14話
視点 天上 優
「それじゃあ、あとはお願いします」
僕はそう言いながら医務室を出る。
あれから約3時間、三原君はかなり危険な状態だったが、どうにか一命は取り留めた。僕の能力がなかったら、確実に死んでいたらしい。本当に良かった。
だがまだ全てが解決した訳ではない、なので彼にはこれから事情聴取などがある筈だ。
僕は綺麗に掃除された廊下を歩いていると、向かいからファルナ先生が歩いてきた。
「先生、三原君はどうにか大丈夫でしたが、目を覚ますのはまだ先だと思います」
「そうですか、お疲れ様です」
先生は落ち着いた顔をしているが、その中には微かに怒りのようなものを感じ取れる。
「貴方は」
「はい?」
「貴方は、彼を許せるのですか?」
「……」
許せるのか、か。
そこまでは考えてはいなかった。でも今の自然な気持ちは、
「……許すことはできませんね」
「それでは何故助けたのですか?」
ファルナ先生は不思議そうにそう言う。
確かに、自分を、茅野さんを殺そうとした人を許せないのなら、その人を普通なら見捨てるだろう。だけど僕は、そんなことを考えてはいない。
「それは勿論、許せませんよ。この案件はしっかりと償ってもらいたいです。ですけど、だからってその仕返しで見捨てるって、それおかしくないですか、人として。僕にはそんなことできませんよ」
僕はそう先生に言うと、
「貴方は人として甘すぎます。理由にすらあまりなっていません」
と呆れたように言ってきた。
そして僕の脇を通っていこうとする。
「で、ですよね」
「……ですがその考えは、嫌いではありません」
「え?」
ファルナ先生は、すれ違いぎわにそう言った。
僕はつい声が漏れてしまったが、先生はそんな僕を置いて、奥へ歩いていってしまった。
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翌日、正午
僕は今現在、2年生の教室前廊下の掃除中だ。
昨日の案件があった後のバイトでも、そこまで怠くはない、のだが、
「あのーそこどいてもらえます?」
僕はとある教室の前でずっと腕を組みながら立っている黒と白の装備を見に纏った男4人にそう言う。
だがその4人は、僕の声に一切耳を傾けず、そのままの状態でいた。
「あのー聞いてます?」
「……」
その時、チャイムが鳴った。
すると、
「ウァッ⁉︎」
なんと男達は一斉に動き出し、出てきた生徒の周りに背を向けながら立った。
その生徒というのは、茅野さんだ。
「茅野さん、この人達どうにかならない?」
僕は茅野さんにそう話す。だが、
「おいお前、気安く話すな」
そう1人の男に言われた。
「あの、その人は決して怪しい人なんかじゃなくて」
「私達は貴方に人が近づくのを阻止しろと言われた。これも命令に従っているまで」
あーなんて命令に忠実で面倒くさいのだろー。
こんなことを思っているなどと言ったら殺されるので言わないでおこう。
「でも、流石にここまでとは」
「貴方はもしもこの男が貴方自身を狙っていたらどうするつもりだ?」
いや、ありえないでしょ。
「そ、それは……そんなことある訳……」
「とにかく、ことが解決するまでは、彼女には近づくな」
そう言うと、その人達は茅野さんを連れて歩いていった。
「ことの解決って、まだ情報も不十分でしょ」
僕は暗い顔をしながら歩いていく茅野さんを見ながらそう呟いた。