10話
視点 天上 優
食堂中に響き渡った声は、明らかに男子のものであった。
劣等人という言葉は、恐らく僕に向けていると思ったので、その声の方向に顔を向ける。
するとそこにいたのは、椅子にドカッと座っている男子数名、今朝の人達だった。しかも、あの時よりも人数が多い。
そしてその中の1人が声を張り上げる。
「ここはお前のような奴がいて良い場所じゃない、さっさと荷物まとめて出ていけ」
周りの目が彼に集中する。
「み、三原君」
ん? 三原? どうにも最近元クラスメートの名前を忘れてしまっていたのだが、彼の名前を聞くとすぐに思い出す。
確か彼は元いた世界で社長の息子だった筈だ。なので、あの世界ではかなり荒れていて、問題を起こしても社長の息子だからなのかなんともなかった。
「何故そんなことを言うのか、説明をしてもらってもよろしくて?」
アリアさんが彼に鋭い視線を当てる。
「いやぁ、俺の完璧な1日に支障が出るからな。この空間の中で底辺野郎と同じ空気を吸うのはごめんだからな」
「そんな理由で……」
青葉さんは拳を握る。アリアさんも顔の表情がだんだん険しくなっていっている。
「ほら、出ていけよ。ここはお前なんかが居てもいい場所じゃねぇ、俺達に謝罪して消えな。周りの奴もそう思ってるぜ」
僕は周りを見渡す。
周りにいた人達は、彼の声に何も反応せずに無言のまま辺りを見回していた。
「なあ青葉、お前もそうだろ?」
次に彼は標的を青葉さんに移した。
「な、何が」
「何がって、そいつを構うことに無理をしなくてもいいんだぜ」
「……今、なんて言った?」
青葉さんの声がワントーン下に下がる。さらに握っている手が僅かに光りだしている。
まずい、ここでそれは駄目だ。
彼女は『ソウル・リリース』をしようとしていると僕は察した。
「え?」
僕がそうさせないためにある行動をとった。
それは……
「周りの皆さんに、大きなご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
僕は周りに頭を下げた。
「あ、天上君、頭を上げて。謝ることなんて」
「茅野さん、今はこうするのが1番いいんだ」
僕はそう言い残し、その場を後にする。
「もう来るなよ劣等人」
扉を通ると同時にそう言われる。だが僕はその言葉に構わずに出ていった。
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「なあユウ、ちょっといいか?」
生徒が授業をしている時間帯、ブレア先輩が僕に声をかけてきた。
「はい、なんでしょう」
「聞いたぞ、さっき食堂で」
「あーはい、少し問題を起こしまして」
「そこじゃない、お前自身は大丈夫か?」
僕自身?
とくに肉体的にも精神的にも問題はないか。
「大丈夫ですよ」
「そうか、何かあったら言ってくれ、なんでも相談に乗るぞ」
「あ、ありがとうございます先輩」
「それはそうと、もうそろそろ授業も終わるな。私は違う階の掃除をするから、ユウはここな」
「はい」
その後彼女は下の階へと降りていった。
数分後、終わりのチャイムが鳴り響いた。
「あ、終わったかぁ。それじゃあ……ん?」
チャイムが鳴ると同時に早歩きで教室から飛び出してきた人がいた。あの青い髪は、茅野さん?
「おーい茅野さ」
僕は声を止める。
茅野さんの後ろからは、三原君を含めた数名が現れたからだ。
三原君達は茅野さんと少し歩きながら話し、下の階へと向かった。
ん? なんだ、この胸騒ぎ。
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