痛みには勝てないよ。
意識が朦朧とする中、目の前に見えているのは、魔術を使っている2人を止めようとするあの男。
無理だ。ここで眠った方が、何も考えずに楽かな……いや、そんな訳ない。
歯食いしばれよ。
立てよ。
動けよ。
寝ている暇があったら、人1人助けてみろよ。
目の前の状況どうにかしてみろよ。
"ああ、やってやる"
その時、体が動いた。
「何っ⁉︎ 貴様まだ」
男を背後で腕を使って拘束する。
「チッ、邪魔だ!」
とうとう苛ついた男は肘を僕の腹部に打ちつけ始める。痛みのせいで体に力が入っている感覚は無いが、何故か腕は離れなかった。
僕は右手の平で男の顔を掴む。そして、
「グァッ」
能力を使う。
もう殴る力は無くても、僕には周りの人達とは違う特典がある。この能力は、魔力の抑制に引っかかって時間がかかるが、長時間やれば、
「グ、グ、グァァァァァァ!」
本格的な外道の技になる。顔の細胞も破壊できる。
「グァァァ、は、離せ!」
男はさらに強く肘を打ちつける。だがそれでも離さない。離す訳にはいかない。
「グァァ、ア、ア、ァ……」
2分後、男はあまりの痛みに気絶した。立っていた体を崩し、床に落ちる。それは、僕も一緒だった。
そしてその時、茅野さんを囲っていた魔術陣が力を失った。