20話
視点 天上 優
僕達は今、奴らアジトと思われる学校のような作りの建物に来ている。その壁や床は全て石でできているようなため、崩れることはなさそうだ。
「うーん。どう入ろうか……」
僕は唸りながら悩む。
窓……いや駄目だ、思いっきり音を立てるなぁ。それじゃあ裏口……ああ無いんだっけここ、それじゃあ、
「正面ですね」
「え?」
悩んでいる僕よりもすんなりと答えを出したのはアリアさんだった。
「で、でも普通に考えて真正面からは」
「どうせもうバレていますよ。結界が貼ってあるので」
「え? どこに?」
「かなり隠密な結界ですが、私はどうにか分かりました。この真後ろです」
「うん、私も分かった」
「僕だけ……」
自分の圧倒的な力量の無さに僕は落ち込む。
「そんなことより行きますよ」
「そんなこと?」
僕のこの悩みは"そんなこと"程度だったのか?
とりあえず気を取り直して建物の中に入ると、想像していたこととは違い、何も起こらなかった。
「とりあえず、上に上がっていきますよ。敵の出方次第でシズクのいる階を特定します。もう武器を装備していてください」
僕達はそのアリアさんの指示に従い、2人はソウルリリースを使い、僕は手袋を外し、この建物の2階に上がっていく。
この建物は5階まであり、かなりの広さだ。どこに敵が隠れているのかが分からないので、慎重に来た……つもりなのだが、
現在5階
「なんで、敵に一度も遭遇しないで来れたの?」
「おかしいですね。敵が1人としていないなんて」
なんとこの階に来るまでに敵に一度も遭遇しなかったのである。
「こんなことってあるの?」
「もしかしてもう罠にハマってたり」
「変なこと言わないでよ天上君」
でもそうとしか考えられない。
すると、
「ゲェヘヘヘヘ、大正解だそこの清掃員!」
「「「ッ⁉︎」」」
奥から男の声が聞こえた。
「だ、誰ですか?」
コツコツと奥の方から人が歩いてくる。
「そうだなぁ……いいか、お前達死ぬからな。俺の名前はアヴァル、お前達の言うシズクって奴を捕まえた張本人だ」
アヴァルと名乗るその男は、黒いボサボサの髪に、まるでヤンキーを彷彿とさせるような黒い服を見に纏っている。
「貴方がシズクを」
「まあまあ落ち着けよ。お前ら全員死ぬからいいよ喋ってやるよぉ。今洗脳と記憶操作の魔法を掛けている真っ最中だ。あと40分くらいで完了するはずだ。ちなみにここまで粘った理由はその場所を分からないようにさせるためだ、ゲェヘヘ」
不気味な笑い方をするアヴァル。それに対して僕達は完全に焦りだしていた。
「2人とも、シズクを探してください。あの相手はただ者じゃありません。私が相手をしますので」
アリアさんがそう言う。
「でもそれだとアリアが」
「そんなことを言っている場合ではありません。滲み出ている魔力が桁違いです」
「だからといって」
アリアさんを残して行くのは確かにいいのかもしれない。ここで3人やられるわけにはいかないからだ。だがそれはつまりアリアさんを……なら、
「青葉さん行って。僕も残る」
「な、何を言っているのですか? 貴方が残ったところで」
「サポートをするだけだから、邪魔はしないよ。それに、アリアさんを死なせたくない」
この選択は、間違っていたのかもしれない。2人になったところで勝てないかもしれないからだ。だったら1人を犠牲にした方がいい。だが、僕自身はそれが嫌だ。
「ですが」
「青葉さん、早く行って」
「あぁぁぁ話を聞いてください! もう分かりました言ってくださいヒマリ!」
半端ヤケクソ状態になってしまったアリアさんだが、僕の意見を無理矢理了承した。
「……分かった!」
青葉さんは少し間を空けた後に返事をし、上がってきた階段に向かった。
「行かせるわけないだろ話筒抜けだぁ!」
「"ローテーション"!」
階段を下ろうとする青葉さんを狙って何かをしようとしたアヴァルにアリアさんは魔力で回転させた剣を飛ばした。
「クソが」
アヴァルはしようとしていたことを中断し、その飛来する剣を避ける。
「チッ、あと10体程度のホムンクルスを使わなきゃならねぇのか"ムーブ"」
舌打ちをしたアヴァルは手をかざしてホムンクルスを動かす魔法を唱えた。
「さぁてこっちもやるか」
僕とアリアさんは互いに構える。
「行きますよ」
「うん!」
アヴァルに向かって駆けて行く。
その瞬間、
「ウッ⁉︎」
僕の横で赤い何かがが舞う。
これは、血か?
そして僕はそれが何を意味するのかをすぐに理解した。アリアさんの腕が弾けたのだ。
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