17話
視点 天上 優
「は、速い速い速い速い!」
僕は全力でその光る蜘蛛を追いかけた。
右へ曲がり左へ曲がりまた右へ曲がり左へ曲がる、そんな体も頭も疲れさせるような道のりを蜘蛛は進んでいる。そして何より速い。
「ま、待ってって」
僕が蜘蛛にそう言うと、まるで僕の意思に応えたかのように止まってくれた。
「あ、あれ、分かってくれた?」
ああ、分かってくれるんだな、と思ったのだが、光る蜘蛛はその光をだんだん弱くしていき、やがて光を完全に失い、動きを止めた。
ん? 死んだ? ってことは、この道?
現在地は建物と建物の間の細い道、一応場所は説明できるな。そう思った僕はポケットから通報石を取り出して使った。
暗い道を進む。進んでいくと、どんどん道が開けていく。不気味だ。
僕は歩きながら手袋を外した。いつ何が起こるのか分からないからだ。
「ん?」
その時、僕は違和感を感じ、動きを止めた。その違和感は周りの空間のことではなく、自分自身にだ。
何か……聞こえた。
『……い』
また聞こえた。今度は少しボリュームが大きく聞こえ、
『おーい』
そして呼ばれた。僕は当たりを見回したが、誰もいない。
『聞こえるなら返事をしろ』
「ッ⁉︎」
いや、違う、これは僕の頭の中に直接流しているんだ。
『その反応は聴こえてるな』
それは男の声だった。僕はその声に応える。
「だ、誰ですか?」
『さっきから我らを追うのはやめてもらえるか?』
「ッ⁉︎」
追う? つまりさっきの蜘蛛は、茅野さんを誘拐した人達を追っていたんだ。
『既にこの空間には我以外は魔法が使えない結界を張った。さっきの蜘蛛はもう使えんぞ』
そうか、だからあそこで力尽きたのか。
「茅野さんを返してください!」
『それはできん。彼女は我らに必要だ』
「どうするつもりですか?」
『彼女は我々を拒否した。その場合であれば、彼女を無理矢理にでも洗脳、記憶操作をして従わせるつもりだ』
「なんでことを……」
まずい、早く助けなきゃ。でも、相手はかなり内容をペラペラ喋ってくれた。これをみんなに報告すれば、
『当たり前だが、貴様は生きて帰らせるわけにはいかない』
ですよね。
すると、道の前後から何人もの人が走ってきて、僕を囲んだ。その人達に顔は無く、あるのは白い肌だけだった。
「なっ」
『ホムンクルスだ、それらに貴様を殺させる』
そのホムンクルスの手をよく見てみると、ナイフが握られている。しかも両手に。
『それでは』
「ま、待って! ちょっと!」
まるで電話を途中で切られたかのような雰囲気に包み込まれる。
ふざけるないでよ……連れて行く? 本当にふざけないでよ。でもつまり、近くにはいるってことだよね。なら、
僕は拳を握り構える。基本の型などない、我流だ。
助ける……助けるんだ……茅野さんを。
僕はホムンクルスが一斉に動くよりも先に動き出し、目の前の顔無しの顔に思いっきり拳を叩き込んだ。
「でゃぁ!」
能力をそれと同時に使う。それと同時に、そのホムンクルスの顔は砕け散り、地面に体を崩した。
ホムンクルスは良質なほど使用者本人が使う魔力が減る。魔力については調べたりしたので、筆記試験の時は魔力関連の問題だけで点を取れた。ということは、このホムンクルス達は魔力の抑制力が弱い。
「けど、数が多いな」
見えるだけで20はいる。この数はやれるかは分からないが、やる。
「行くぞ!」
そして僕は次のホムンクルス、そしてまた次、その次と、どんどんその顔面を殴っていく。しかし、
「グッ⁉︎」
7体目に差し掛かった時、とうとう斬られた。
僕はすぐに能力を使い再生させた。だが、
「グアッ⁉︎」
そこからペースが崩れ、さらに斬られる。
この能力は再生はできるものの、痛みはどうにもならない。なので、
「ハァ、ハァ」
精神力などが削ぎ落とされて行く。そして、今度は背中を刺された。ここで問題が発生した。
取れないのだ。取らなければ再生はできない。しかも深く入ってしまっている。つまり、どんどん血は流れていき、痛みも増し、精神力をズタボロにする。
だけど、こんなことで、
「ハァ、ハァ、クッ、やられるかぁ!」
その後、学習したホムンクルスは、肩や脚、腹などを斬るのではなく刺すようになっていき、そのつど僕の意識は、どんどん薄れていった。