16話
視点 天上 優
もうすっかり太陽は沈み、辺りは闇に包み込まれる。そんな中でも、僕とブレア先輩は腕の動きを止めない。
「本当に、なんでゴミくらい持ち帰らないんですかね」
「無理な話だよユウ、貴族と救世主様なんかがゴミなんて持ち帰る訳ないだろ」
「デスヨネー」
こんな時間でも、僕達は門の前の貯められたゴミを箒とちりとりで回収しなくてはならない。
「環境問題とかも考えて欲しいな」
この世界に環境問題などがある筈もないが、そんなことを呟く。
僕達への感謝をしてくれないあの浮かれている人達が掃除をしたらどうなるのだろう。そんなことを考えていると、
「天上くーん!」
僕を呼ぶ声が聞こえた。呼ばれた方向は、学校を北とすると西からだ。
その方向がその方向に顔を向けると、青葉さんがこっちに向かって走ってきていた。
「あ、青葉さん?」
走っている青葉さんは、すごい焦っているように見える。何かあったのだろうか。
「あ、天上君、ハァ、大変だよ」
「と、とりあえず落ち着いて。それで、一体どうしたの?」
「……実は、まだ雫が帰ってないの」
「え?」
その内容は、僕が考えているよりもずっと衝撃的なことだった。
「まだ……って……」
時間は既に10時を回っている。どう考えてもおかしい。
「アリアに聞いたら、帰ったのは帰ったのは5時頃、それから5時間も帰っていないなんて、何かあったに違いがないよ! 今、アリアも探してくれていて、天上君も、学校には」
「当然いる訳ないよ! さっき見回りもしたし」
本当にまずい。でも、ボディーガードの人がいながら、なんで。
「……とりあえず、僕も探すよ。ブレア先輩」
「ああ、帰宅している先生方にも伝えておく。2人は探してこい」
「「はい!」」
僕と青葉さんは2人で夜の道を駆けだす。
街灯は申し訳程度に道を照らしているが、あまり頼りにはならない。
走っていると別れ道に差し掛かった。
「二手に分かれよう。何かあったら通報石で連絡するから、これ待ってて」
僕は通報石を青葉さんに渡す。
「分かった、顔つけて」
「お互い様」
僕達はそれぞれで単独行動になった。
その後も捜索したが、1時間経っても見つからず、夜の11時を迎えた。人がなかなか外を出歩かない時間だ。
「ハァ、ハァ、一体、どこにいるんだ?」
僕はずっと走り続けていたため息が上がってしまった。
もうお手上げだなんて考えない。絶対に見つけ出す。
そんなことを考えている時だった。
「ん?」
とあるものが目に止まった。それは建物と建物の間で僕の方を向いている黒マントに蜘蛛や蠍のような柄の仮面を被った人だった。
最初はその仮面は浮いているのかと思ったのだが、よく見てみると、2メートル近い高身長がかけていたのだ。
「おやおや、こんな夜中に探し物かな?」
急に話しかけてきて少し驚いたが、僕はその人にしっかりと答えた。
「……人を探していて」
するとその人は白い手袋を付けた手を顎に当て、
「それは、騎士育成学園の制服を着た水色の髪をした少女かな?」
そうその人は衝撃の言葉をさらっと言う。
「し、知っているんですか⁉︎」
「ああ知っているとも。夕方の頃に人避けの結界がはられた大通りで黒ずくめの集団に連れて行かれていたね」
「え?」
つ、連れて行かれた? 茅野さんが……
「なんで……なんで眺めていたんですか?」
僕の中でそのような疑問がよぎる。見ていたのなら、何故助けなかったのかを。
「ああ、君はそのような人間か。群れをなす獣達に無謀ながらも立ち向かうような。私は自分のことしか考えていないからね、そんなことはできないよ」
当然のようにそう言われたが、僕は何も言えなかった。
「……情報提供には感謝します」
さらに不安になった僕は再び行動に入ろうとする。すると、
「待て待てそう焦らない焦らない。まだその行き先について行っていなかったね」
仮面の人は黒いマントの中を少し揺らし、
「これについて行くといい」
足元から光る蜘蛛を走らせた。
「あの蜘蛛について行けば、彼女の場所も分かる。心配しなくてもいいさ、噛みはしない」
蜘蛛は素早く動き出し、僕を導こうとする。
「あっ、ちょっと」
僕は急いでそれを追おうとする。その時、僕に再び疑問が頭の中をよぎった。
それを聞こうと黒マントの人に再び顔を向けると……既に消えていた。
あの人は一体なんだったのだろうか。そして何故あの人は人避けの結界の中にいられたのだろうか。