96.悪徳貴族
ラルクとの取引から、半月が経過したある日のこと。
魔王国の国境に設けた相談窓口にて、来客があったと火竜から報告があった。
俺が現場へと向かうと、太った男が窓口で騒いでいた。
「いつまでわしを待たせるのだ! このわしを誰だと思っている! 天下の帝国の財務卿マーゴンだぞ!」
「も、申し訳ありません、陛下は多忙の身ですので、もう少々お待ちを」
「やかましい! さっさと連れて来いこの無能が!」
窓口で対応していた職員に、マーゴンが手を上げようとする。
「おやめください」
俺はその手を掴む。
「ジーク様!」
「あとは俺がやる。下がってなさい」
職員はぺこぺこと頭を下げながら、離れていく。
「待たせて申し訳ない」
「まったくだ! わしが来てやっているのにこんなに待たせよって」
なんだこいつ?
急にきて失礼な奴だな。
それに職員に手を出そうとしたし。
「喜べ、貴様らケダモノの国に良い話を持ってきてやったぞ」
すぐに突っぱねたいところだが、まあいちおう話は聞こう。
相手は他国のお偉いさんみたいだしな。
応接室に通し、マーゴンからの話を聞く。
要約すると、魔王国の生産物を帝国が買ってやる、というものだった。
「貴様の所の人工魔力結晶に皇帝陛下はご興味を示されておるのだ」
「なるほど。別に売るのは構わない。じゃあ商談に入るか」
「その前にだ、わしらと手を組むのであれば、今後一切他との取引を禁じさせてもらうぞ」
「はぁ……?」
「当然だろ。天下の帝国が、貴様らのような畜生の集まりである怪しい弱小国からわざわざ物を買ってやるのだ。それくらいのサービスはして当然だろうが」
どうにも魔王国は、世間的に見れば弱小国のようだ。
当然だ、魔王が交代して、人との交流を始めたのはつい最近。
歴史と伝統のない国なのだ、舐められて当然だろう。
「どうした? 貴様らは帝国という顧客を得られ、莫大な利益を得られる。良いことだろう?」
完全に舐め腐っているなこいつ。
「まあ別に? わしらは貴様らの所から買わずともよいのだがなぁ~。ほらさっさとうなずけよ」
ふぅ、と俺は吐息をついていう。
「お断りするよ。帰ってくれ」
「なっ!? なんだとぉ!」
マーゴンは声を荒らげる。
「馬鹿か貴様! 帝国との取引ができるのだぞ!? 名誉なことだろうが!」
「名誉なんてどうでもいい。おまえは俺たちの国をケダモノと馬鹿にした。それに国民である受付職員にも手を上げようとした。そんな失礼なやつと手を組みたくない。帰ってくれ」
ぐっ、マーゴンは言葉を詰まらせる。
「ば、バカな奴だ! このビッグチャンスを私情でふいにするとはな! こんなのが国王なんて国民も可哀想だなぁ!」
「国民を守るのが俺の仕事だ。おまえらのような礼儀も知らない国と手を組んだら、いずれ国民に被害が及ぶ」
「帝国を馬鹿にしたな貴様ぁ! おい、入ってこい!」
ぞろぞろと、帝国の兵士たちが入って来る。
どうやらマーゴンの護衛でやってきたらしい。
「帝国を侮辱した馬鹿どもを殺せ! こいつだけじゃない、国民全員だ」
「そんなこと、させるかよ」
俺がにらんだ瞬間、どさっ……! とその場にいた帝国のやつらが、泡を吹いて倒れる。
俺はマーゴンに近づいて、頬を叩く。
「はっ!? き、貴様! 今何をしたぁ!?」
「何にもしてない。そっちが勝手にビビッて気絶しただけだろ」
「し、信じられん……帝国の屈強な兵士が、こんなガキににらまれただけで気絶するなど! 今の魔王は日和見な腑抜けではなかったのか!?」
なるほど、そういう解釈をするやつらも出てくるのか。
「俺を腑抜けと馬鹿にするなら別にいいさ。暴力は好きじゃない。けど俺の国の奴らを馬鹿にする相手には容赦はしない。次は、わかってるな?」
マーゴンはその場で腰を抜かし、ガタガタと震えだす。
「お、おのれぇ! て、帝国の貴族に手を挙げたのだ! 貴様ぁ! お、覚えてろよぉ!」
「やれるもんなら、やってみろ」
「ひっ!」
部下を残して、マーゴンはひとりで逃げて行くのだった。
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