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18話

視点 天上 優

 壁に背中を預ける。


「ウ……ア……」


 どんどん薄れていく意識の中、僕は周りを見回す。砕け散ったホムンクルスの人工の体が地面に散らばっている。

 ああ、結局30近い数を相手にしたのか。あまり覚えてはいないが大体そんな感じだった筈だ。そして残念なこと体に刺さったままの6本のナイフを抜く力がでない。そのため刺さっているところから血がどんどん溢れ出る。


「い……たい、なぁ」


 僕はとりあえず腹に刺さっていたナイフを引き抜いた。そして能力を使い、元に戻す。だがとても痛い。ワイバーンの時とはまた違い、痛みで傷口が麻痺するようなことがないため、地獄だ。


 まずいな、意識がもう完全に飛びそうだ。


 壁に背中をつけた状態でズルズルと下に擦りながら座り込んだ。


「だ……め」


 目の前が光ったりが歪んだりと、視界まで不安定になっていく。そしてとうとう、


「……」


 限界を迎えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ンッ」


 目の中に光が入り込む。一瞬電灯かと思ったが、よく見てみると魔力灯の光だ。


「天上君!」


 僕の目覚めを確認すると、そばにいた青葉さんが叫ぶ。


「あ、青葉さん?」


 すると、青葉さんは僕に抱きついてきた。


「え? ちょっと青葉さん?」


 僕は驚いたが、青葉さんはそんなことお構いなしに強く抱きしめる。


「よかった、生きてて……」


 その声は震えており、それで泣いているのだと僕は感じた。


「青葉さん、僕は大丈夫だから、離れてもらっていい?」

「あっご、ごめん!」


 バッと一気に離れる。やはり少し泣いていたようだ。

 

 部屋を見回してみると、僕はここに見覚えがあった。


「それで、ここは?」

「学校の医務室だよ」


 ああ、だからか。


 そして僕はあることを思い出した。


「青葉さん! 僕は何時間くらい寝てた⁉︎」

「え? えーと3時間かな」


 3時間? そんなにも。


 僕はベットから降り、体に巻き付いていた包帯を強引に引き剥がして能力を使い傷を癒す。


「天上君⁉︎」

「こうしちゃいられないよ! 早くしないと茅野さんが」

「ユウさん、落ち着いてください」


 すると焦りに焦りまくっている僕に、声を誰かがかけてきた。聞き覚えのある声だ。


「ファルナ先生?」


 それはあまり良い顔をしていないファルナ先生の声だった。


「で、ですが先生!」

「ユウさん、貴方の言いたいことは分かります。目を覚ましたあの生徒に全て吐かせたので。あの組織のアジトも聞きました」

「ど、どこですか?」

「ここから南西にある廃屋敷です」

「それじゃあ」

「行かせませんよ」


 出入り口に向かおうとした僕をファルナ先生は止める。


「……なんでですか?」

「後のことは国に任せます。貴方は行かないでください」

「それはいつからですか?」

「早くて明日の正午です」

「……茅野さんが洗脳されるかもしれないんですよ」

「……」


 ファルナ先生は無言を貫く。


「私達にはどうしようもないからです。現に今動けるのはごく少数の教師、生徒は勿論、貴方に一緒について来いなどと言うわけがないでしょう」

「そんなことで動かないんですか? 生徒の身の安全を守るのが教師の務めですよね」


 僕はファルナ先生の両肩を手で押さえ込む。


「……」

「動きましょうよ。茅野さんの洗脳は今もう始まっているのかもしれないんですよ!」

「……だとしても」


 するとファルナ先生は僕の手を振り払い、顔面を殴った。


「ウッ」


 僕は吹き飛ばされ、床に背中を擦らせる。


「天上君!」

「無理なものは無理なんです」


 ファルナ先生は僕に鋭い視線を向けながらそう言う。僕は立ち上がり、先生のその目を睨み返す。


「先生にとって、生徒はなんなんですか? 生徒は大事じゃないんですか⁉︎」

 

 僕は声を張り上げてそう言う。


「……今日はもう宿舎に戻りなさい。青葉さんも、寮で休んで、明日また元気に登校してください」


 先生のその声は一切ぶれておらず、考えは変わっていないようだった。

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