21話
視点 天上 優
「……アリア……さん」
血が顔にかかったが、そんなことを言っている場合ではない。
「ウッ……クッ」
左腕を抑えうずくまる。
今、何をされたんだ⁉︎ 全く見えなかった、魔術を使った感じもしなかった。無詠唱か? いやだとしたら少なくとも何か動作をする筈だ。
「いゃーいいねぇー! 血はさぁ!」
駄目だ。今の状態だと、2人とも殺られる。近くに逃げ込める場所は……あった、数メート先に扉がある。あそこに逃げ込めば。
「アリアさん、立てる? あの部屋に入るよ」
「……わ、分かりました」
頭に必死に耐えるアリアさんは、苦し紛れにそう答える。
「行くよ」
僕はそう合図すると、2人で走り出す。今アヴァルに動く気配はない。奴との距離は30メートル程、何か使われるかもしれない、間に合ってくれ。
そして、どうにか間に合った。僕は扉にタックルをして付いている鍵を無理矢理外した。
「お? どうしたかくれんぼかぁ?」
余裕を見せるアヴァルは、この部屋に歩いてくる。
入った部屋には何も無く、他の部屋への扉も無い。
「アリアさん! 大丈夫⁉︎」
僕はアリアさんを扉の手前に座らせて、腕の状態を見る。
肩から先の腕は跡形もなく消え去っていて、傷の断面はぐちゃぐちゃではなかった。
「はぁ、はぁ、貴方は逃げて」
「何言ってるの? 再生させるに決まってるよ」
僕は能力を使い、無くなった腕を再生させようとするが、アリアさんと僕の魔力の差が大きすぎて、時間がかかりそうだった。
「無理ですよ。貴方は逃げて、シズクを」
「嫌だ」
それでも僕は能力を使い続ける。そして、
「おーいもう扉に着くぞぉ」
完全に舐めきっているアヴァルが迫ってくる。
駄目だ、間に合わない。このままだと……なら。
「あ、ど、どこに行くんですか⁉︎」
「止血はできたよ。だから耐えてて。僕が相手をする」
「ま、待ってください!」
僕は部屋から一気に出て、扉に迫っていたアヴァルを確認すると、拳を作り、殴りかかった。
「デァァ!」
「ッ⁉︎」
しかしその攻撃はギリギリ避けられ、距離を取られる。
駄目だ! 距離を取るとアレを使われてしまう。まだアレがなんなのか分からない以上、下手に距離を取らない方がいい。
僕は一気に距離を詰め、再び拳を振るう。
「遅ぇパンチだなぁ!」
それもまた避けられ、懐に入られる。そして、
「グゥッ⁉︎」
カウンターの拳をくらう。
少し後ずさるが、どうにか足で踏ん張り、目の前の相手を見る。
「ようやくやる気戻ったかぁ? まあお前も死ぬけどな」
「クッ」
この相手、肉弾でも強いのか……いや僕が弱すぎるのか。格闘の加護はあるのだが初級なので元々の僕のセンスなどを合わせたら、少しケンカが強いくらいだ。本格的な格闘術を身につけている相手とは圧倒的な差がある。
僕は再び相手に殴りかかろうとするが、2発3発と避けられる。そしてカウンター。
「グゥ」
痛い。
「さぁーて終わらせるかぁー」
アヴァルはそんなことを言う。
使う気が? させない!
「あぁぁぁ!」
「もう無駄だ」
その時、恐らくアレを使ったのだろう。体全体が一瞬で痺れた。しかし、動けない程の痺れではなく、軽い痺れだ。
殴れる!
「何っ⁉︎」
「クッ、デァァァァァ!」
僕の拳は、アヴァルの顔面真正面に見事にヒットした。さらに能力を同時に使う。
「グァァ!」
そして、後ろに吹き飛ぶ。
ようやくダメージと言えるダメージを与えられた。さっきの痺れは気になるが、いける。倒せる! 茅野さんを助けられる!