19話
視点 天上 優
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???
「じゃあね、青葉さん」
校門前で、帰ろうとしている青葉さんにそう言う。
「うん、また明日」
青葉さんは僕に手をふりそう返した……すると、
「……なんて、言えないよ」
「え?」
手を振っていた手を下ろしてそう言う青葉さんに、僕は声を漏らす。そしてまるで分かっていたかのように話しだした。
「行くでしょ、雫の所に」
「……なんで分かったの?」
「分かるよ。さっきあんなに必死だったから」
僕の心の内を、青葉さんはとっくに知っていた。
「私もそう思ってる。でも天上君1人で行くのは反対……だから私も行く」
「え? でも」
「1人より2人の方がいいでしょ普通に考えて」
「そ、そうじゃなくて、青葉さんには危ない目をさせたくないよ」
「危ない目? そんなことは百も承知、そんな目と引き換えに雫が帰ってくるなら、私は自らそれを受ける」
真剣な眼差しで僕にそう言う。
ここまで言われたら断れないなぁ。
「……分かったよ」
僕は渋々そう答える。
だが確かに1人よりも2人の方が圧倒的にいい。
「あらあら、お二人でまた面白そうなお話を」
その時、聞いたことのある敬語が耳に入ってきた。そして目の前の道の奥から誰かが歩いてくる。
「ん?」
「あ、アリア?」
暗い道から這い出てくる低身長な人影の正体を青葉さんはすぐに見抜きその人の名を呼んだ。
「どうしましたか? 帰るのではありませんでした?」
「も、もしかして今の話を」
「終始聞いておりました」
「ですよねー」
少し大きめの声で喋っていたから、遠くでも内容が聞こえたのだろう。
「見逃して……くれないよね」
「貴方は何を考えているのですか? ついていくに決まっているでしょう」
アリアさんは当然のようにそう言う。
「「……は?」」
「普通に考えたら行きますでしょ。この雰囲気とかを考えたら」
「雰囲気の問題⁉︎」
僕は彼女の発言にツッコミを入れる。
「それに、流石に今回の学校側の考えはあまり呑めません。校長が今いないこの状態ではそうせざるを得ないのは仕方がないですが」
「え? 校長いないの?」
「今生徒会の人達とちょっと国外に」
「え? 生徒会あるの?」
「今その話はどうでもいいでしょう!」
今度は逆に僕が彼女にツッコミをされた。
「それで、いいですかついていっても」
「……いいよ」
「青葉さん?」
「人は多い方がいいからね」
「それなら、まあ……うん」
「決まりですね」
こうして、僕達は学校に無断で茅野さんの救出をすることになった。
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「ゲェヘヘヘヘ! どうよ調子は⁉︎」
「黙れ。人の少ない地域だとしても見つかる可能性があるんだぞ」
大きく不気味な笑い声で仲間の男は飲み物を飲む。
「プハァ……それがどうしたよ、返り討ちだ」
「お前はもう少しその傲慢をどうにかしろ。洗脳と記憶操作の陣はあと少しで完成する。起動すればものの1時間で設定した通りの記憶に改変でき、洗脳もできる」
「けどよ、お前その血の量だと」
床に背中をつけている少女の周りには、血で描かれている魔術文字が円状に展開されている。彼はこのことを言っているのだろう。
「死にはしない」
「だとしても、その陣の制御は全部お前がするんだろ。人の血は魔力同然だ。お前のそのすり減った魔力の量で制御できんのか?」
「この方が早い」
「ああそうかよ。別にお前が死んでも問題はねぇからな」
当然だ。しかし我が命は既に組織のもの。組織のために死ねるのならば本望。
そしてとうとう陣が完成する。
「起動」
囲んでいた血液が赤く発光し、暗い部屋を照らし出す。
第一段階成功。
「後は……ッ⁉︎」
「……誰か来たな」
この建物の周りには結界が貼ってあるのだが、その結界が反応した。
「行くかぁ」
「早く片付けろ」
「ああ、すぐ消すさ、ゲヘヘヘヘ!」