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2話

視点 天上 優

「はぁ、はぁ」


 太陽を背に、タイルで敷き詰められた小道を全速力で駆け抜ける。

 まるで体が風と一体化したような感覚になったが、もし体は風だったらここまで急ぐことはないだろう。

 腕に付いている時計を走りながら見る。

 時刻は7時40分、バイトの時間まであと5分だ。僕が今ものすごく急いでいる理由はそれだ。


「遅刻だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そんな僕の気持ちなどに構う気を見せない腕時計の針は、確実に時を進めている。

 何故ここまで遅くなったのか?

 僕は少しでもお金を稼ぐためにバイトを転々としているので、そのため国外の町や村などにも行く。それで今ここから少し遠い町から徹夜でついさっきで帰ってきたのである。


 正直に言おう、眠い!


 しかし、バイトに遅れる訳にはいかない。なので眠たい頭と体に鞭を打って次のバイト現場に無理矢理動いている。

 幸いなのは、今の時間帯は人がいない。もし道に人が何人も歩いていたら、もっと時間が危なかっただろう。

 そしてとうとうバイトのすぐ近くの十字路に差し掛かる。

 この人気の無さだ、人が突然飛び出してきて衝突なんて少女漫画じみたことはある筈がない……そう信じたかった。


「うわっ⁉︎」


 十字路に飛び出した僕は、横から歩いてきた2人組の女性と衝突しかけた。

 しかし今の僕は眠いので冷静な判断ができない。なので、


「ごめんなさぁぁぁぁぁい!」


 その場を突っ切り、再び走り出した。そして大声で謝罪の声を発した。いつもの僕ならこのような状況になったらしっかりと謝るのだが、寝ぼけているせいかそのような行動をするよりもバイトを優先した。

 後ろで何か叫ばれているような気がするが、今はそんなこと関係ないと鈍い頭は考えてしまい、その声には答えなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「セーーーフ!」


 間に合った! ギリギリだが、あと十数秒で遅刻だったけど良かった良かった。ここの配達屋の店主は遅れたらバイト代半分て言ってたけど、これで、


「遅刻」

「へ?」


 この店の男の店主にそう告げられる。

 

「で、でも今45分に」


 僕は腕時計の針を見せる。腕時計の針は明らかに7時45分を示したおり、ちょうど今動いたところだった。それを見た店主は大きなため息を吐き、


「この時計5分遅れてるぞ」


 そう告げられた瞬間、この店にかけられている時計をパッと見ると、針は既に50分の場所で止まっていた。

 5分遅刻……


「お、終わった……」


 僕は地に膝をつけ絶望する。

 給料の半分、つまり銀貨1枚、少ない。


「おい、そんなことより、あの子に対応してやれ。お前に用があるようだぞ」

「はい?」


 店主は指を僕の後ろに刺す。その方向に振り返ると、そこにいたのは金髪ロングヘアーで赤い瞳の女性。青メインのこの服、騎士育成学校の生徒か?


 しかも、この人、


「あ……青葉さん?」


 間違いない、僕と同じ世界から来た元クラスメート、青葉 陽毬(あおばひまり)だ。


「店長、でも仕事は?」


 すると店長は、


「あんな可愛い子を待たせる訳にはいかねぇ。仕事はそれが終わってからでいいぞ。どうせ給料半分は決定事項だからな」

  

 心に矢が100本刺さったが、店長がいいと言ったんだ。お言葉に甘えよう。

 僕と青葉さんはその後、店の裏に周りった。


「ここなら話しやすいと思うんだけど、いいかな?」

「うん、場所には特にこだわりはないから。それで」


 青葉さんは未だに顔をしかめる。


「それで?」

「なんでそんなことするの?」

「……」


 僕はその問いに対して無言を貫く。


「どうして、そんなに自分のことを蔑むようにしているの?」

「……劣ってるからね」


 僕は顔をそらす。


「悲しくないの? 自分だけが国から見放されて、どうして何も言わないの?」

「言わない訳じゃないよ。本当のことを受け入れてるから」


 目は彼女には向けない。


「だとしても、なんで私達を避けるの?」

「……それはバイトだよ。僕だけは支援がないから、遠出をしてでも生きるために稼ぐしかないんだ。避けるようなことはしてないよ」


 僕は彼女の目を見る。青葉さんが本当に僕を心配しているのがとても分かる。


「じゃあ何で顔すら見せないの?」


 青葉さんの目が潤う。


「……劣ってるから。昔からそうだった。僕は周りからいつも一歩劣っていて、みんなよりもダメで、それはこの世界に来てもそうだったんだ。やっぱり僕は劣ってる。そんな僕を、周りは見たいはずがない」

 

 僕は何も言えない、周りを無意識に避けてしまう理由を白状する。

 国は僕を支援しない。理由は使えないから。

 僕がみんなと同じような能力(ちから)を持っていないから、劣っているから、切り離しても問題ないと思ったのだろう。

 青葉さんは、僕の心の内を知ると、まるで励ますかのように、


「そんなことないよ! みんな天上君のことを待ってるよ!」

「僕が最後にみんなに会った時、何て言われたか知ってる? 『使えない無能は自分達とは違う。無能な奴は仲間じゃない』だって。僕は周りからの迷惑なんだってちゃんと気付かされたよ。それより前はまだ自分は役に立てるって思ってたけど、それを聞いたら、もう周りの迷惑にならないために現れないって考えるのは当然だと思わない?」


 青葉さんは、まだ何かを言おうとしたが、言えなくなったようだ。

 このネガティブな考え、捨てられる訳がない。言っていることは正真正銘の事実なのだから。

 僕は腕時計を見る。時計の針は7時55分、遅れてるからもう8時だ。


「あ、もう8時だよ、ホームルームとか朝読書とかそんなものあるんだよね。急がないと遅れるよ」


 彼女をここから追い出すようにそう言う。

 青葉さんは、少し動かなかったが、『ごめん、ありがとう』と誤っているのか感謝しているのか分からない言葉を言い、店を去って行った。


「いいのか?」


 店長が僕にそう聞く。


「はい、僕やっぱり邪魔なんですよ」


 流石の僕でも、今回は心が少し痛かった。

 


 

この話がもし面白い、先が気になる、と思った方は、評価もお願いします。


よく話の内容が分からない、理解不能という方は、感想で質問していただければ今の段階でお答えられるであればお答えします

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